第23話:ロイルさんと転移
「あ、あの最初に女神さまはこの世界を一〇〇年ぶりと言っていました。実際に勇者召喚も一〇〇年ぶりだと……でも、それだとおかしいです。例え初代が八〇、いえ一〇〇歳まで生きていたとしても、勇者が存在しない年月は二〇年から四〇年くらいの数十年しか空いていないはずです。女神さまが、死ぬまで勇者と共に在ると言うのならば年数が合いません。」
泣きそうになったせいで少し
自分の切り替えの早さには、リオラが驚いていたけど自信がある。泣きそうになった件には、気付かれていないはずだ……。
「なるほどね、シズヤの言いたいことは分かったわ。まずね、アヤメ……初代勇者の死亡から一〇〇年経っているのは本当よ。だから言ってしまえば、文献が数十年ズレているのよ……それだけだわ」
結構、細かいこと気にするのね。いえ、心配なのかしら? と女神さま。
別に本当に人生を終えるまで、側にいてくれるのかの確認というわけではない……。
しかし、なるほど……では初代の他界から、確実に一〇〇年は経過している。ズレが生じているのは文献が曖昧なせい……本当に曖昧すぎるな。文献というなら、もっとしっかり残すべきじゃないのか? いや、管理の問題かもしれない。
「それに、初代が生きていたらシズヤはこの世界に来られないもの。世界に勇者は必ず一人。他の世界は分からないけど、この世界はそう決まっているの。同時に存在はできないのよ」
そんな決まりがあるのか……なら俺は聞いたことがある〖本物の勇者同士の戦い〗にはならなさそうだな。
「でもそれを考えると、この世界で勇者はシズヤが最後になるかもしれないわね?」
「え、どうしてですか?」
「んー詳細は言えないけど、想像力次第では、シズヤにはほとんど不可能がないからよ」
どういう意味だろう……転移で俺が不老不死になるとでも? 流石にそれは無理では? まあ想像力で不可能を減らせる世界なのだから、決めつけるのはまだ早いか。
「そういえば、初代はどんな適正魔法を使っていたのですか?」
少しだけ、気になった。
「アヤメは【
めちゃくちゃ強そうだ……まさに勇者、戦うべくした魔法。魔王を討伐するために召喚されたからかは分からないが、攻撃特化って感じだな……。でも──
「──女性なのに、大変だったでしょうね……」
俺とは違い女性で、更に一人でいきなり異世界に召喚されて、剣で戦わされて……。
「そうでもないわよ? 剣創魔法だったのはアヤメの希望に応じてだもの。無意識のだけどね。元の世界が、シズヤの世界と同じかは分からないけど、アヤメは元の世界で誰にも負けたことのない、不敗の剣士だったらしいわ。」
女性で不敗の剣士……
「頼もしい限りですね。」
「ふふっ そうね。」
実際強かったわよ? 寿命まで生きたもの、と女神さま。
希望通りの適正魔法……ということは──
「──俺も、無意識に願ったのでしょうか? 転移魔法を授かるような何かを」
思い出そうとしてみる。あの時俺が何を望んでいたか……
「シズヤも望んだはずよ。無意識下で」
勇者だけはそうやって適正魔法が決まるのよ。と女神さま。
俺は……そうだ、思い出してきた……俺はあの時、教室を出た後のことを考えて、思った──
──どこか遠くへ行きたい、と……お金を必要とせず、どこへでも行けるなら自由になれるのに、と。
それで与えられたのが【転移魔法】確かに、俺が望んだものだったんだな……。
その瞬間、体内の魔法を使う何か、
「確かに、転移魔法は俺が望んだものでした」
手をぐーぱーして馴染んだそれを噛み締める。
「そう……改めて受け入れたのね。それなら問題はほとんどなさそうね」
ふふっ と優しく微笑む女神さま。……今までそんな風に笑ってたんですね。
俺は普段、あまり人の顔をまじまじとは見ないので、降臨時以外で女神さまの顔を改めて真正面から見たが……まさに、女神に相応しいとても綺麗な微笑みだった。
そんなことを、ふわふわする頭で思っていると、不意に扉がノックされた。
ハッ として約束を思い出す。
「女神さま、戻ってください! 検証の手伝いをお願いしていたのを、忘れていましたっ」
つい小声で話す俺。
「大丈夫よ。言ったでしょう? 今はオンの状態だって」
神モードがオンだから勇者以外には見えないわ。と女神さま。
あ、そうだった……ん? そこで一つ思い出す。
すっかり忘れていたが、この部屋の中は常に影か何かの部隊? に見られ、聞かれている……じゃあ、女神さまが降臨してから、今の今まで俺一人で喋ってるように見えてたってこと!? 何それ恥ずかしいっ!
