第25話:初代さまに感謝

 ふむ、このロズレット王国は見た感じ城を一番高い所へ、その下に街、またその下に街と、壁と門を挟んで分かれているらしい。


 国の外壁ほど高くはないが、人間がどうこうできる高さじゃない壁がへだてている。城の直ぐ下の街とその下までは門が……ずいぶん厳重だな。


《あれは貴族の街よ。》

教えてくれる女神さま。


《貴族、ですか?》


《そう。城の直ぐ下の街は〖上級貴族街〗その下は〖下級貴族街〗そしてその下の外壁までが一般の居住地ね。》


《へぇ……》


 そういうのを聞くと、更に異世界って感じだ。しかし、よく異世界もので中世のヨーロッパに似た文明レベルだと聞くが……見ただけじゃよく分からんな。


 そもそも、中世ヨーロッパに詳しい前提で書かれてるのが分からない。博識な人なら知っているんだろうけど、俺は他国の過去の文明に興味を持ったことはないし、調べたこともないので知らない。常識だったらどうしよう……。


 移動手段は、飛行機や電車はもちろん車は無く、基本馬車か歩きのどちらか。そのどちらかなら当然、馬車への乗車賃は高いだろうな……。俺は使う機会ないだろうけど。


 食べ物はある程度なら鑑定で品質が見れるとはいえ、見れない人もいる……病気にかかりやすいのでは? 医療はどれくらい進んでいるのだろう? ……衛生面がすこぶる心配です。


王城には大きな風呂があったが、一般的なものではない気がしてる。


 元の世界のように、一家に一台は風呂完備なんてことはなさそう。いや、土地によっては、風呂が付いていないアパートなんかもあって、近くの銭湯へって感じだったか……尚更なおさら風呂は一般的ではなく、毎日は入っていない可能性が濃厚だ。


 石鹸や消毒液なんてのもないだろうし……仮にあったとしても高そう。貴族以外には買えなかったりするかも。そんな状態で料理……あ、無理。


 やばい。異世界料理に興味はあるけど、同時に怖さも感じてしまった。気になる料理があったら、食材を聞くなり見るなりして自分で料理しようかな……。


 幸い自分の食事は自分で用意してたから料理はできる。こうなると、お金だけよこして俺を放置していた親戚には、感謝するまであるかもしれない。この世界で、料理ができないのは厳しそうだ……。


《衛生面は、初代勇者であるアヤメが来る前よりはマシなはずよ? あの子が頑張ってたから。湯屋なんかも建てさせていたし、それほど酷い状況ではないはず……その頃から変わっていなければね。》

一〇〇年経ってると流石に分からないわ。と女神さま。


《おお! 初代さま! ありがたい。変わってないことを祈るばかりです。寧ろ更に良くなっていてくれたら御の字っ》


初代さまに感謝。想像よりは酷くなさそうでなにより。


《アヤメのおかげで、魔物は減り衛生面は改善され、他国より住みやすくなったこの国への往来や移住は増えた。だからここまで大きな王都があるし、人口も多いのよ。》

ここもの。と女神さま。


 人が住めないって……そんなに酷かったのだろうか? 想像するだけで無理です。生きていける自信ない。


《それにしてもシズヤって料理できるのね。作らず買ってしまうことも出来たでしょうに……》

偉いわね。と女神さま。


《はい。流石に店のような味、とはいきませんが……普通に食べられるくらいには出来ますよ。》


 こっちの食材も、調味料もよく分からないから最初は大変だろうけど、練習すればできるようになるはずだ。


《じゃあこっちで満足のいく料理が、できるようになるのを楽しみにしているわ》

ふふっ と女神さま。


《はい! 俺が味見して大丈夫そうなら、ぜひ女神さまに一番に食べていただきたいです。》



 見渡した感じで、取り敢えずにぎわっている通りへ行ってみることにしよう──と思ったけど、魔物に関する物ならもしかして、冒険者ギルドで売ってたりしないだろうか?


 前回は初めてだったから、テンパって周りを見れなかったけど、もう平気だろうし確認だけでもしに行ってみるか。無ければ無いで、いい店教えてもらったりすれば、ぼったくられることもあまり無いだろうしな。


 転移を使ってもいいが、現在位置から別段遠いわけでも無いので歩くことにした。転移に頼りきりで、歩かなくなったら足腰がおとろえそうで怖いっていうのもある。



ゆっくり歩いてみて、改めて元の世界との違いを感じる。


 当然ながら車は無い。馬車はあるけど、車のように行き交うほどではなく、一台通るくらいで他はみんな歩きなので歩きやすい。


 それに普通に人間もいるけど、人間に猫耳やら犬耳やら、なんの動物の耳か分からないようなのまで、尻尾とセットで生えていたりして、ハロウィンに近い感覚になる。しかしそれが、本物であると主張するように動いているので、つい目で追ってしまう。


