第22話:衝撃の事実

例のそびえ立つ魔道具が低い音の鐘を鳴らし昼時を知らせる。


◇───────◇───────◇


 部屋でごろごろしていると、腹が空腹に鳴いたので転移で王都の路地裏まで行き、気になっていた串焼き肉を買うことにした。



「一つ……いや、二つください」


鑑定で確認してから買う店を選んだので安心だ。


「あいよ。一つ銀貨五枚だから二つで銀貨十枚ね」

ありがとう。と硬貨を渡し、五〇〇円玉サイズの肉が四つ刺さっている串を受け取る。


 一本五〇〇円の串焼き肉か。鑑定で、品質良のオークという魔物の肉って出たから買ったけど、肉って高いんだな……。品質が良だし更に値段が上がってる感じかな?


 少し行儀悪いが、早速一口だけ歩きながら串にかぶりつく。うまっ! 何これ美味い! これはリピート確定。しかし高いから稼がなきゃな……いよいよ魔物狩りかな?


 一朝一夕で国が滅ぶほどじゃ無いから、少しゆっくりしてるけど……困っているから勇者召喚したんだし、そろそろ勇者として働かないとな。


 ついでに、魔物の肉が食べられるものだと分かったし、色々な魔物を食べてみたくなった。


◇───────◇───────◇


 まずは明日から、冒険者として魔物の討伐依頼を受けてみよう。と決めて、自室へ帰還のため、路地裏に歩みを進めた。


◆───────◆───────◆


 自室へ戻ってきて肉を噛みしめる。ああ……女神さまが降臨できたら、是非とも食べてほしいほど美味い。お供えできるレベル。


 俺は肉の部位に詳しくないのでざっくりだが、元の世界で言うなら牛肉の美味しいところ。余計な臭みも噛み辛さもない。


《ホントに美味しそうに食べるわね……》


《めちゃくちゃ美味しいです! 魔物の殲滅にやる気が出るくらい! 女神さまに食べてもらえないのが残念でなりません。》


《んー……》

何やらお悩みの女神さま。


《どうかしましたか?》


《その、ね……実は地上に降臨できなくもないのよ》



……ここにきて衝撃の事実なんですが?


 食べ終わった串を落としてしまった。カーペットについてしまった汚れをトイレへ転移。


《……では、何故今まで声だけだったのですか?》


てっきり降臨できないから声だけなのかと思っていた……。


《えっとね、正直シズヤがどんな子か分かるまでは降臨できないなって思ってたの……襲ってくるような子だと困るし》

神自ら、を、消すわけにはいかないもの……と女神さま。


 それを聞いて頭が真っ白になる。女神さまを襲う……? もしや初代勇者が!?


《あ、違うの……初代勇者は、アヤメは女の子だったの。だから男の子のシズヤが次の勇者って分かった時、念のため声だけにしたのよ》


 えー……また衝撃の事実なんですが? 初代勇者って女だったのか……あーだから、食事や着物なんかを……そういうことか。


頭の中でピースが埋まる感覚。


《それにそっちに降臨すると、心の声は聞こえなくなっちゃうのよ……それもあって迷っていたのだけど、シズヤはよこしまなことを考える男の子じゃないって分かったから、そろそろいいかなって》


……ずっと初代勇者は男だと思っていたので、脳の処理が混雑してぐるぐるする。


《ん? もしかして、初代が男だと思って嫉妬した?》


ゴフッ 肉を吹き出しかけたっ


《な、何言ってるんです? 無いですから! と、とにかく、俺は襲ったりなんて、罰当たりなことしないので、降臨してもらっても大丈夫ですよ?》


 あ、でも女神さまの姿って俺以外にも見えるのだろうか? 降臨ってくらいだから見えてしまう……?


《ふふ、それこそシズヤじゃないけど、オンオフできるわよ? 他の人間に姿を見せるか見せないか、ね?》

ただね。と女神さま。


 なるほど。最初の方に的なこと言ってたな……〖勇者以外に神は見れないが、人のふりしている神なら誰にでも見える〗ってことか。正体に気付かれなければ問題は無いと……物は言いようだな。



《……一緒にいて、何者かを聞かれても答えられないので、降臨するのはこの部屋だけにしてもらいたい気もしますね》


《んー、また嫉妬? シズヤって独占欲が強いタイプなのかしら?》


 違いますって! 理由は言った通り、答えられないからです! それだけですから。


《適当に恋人──とか言ってくれてもいいわよ?》


ゴフッ 肉喉まで来たっ


《そんな軽々しく女神さまを……たとえ嘘でも冗談でもこ、恋人なんて言えませんから!》


《あら、意外と……そういったことに興味ないんだと思ってたわ》


え?


《とにかく、降臨できるなら……この串焼き肉、いりますか?》


 我ながら、女神さまへの初めての供物くもつ? が魔物の串焼き肉とは、色気も何もないけど仕方ない。


《うーん、じゃあいい機会だし貰おうかな》


 その声を最後に、頭の中から声がしなくなった。そのことになんだか少し、寂しさを感じてしまった俺がいた。最初はオフにしたりしてたのに……慣れたのかな?