「シズヤ?」
頭を傾げる女神さま。何それかわ……そんな場合じゃない!
「あ、えっと……この部屋は、常に見て聞かれていることを今、思い出しまして……それって俺が一人で、喋っているように思われている、のだろうと思うと恥ずかしくなりました……。」
「ああ、そのことなら大丈夫よ。神モードの状態の私と話してる時は、第三者には耳にノイズ……耳鳴りみたいなものが聞こえてるはずだから」
そういう仕様なの。と女神さま。
なんとも便利な仕様ですこと……。
「あれ? でも目に見えているものは、どうしようもないのでは? 俺が串焼き肉を渡し、その肉が消えたりとか……」
「あー、それは……」
気まずそうにする女神さま。これは……
「……部屋では仕方ないですが、やっぱり外で神モードは無しで。」
オフの時なら不自然さはないので構いませんけど。と俺。
「分かったわ……」
女神さまの少ししゅんとした返事を聞いた時、二度目のノックが鳴らされる。少し放置してしまった……。
「あ、はい!」
慌てて扉に返事をする。
「お約束の件で参りました。」
他はないと思ったけど、やっぱりロイルさんだった。
「はい。今開けます」
小さい声で女神さまに大丈夫なんですね? と俺。女神さまがこくりと頷いたので扉を開けた。
「お待たせして、すいません。」
「いえ……ですが、先にお聞きしても?」
少し真剣な表情のロイルさん。
何を? ってそりゃもちろん、耳鳴りやらなんやらだろう……この部屋では気楽にしたいしロイルさんには話しておくべきか。
「えっと、実はですね……俺の側には女神さまがいます。女神さまは勇者にしか見えず、話せない存在らしいです。」
それゆえに、です。
何から話すべきか迷ったが、ロイルさんは察してくれる人だから大丈夫だろう。
「……それでは、あの耳鳴りや串が浮いたり、その肉が消えたのは女神様によるものだと……?」
半信半疑な感じのロイルさん。
ロイルさんも耳鳴りくらったんですか? てことは自ら室内の声を聞こうと?
「そうです。耳鳴りは会話を聞かれないための仕様らしいです。肉は女神さまが食べました。」
「……なるほど。他の誰かの言葉なら信じられませんが、勇者であるシズヤ様が言うのですから本当なのでしょう……」
眉間を押さえて渋い顔のロイルさん。
「今までは頭の中で話していたので……降臨できるというのは、俺もついさっき初めて知りました。ただ女神さまが降臨しても声はもちろん、姿も
これが全てです。と俺。
かなりざっくりとだがロイルさんなら大丈夫だと思ってる。物分かりが良く話が早いと定評のあるロイルさん! 知らないけど。
今までは頭の中で……また……と言ったきり、眉間を押さえて黙り込むロイルさん。しかし数分した辺りで復活した。
「……分かりました。ではシズヤ様には女神様が見えて、更に話ができると認識しておきます。」
よろしいですか? とロイルさん。
「それで大丈夫です。えっと、紹介とかした方が?」
この方が俺のめが……俺の女神さまってなんか違くない?
「……いえ、女神様には申し訳ありませんが、見えませんので……」
そのうち教会にて、ご挨拶させていただきます。とロイルさん。
確かに。
ここにいます。と行ったところで、見えない聞こえないのだから、意味はないか。
しかし、なんとか飲み込んでくれたようで何よりです。流石ロイルさん。俺なら脳が処理落ちする自信がある。
「……では本題に戻りましょう。」
説明いただき、ありがとうございました。とロイルさん。
「あ、はい。今日お願いしたいのは、見えていない場所への転移で、行ったことの有無に関わらず可能なのか、と誰かと一緒に転移できるのか、という感じで言っていたと思うのですが……」
前者は改めて確認ってだけだけど。後者は初めてだ。
「はい。そう記憶しております。」
「後者の誰かはロイルさんだとして、前者ですが……行ったことある場所は王都にしようと思います。問題は行ったことがない場所でして……どこか城内で、誰にも見られる心配がない転移先ってありますかね?」
「それは……位置を知らなくても可能なのでしょうか?」
「多分? 特徴があれば可能だと思います」
なんとなくそんな気がする。感覚の問題だけど。
「では……大浴場はいかがでしょうか。この時間帯に使用する方は──いえ、もしかすると姫……」
大浴場!
「そこにしましょう! 分かりやすいですし。では掴まっていてくださいね。」
途中で離されると、どうなるかまだ分かりません。と俺。これもいつか検証だな。
風呂なら特徴は簡単だ。
「あ、いえシズヤ様やはり──」
ロイルさんは俺の腕を掴んでるな。よし。
それでは、イメージを〖城内の大量の湯が
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