 ちなみに全身が毛で覆われて、人間に獣耳ではなく犬猫が人間のように歩いてるようなタイプはいない可能性が高い。見当たらないし。


 両方存在していると好みに分かれるらしい、愛読者Kたちが議論してるのを聞いたことがある。もふもふは捨て難いだの、獣要素は欲しいが人間要素も欲しいだの、嫁にする前提で話していたからよく分からん。


 今見ている感じでは獣耳や尻尾がある、いわゆる獣人と人間が多い。サブギルドマスターの、エルフさんみたいにエルフは歩いていない。ここが少ないだけだろうか? 後でこの世界の種族について調べてみるのもいいな。


《教えるわよ? 昔とあまり変わってないだろうし》

と女神さまが提案してくれたが


《いえ、こういうのを自分で調べるのもまた、大事なことだと思いますので。》


 じゃないと俺も、委員長に頼りきりのクラスメイト達みたいになってしまう。ありがたいけど気を付けなければ……おんぶに抱っこは嫌です。


あ、学校で習うかもですね。剣や魔法を教えるだけが学校ではないでしょうし。


それもそうね。と女神さま。


 そんなこんな、歩きながら考えたり女神さまと話していたら、いつの間にかギルド前。


 やって来ました、二度目の冒険者ギルド! んー、なんとなく初回のせいでわくわく感は無いな。


意気込まず普通に入る。


時間帯のせいか人は多くないみたいだ。


《昔もそうだったわ。多分冒険者って朝イチから活動する人がほとんどなんじゃないかしら? 朝イチに張り出されたクエストを夜までに達成して戻ってくる。そんな感じだったと思うわ》

アヤメはあまり冒険者と関わらなかったから曖昧だけど、と女神さま。


なるほど。納得。


 じゃあ明日は朝イチからか……朝は苦手なんだよな、何時に起きるべきなんだろう?


《それこそ鐘が鳴ってからじゃない?》


あー……便利だなあ鐘くん。


「君、今から? 初心者用の実入みいりが良い依頼クエストはもうないわよ?」

ご親切に教えてくれたのは初回とはまた違うお姉さん。


 改めて掲示板を見ると、恒常こうじょう依頼と書かれた貼り紙しかなかった。掲示板の前でぼんやりしていたから声をかけられたみたいだ。


「ああ、いえ大丈夫です。」


依頼を受けるのは明日からなので、今は掲示板に用はない。


「そう? じゃあどんな要件かしら」

もしかして……受付嬢ナンパ目的だったりする? とお姉さん。


 えぇ……そんなの目的にギルドに来るやつもいるってことですか? それどこの中崎です?


「それも違います。あの、袋とかってギルドに売ってたりしませんか?」

魔物を入れる為の……と身振り手振り言う俺。


「〖納品袋〗ね? あるわよ。大・中・小であるけど、どれがいいかしら。小でゴブリン一体、中でゴブリン五体、大でゴブリン十体が入る袋の大きさよ。値段は小が銅貨五枚、中が銀貨一枚、大が銀貨五枚です。」

どれにしますか? とお姉さん。お金の話になると敬語とは、やり手な予感。


 納品袋っていうのか。ゴブリン? 確か小鬼だったかな? 大きさなんか知らないんだが……ここで聞くのは変に思われるかな?


《シズヤ、ゴブリンっていうのは大体人間の三歳から五歳の子供くらいだと考えたらいいわ。》

上位種になると大きさは変わるけど、と女神さま。


 なるほど。ゴブリンは幼稚園児の子供くらいと……。だとすると──いや、でも大は小を兼ねるか。大を買っておいて損はないだろう。


「では大の袋をください。」

銀貨五枚を渡しながら言う俺。


「かしこまりました! 少し待っていてね」

銀貨を受け取り、カウンターを越えておそらく袋を取りに行くお姉さん。


それから五分くらいで戻ってきた。


「お待たせ! 魔物を討伐したら、それをそのまま入れるわけじゃなくて、討伐証明部位なんかを、討伐の証として持ち帰ればいいから、大の袋があれば困ることはほとんどないわね。これに魔物の討伐証明部位が書いてあるわ、魔物によって違うから気を付けてね。」

と何やら袋プラスα俺に渡しながら片目をパチっとするお姉さん。やはり、やり手だ!


 俺が分かってないのを見抜いて、わざわざ用意してくれたみたい。すごく仕事ができるお姉さんみたいだ。申し訳ないが、今のところラルフ担当のリーシアさんより有能な気配。



 やり手のお姉さんにありがとうございます。と告げて俺はギルドを後にした。二度目の来訪は悪くないものになった。

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