第27話:謁見1

 貴族でありながら、勇者の専属メイドをやらされているのだから、何か理由があるのかもしれないが望まないものは望まない。


 カトレアさんが部屋に訪ねてきて、どれくらい経ったか分からないが、不意にコールキューブの音がした。


 確認するも俺のではなく、カトレアさんの所持しているものらしい。気付いたカトレアさんは失礼しても? と言うので許可して出てもらった。


「召喚者の皆様が移動を始めました。食堂集合です。」

それだけ言って切られた。まさに業務連絡。


「シズヤ様、どうやら皆様の御支度ができたようです……。」

まだほんのり赤い頬のまま教えてくれるカトレアさん。


「じゃあ俺も着替えて支度します。」


集合は食堂か……。


「畏まりました。その……お手伝いは──」


「いりません。部屋を出てもらっていいですか」

少し食い気味に断る。


「か、畏まりました。あ、これ……私専用のものです。」

少し気圧けおされたカトレアさんにコールキューブを手渡された。


 これで三つ目、そろそろミニバッグみたいなのが欲しい。ポケットではかさばる。


「ありがとうございます。」


 ちなみに全部色が違うので判別は可能だ。ロイルさんは水色、リオラは白色、カトレアさんはオレンジ色。


 小さいとはいえ、こんな風にごろごろ持ち歩いてる物なのか? と思ったが、他の人は専用である必要も隠す必要もないもんな……カトレアさんはともかく、宰相やギルマスの連絡先を知ってるなんて普通じゃない。俺だけか……。


 それでも、コールキューブを作っている人がいるはずだ。後で誰か調べて、会いに行ってみるのもいいかもしれない。もしかしたら、一つにできるかもしれないし……その都度、接続先を切り替えればいいだけだと思う。


 寧ろコールキューブを、スマホのように考えると、何個も持っている方が不自然では……?


「これから何か用事がある時でも、なんでも構いませんのでお呼びください。私は専属ですので他に仕事はございません。」

遠慮は無用です。とカトレアさん。


他のメイドさんとは違うってことか……貴族だしな、そうだよな……。


「分かりました。その時はよろしくお願いします。」

にこりとロイルさんスマイルな俺。


「なんなら常にお側に居ても問題はないのですが──」


「大丈夫です。必要な時、お願いしますね」

スマイルを崩さず言外にいいから早く部屋を出るよう促す。


 やっと、はい……と引き下がってくれた。そのままカトレアさんにはなかば押し出すように部屋から出てもらう。


 緊張が解けたからか、俺が手を出さないと分かったからか、グイグイくるようになったな……。取り敢えず支度させて欲しい。


俺は扉を閉めて着ている服から洗濯されて綺麗になった制服へ着替える。


 洗濯にはやっぱり魔法を使ったのだろうか? 水魔法で洗って、風魔法で乾かすとか……そんな感じかな。


 遅れると五月蠅うるさいのがいるし、迷惑もかけるから少し急いで着替えて、食堂付近までは転移で行くことにした。



◆───────◆───────◆



 そしてやって来ました、食堂付近の通路! 食堂付近でよかった……まだチラホラ扉の前にクラスメイト達がいる。


俺は如何いかにも急いできたように転移先から小走りで食堂へ。


 中に入ると扉から離れたところに、気怠けだるそうな中崎と、愉快な仲間たちを見つけてしまい、転移もいいが影に入るとか、透明人間みたいになるとかもいいな……と考えてしまった。


