第24話:幸運とは思えない事象

 そしてやって来ました大浴場! この湯気と熱気はまごうことなく風呂! 来たことがない場所に、更に自分以外の人を連れて来られたので間違いなく成功──いや、ロイルさんの状態を確認してからか……と思いロイルさんを見てみたのだが──


──まぶたを閉じて微動だにしないロイルさん。目に損傷でも?


少し不安になって声をかけようとすると背後から別の声。


「あ、貴方たちは一体……一人はロイル、もう一人は……どなたかしら?」

いぶかしむような声が聞こえた方を見てみると、湯煙の中になんと青髪の女性。しかも、すっぽんぽん。


「……どちら様でしょう?」

首を傾げる俺。


「貴方がね」

腕を組み、顔をしかめ首を傾げる全裸の女性。


 ちょっと状況が飲み込めないので、ロイルさんの方を向く。相変わらず、瞼を閉じて微動だにしない。


「……ロイルさん?」

説明ください。


「……声から判断しますと、剣の才にひいでている、アリスレナ第一王女殿下でございます。」

この女性が誰かを説明してくれるロイルさん。


ふむ……じゃなくて、なんでここに?


「この時間は誰もいないんじゃ?」

そう聞いたから来たのに。


「いえ、偶に……本当に偶にですがこうしてこの時間、アリスレナ様がおられますのでお止めしようと致しましたが、シズヤ様はお聞きになりませんでした……。」


えーっと……


「それはすいません……」

イメージまとめてて、確かに聞いていなかった気がする。


「それで? こちらにも説明してもらっていいかしらロイル。これはどういうこと?」

というか、いきなり現れたけど何がどうなってるの? とお怒りな様子の王女さま。そりゃそうか……。


 しかしこのまま話し合いを続けるのは良くないだろう。俺とロイルさんは服着たままなので暑いし、王女さまは風邪引きますよ? よし、場を改めよう。


「場を改めましょう。お邪魔しました。」

ロイルさんの腕を掴んで


「何を言っ──」

王女さまなんか言ってたけど


長居は無用だし自室へ転移。



◆───────◆───────◆



 今思えば、この大浴場と自室の行き来で、目に見えていない範囲の行ったことが有る場所と、行ったこと無い場所、それから誰かを連れてという検証全て完了してる。王都行く必要ないや。


「ロイルさん、取り敢えず一応どこか欠損部位や、不調がないかだけ確認してください。」

無いとは思いますが、と俺。


「体は問題ありません。しかし……」

あれ? 目は?


「さっき目を閉じてましたがあれは?」


「……ああいった可能性もあったので、一応閉じていただけでございます……」

備えてようございました。見ていたら陛下になんて言われるか……とロイルさん。


なるほど。では体に問題はなさそうですね。


《問題なさそうですね。じゃないでしょう?》


うおっ そういえばロイルさんへの説明で女神さまを忘れていた……。


《あれ? 女神さま、いつの間にお戻りに?》


《勇者在るところに女神在りよ。転移で置いてかれそうな時に戻ったわ》


《すいません……》


《普段はやっぱりこっちの方が良いわね。全部聞こえるし分かるし。忘れて置いてかれないし!》


《すいません……でもそうですね。なんかこっちの方がしっくりはきます。》


 反省はするけど……偶に降臨っていうのはいいが、普段はこの状態の方がなんか落ち着くかもしれない。変な動悸もないし。


《まあ今私のことはいいわ。それよりも王女様よ……正直に言いなさい?》

こっちなら全部分かるんだからね。と女神さま。


《何をでしょう?》


隠すことは特にないですが……?


《見たでしょう。王女様の素肌! どう、思った?》

あの時は困惑しか感じなかったけど、と女神さま。


どう、と聞かれても……んー


《このまま話してたら風邪引くだろうな、とか……後から面倒ごとになる気しかしないな……とかですかね》

ロイルさんの状態も気になってたし。何もないようでよかったけど。


 王女さまに騒ぎ立てられて、それがクラスメイト達の耳にでも入ったら、面倒ごとは更に増えそうだし……。


 そう考えるといわゆる、ラッキースケベってやつなのかもしれないけど、全然幸運とは思えない事象だ……。


《……枯れて、はないのよね? でもちょっと、年相応の反応ではないんじゃない? 女の子の肌が見れたら、ラッキーって年頃じゃないの?》


それは何情報です?