 少しすると、目の前に光の結晶みたいな物が浮かび、それがだんだん人の形をつくっていく。


 じっと見てると、その光は俺より頭一つ小さいくらいの女性を形づくり、光でシルエットが完全に女性になると、頭の方からどんどん詳細がハッキリしていく。


 そして、足の先まで完全に姿が見えた時、女性は閉じていた目をゆっくり開いた。


顕現けんげんしたのは今まで見たことないくらいの美少女。


 外見年齢なら俺と同じくらい、肌は白く陶器のようで髪はミルクティー色したロングヘア。目鼻立ちは整い、綺麗で大きな金色の瞳。


つい、言葉を失ってしまった。


「どうかな? シズヤ」

今は神モード、オン状態よ! と女神さま。


「……」


「シズヤ? 心の声が聞こえなくなるって言ったでしょ? 言ってくれなきゃ分からないわ」

俺の顔を覗き込む目の前の女性。


「……女神さま?」

一応確認する。


「そうよ。私が女神レイリア」


「綺麗だ……」

何か口走った気がした。


「え!? シ、シズヤ? 貴方そんなこと言える子なの? 急にそんなこと言われると……その、どうしたらいいか分からないわ……」

ほんのり赤くなった頬に手をあて慌てる女神さま。


「え! あ、いやその……あ、これどうぞ」

案の定口走ってたっ!


正気に戻って串焼き肉を女神さまへ手渡す。


「あ、ありがとう。……へぇ、匂いも良いわね」

串焼き肉に顔を近付けて言う女神さま。


「匂いは分からなかったんですね。」


「分からないわよ。声だけの時、私はここに存在しているわけではないもの」


 そういえば、前に一方的なビデオ通話と言ってたな、あれがホントに言い得て妙だったわけだ。


「そうでしたね。」


 串焼き肉に口を付ける女神さまを見て、女神さまという存在が俺が買ってきた串焼き肉を食べていることに不思議な気持ちになる。


女神という存在に餌付け……いや、何考えてる俺!


「ん! 美味しい!」

嬉しそうな女神さま。お気に召したようでよかったです。


 しかし、元々薄い桃色でうるおっていた唇が、油で更につやが増した女神さまを見てドキリとした。さっきから何かおかしい……鼓動が早く、何故か落ち着かない。


少し落ち着け俺……。



ゆっくり深呼吸して冷静さを取り戻す。よし。



「美味しかった。ごちそうさま!」


俺が落ち着こうとしてる間に、女神さまは串焼き肉を完食したようだ。


「女神さまにもお気に召したようで何よりです」

女神さまから何も刺さっていない串を回収しながら言う。回収した串は二本まとめてゴミ箱に転移。


「ふふ、降臨なんてアヤメ以来……悪くない感覚だわ。」

懐かしむように言う女神さま。


そっか一〇〇年、ぶり? ……あ、そういえば──


「──……女神さまはいつまで俺の側にいてくれるんですか?」

ずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。


一〇〇年前に召喚された初代勇者、召喚時に既に年寄りとか小さな子供ということはないだろう……魔王と戦う使命があったわけだし。


 そうすると全盛期、多分俺くらいの年齢で召喚されたと考えて、一六歳前後……それから平均寿命が、大体八〇歳前後くらいと考えても死ぬまで側にいたのだとしたら、女神さまが一〇〇年ぶりにと言うのはおかしい……せめて四〇年〜五〇年ぶりくらいなはず……どういうことなのか?


「シズヤ? また何か考えてるでしょう? 天界に戻らないと分からないのだから、できるだけ声に出して言ってくれないと困るわ」

むーっとした顔の女神さまが目の前にいる。


「あ、すいません……」

思わず謝る俺。


気を付けてね? と女神さま。


「さっきの質問の答えだけど、シズヤの人生が終わるまで側にいるわ。」

そう言って微笑む女神さまについ泣きそうになる。


 俺の実の両親はもういない。この世界に来たからではなく、俺が中学一年生の頃に事故で死んでしまった。それからは、親族をたらい回しにされ、俺の居場所なんてものはなく、ずっと俺の側にいてくれる人なんていなかった。


 両親は俺が生きているのにもう側にはいない。けど女神さまは俺の人生が終わるまで、俺が生きている間は側にいてくれると言ってくれた。それが何より俺の心に響いたし嬉しかった。


 まるで、言外げんがいにいらない存在と言うように、相手に擦りつけるように、たらい回されていた俺の側にいてくれるという女神さまを、何よりも大切にしようと誓えるくらいには……。そりゃ泣きそうにもなるさ。寧ろ堪えられたことを褒めてほしいまである。



 そして決めた、もうオフにはしないと。女神さまも大分落ち着いたみたいだし、テンションがバカ高い状態じゃなければ、オフにしなくても問題ないしな。オフは封印だ。

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