そんなことを考えていると、ふと視線を感じたのでそちらをそっと見る。副委員長だった。


 しかし以前のように近付いて来たりしない。中崎がいるから気を遣ってくれているのだろう……視線はビシバシ感じるが一応感謝。


 そして俺が着いた後に、何人か入ってきておそらく全員揃った頃合いで、委員長が騎士団長を連れて登場。


「みんな! 訓練で疲れているかもしれないけどこれから国王様に謁見……お会いできるらしい。そこで改めて賠償の話やこれからのことを話すことになる。」


委員長の発言にざわつくクラスメイト達。


「けど一つだけ、発言を許されない限り、言葉を発しては駄目だからね? 国王様は元の世界でいう、天皇陛下だと思うように。絶対失礼の無いようにね。」

何か言いたい時は、挙手をするようにしてくれ。と委員長。


「俺らは賠償してもらう側なのにへりくだれって?」

発言したのは中崎と愉快な仲間たちの一人、取り巻きAとしよう。


「その通りだ。国王様のお言葉次第では賠償してもらう側だとしてもその賠償がなくなったり、不敬罪で最悪処刑もあり得る。」


「はあ? 踏み倒すってことかよ」

中崎と連んでいるからか、似たような奴っぽい取り巻きA。


いや、類が友を呼んだのか……。


「ここは異世界なんだ……元の世界とは違う。命は元の世界よりも、軽いって覚えておいてほしい。特に、国王様のお言葉は絶対だよ。」


それきり舌打ちして黙る取り巻きA。


「みんなも分かったね? ちなみに、国王様の前に立ったら左膝をついて、ひざまずくようにしてね。発言が許されたら立って発言終わったらまた同じ姿勢にって感じで。じゃあこれから謁見の間へ移動しよう。」


 なんか委員長いつの間にか、この国に馴染むというか……色々受け入れすぎでは? この国と俺たちの関係は、遜り過ぎても良くないと思うんだけど。一応被害者だし。


 委員長がどうしようと、俺には関係ないけど……いいように利用されてるのを見るのもなんかな。一度は助けてもらったし、取り敢えずは様子見かな。


 委員長には、俺のカモフラージュで勇者(仮)になってもらわないといけないんだから、利用されて勝手にぽっくり逝かれては困る。場合によっては釘を刺すか……。


移動しようと言われ、俺たちは委員長を筆頭に騎士団長について行く。



◆───────◆───────◆



 そしてやって来ました、謁見の間の扉前! 多分、国王さまが椅子にふんぞりかえってる部屋だと思われる。


扉の前に着くと騎士団長が一言。


「くれぐれも粗相のないようにな。」

と念を押し


大きな扉を両手で開いた。



 中は見た感じ思っていた通り。入口から真正面、部屋の一番奥に一つだけある椅子に座る国王さま。そこへ続くように敷かれている真っ赤な絨毯じゅうたん


 そして、その絨毯を挟んで少し豪華な鎧の騎士が並び、その背後には身なりの良い三〇歳から五〇歳未満くらいの男性が等間隔で並び、その背後に先ほどの騎士よりは鎧が普通な騎士が並ぶといった感じだ。


 おそらく、手前の豪華な鎧の騎士は王宮騎士、奥の騎士は普通の騎士、その間の身なりの良い男性たちは貴族というやつだろう。


 もしやこの部屋、現在……重要人物が勢揃い? ギルマスやサブマスはいないみたいだけど……。


 室内の人物を分析していると、扉を開き切った騎士団長が、入るぞ。と一言。それに委員長が頷くと、部屋の中へ歩みを進めたので、それを見てクラスメイト達含め俺も後に続く。


そして室内の人間の視線をビシバシ感じながら国王さまの方へ歩いて行く。


 部屋の中央辺りに来たとき騎士団長に、止まれ。と言われて俺たちは歩みを止める。止まれと言った騎士団長は、俺たちが止まったのをチラリと確認すると、国王さまに向かって跪いた。


それを見て、同じように跪く委員長を見て俺たちも全員跪いた。


「陛下、勇者一行をご案内いたしました。」


騎士団長は全員が跪いたのを確認すると国王さまへ報告。


報告を聞いた国王さまは、うむ。よくやった下がれ。とだけ騎士団長に言う。


 少し驚いた、俺だけで会った時とは国王さまの雰囲気が違い、あの時よりも眼差しが少し冷たい感じだ。確かあの時は、謁見ではないから堅苦しいのは──とか言っていたか……使い分けているわけだ。


「召喚者たちよ、よく来た。はこのロズレット王国国王ザイルズ・レ・フォル・ロズレットである。此度こたびの召喚での不手際をびよう。しかし余は王であるが故に示しをつけねばならん。よって其方らに頭を下げることは叶わぬ。許せ」


発言を許可されていないので無言の俺たち。


 王様、というか王族が頭を下げないというのは普通な気がする。下の者に示しがつかないから。それくらい俺でも知ってる。


 でもそれを考えられる人がこの中にどれだけいるか……受け取り手によっては、謝る気がない。と感じることもあるだろう。面倒ごとがなければいいが……この後の話次第か? 謝罪として賠償の話になるだろうな。


「しかしそれでは、腹の虫はおさまらんだろうと思い、謝罪の意として其方らに賠償することにした。」

その言葉のあと宰相であるロイルさんを見る国王さま。



 もう俺の中で、宰相って立場は国王さまの執事にしか見えないんだよな……。だからつい、油断してしまいそうになるけど、油断大敵なのがロイルさんです要注意。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る