《人によるんじゃないですかね? 中崎みたいに、異性に性的な興味しかない奴もいるにはいますが、全員ではないですし……多分。》


少なくとも俺は中崎アレとは違いますね。


《なるほどね……でも相手は王女様よ? 他の女の子とは少し違うんじゃない?》


そうなんですよね……王女さまだからこそ面倒なのであって


《クラスメイトの方がまだマシだったかもしれません……》


はぁ……ため息しか出ない。健康にいいらしいからいいか、本当か知らないけど。


《またそうやってバキバキ……》

まだ何やら納得がいってない感じがする女神さま。


しかしここでタイムアップ。


「シズヤ様」

ロイルさんに話しかけられた。


「はい」


「これは少しまずいかもしれません……」

神妙な面持ちでロイルさん。


ですよね……。


「はい……」


「まず間違いなく、陛下へ話が行くので状況説明は私がいたしましょう。さいわい私は陛下の勅命ちょくめいで動いておりましたので、説明次第では分かっていただけると思います。」

真剣な面持ちのロイルさん。


これはもう、ロイルさんに任せるしかない。


「よろしくお願いします。」


「場合によって……いえ、間違いなく一度はこの件で呼ばれると思いますので、その辺りは御覚悟ください。しかし、これも幸いシズヤ様は勇者ですので、処刑なんてことは確実にないです。」

そこはご安心ください。とロイルさん。


処刑!? 俺が勇者じゃなかったらありえたってことですか!?


 転移先の提案はロイルさん。後から考え直し訂正して止めたとはいえ、場合によってはめられたと思えるような状況なんですけど? 勇者じゃなかったら死んでたぞってことですよね? 俺がイメージに集中して、話を全部聞いていないのが悪いってのもあるけど……。


 しかし強姦未遂でもない、確実に指一本触れていなくて、側には宰相であるロイルさんもいた。そして故意こいではなく確実に過失だ。これで勇者じゃなければ処刑もあり得たなんて……異世界怖すぎる。


 この対応が王族だから、なのか女性だからなのかは分からないけど……城内転移はくれぐれも気を付けよう。あとやっぱりロイルさんも要注意。国王さまの命令か、独断かは知らないけど……。


「……呼ばれたら素直に謝ります。それと、城内転移は気を付けます。」


ついでに貴方にも気を付けます。


「そうしていただけると助かります。それでは私はこれにて失礼しても?」

いつものロイルさんスマイルでにこり。


「あ、はい。ここに戻ってくる時点で、王都へ行かなくても問題ないことに、気付きましたので大丈夫です。」

検証終了です、ありがとうございました。と俺。


「では失礼いたします。」


綺麗に一礼してロイルさんは部屋を出て行った。



 さて、次は何をしようか……今クラスメイト達は、訓練場とやらで魔法の使い方を習っている頃だろう。こっそり見に行くにも場所が分からないから無理だ。


 さっきみたいに、イメージ転移をして訓練場のど真ん中に、クラスメイト達の目の前に転移しても困るし駄目だな。


 そうなると……あ! 明日から冒険者として活動するにあたって袋が欲しい。荷物というよりは、討伐した魔物を入れる袋が……。


 今の所持金を確認すると、銅貨十枚に銀貨十枚に金貨七枚の八一〇〇円か……この残金で買えるだろうか?


 漫画や小説のチート主人公のように、収納魔法なんてものは存在しない……そうなると、魔物を入れる袋だけではなくかばんも──いや、鞄は急がなくてもいいか。戻って来ればいい──あ、袋もいらないか? 討伐したら直ぐ運んでしまえば……不自然だ、止めよう。


 一人なので、転移で戻れば鞄は無くてもいいけど、やっぱり袋は必要だ……所持金足りるかな? 足りなかったら稼いでから出直せばいいか。


取り敢えず暇だし王都の店に見に行こう。転移!



◇───────◇───────◇



 てことでやって来ました王都! うーん、まだテンション上がる場所だな。見てないところも多いし。



 自室から王都の路地裏へ、そして更に比較的高い建物の屋根に転移。時間はたっぷりあるし少し見渡してみることにした。

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