第17話:ロイルさんスマイルは万能

やって来ました城の直ぐ下の街!


《シズヤ、こういう街は〖王都〗って言うのよ。》

王城がある都って意味ね。と女神さま。


なるほど。ではこれからそう呼びましょう。


 では改めて、やって来ました王都! 屋台みたいなものや、普通の店舗経営が入り混じってる感じの大通りに到着。どうやって来たかって? もちろん転移です。


 最初は、訪れたことがないと無理だと思ったけど、やってみたらできた。でもその際、警告が出て〖地図で見た場所や、目で見えている範囲なら転移可能。しかし、同種族が生きられない場所への転移は不可能。〗って言われた。女神さま曰く天罰自動システムさんに。


同種族はもちろん人間だろう。


 行ったことない場所でも、地図や目で見れば転移できるけど、人間が生きられないような場所には、転移不可能だよ! ってことですね。分かりました。


いきなり他国にも行けるわけだ。行かないけど。


 できないかもしれない、と思っていたことができた時って、テンション上がる。俺の気分は今すこぶる良いです!


 屋台を見ると何かの肉の塊が四つほど刺さった串焼き、オレンジ色のキッシュもどきに、ぷよぷよしたものを具にしているサンドイッチもどき、平たい焼きおにぎりもどきなど、見たことない異世界料理ってやつに、服なんてそっちのけで金をかけてしまいたくなる。


《シズヤ! ダメよ。まずは服を買って、そのあと少しだけ。いい? 言われたでしょう、全額使い切るなって!》

欲望に正直になりそうな俺を止める女神さま。


《う……今日しか置いてないものもあるかもですし》

少し駄々をこねる俺。


《一般的な冒険者をするなら、必要なくても帯剣したりそれらしい荷物を、揃えなきゃいけないのよ! せめて稼いでからにしなさい》

分かった? と女神さま。


《……分かりました》


 まあ稼いでから、ってところは確かにと思う。俺は他人のお金で食う焼肉を美味いと言えるタイプではない。自分で頑張って稼いで、その自分にご褒美として良いもの食わせたいタイプだ。頑張ろう。



というわけで近場の服屋へ──入ろうとしていたらロイルさんからコール。


「はい。」


『シズヤ様、店選びはギルドでおすすめを聞いてから、行くと失敗しませんよ。』


それだけ言って切るロイさん。


むむ、城外でも見てるのか……まあ当然か。


では言われた通り、先にギルドへおもむくことにする。




◇───────◇───────◇




 大通りを真っ直ぐ歩いて、王都の出入り口の門が見えてきた辺りで、盾と剣が合体している看板が見えた。建物は大きく立派だ。冒険者ギルド、もしくは鍛冶屋って感じ。


でも出入りしている人や、雰囲気から鍛冶屋ではなく冒険者ギルドだと判断した。


入ってみると、やっぱり冒険者ギルドで合っていたみたいで少しホッとする。


では改めて、やって来ました冒険者ギルド!


 建物が大きいので、中も広いとは思っていたが、想像していたよりも広いかもしれない。カウンターがいくつも並んでいて、一つのカウンターに一人の女性がいる。


 そこに列を作る、いかにも戦う男ですって感じの、大剣を背負ったムキムキの人や、弓を背負った少し細身だが腕はしっかりしている人、ローブを被って魔法専門ですって感じの人に女性までいる。


 何よりこれぞ異世界! 詳しくない俺でも知っている獣人。男も女も性別に関係なく、猫耳やら犬耳やら……もちろん尻尾もセットで生えている。


 ジッと見るのは悪いかな、と思いつつも目線がそちらへいってしまう。まあ女性の体をまじまじと見るよりはマシだと思いたい。


視線に気付かれ、怒られる前に見るのをやめて何故か空いているカウンターへ。


「あの、いいですか?」


「はい。初めてのご利用ですか? 登録、買取どちらをご所望でしょうか?」

ご丁寧に対応してくれる女性。


「登録はもう済んでいるのですが」


「でしたらこちらには買取ですか?」


「いえ、それも違くて」


「依頼達成の報告でしたら別のカウンターになりますが?」


ああ、それでここには人がいなかったのか。


 じゃなくて、どうしようか……。このお姉さんにとっては、いまいち要領を得ない感じだろう、俺も困っている。誰にでも話が通っているのか、特定の人にしか、話がいっていないのか分からない。しかし、このままでも迷惑だろうと、思い切って尋ねることにした。


「あの、ラルフといいます。ファリオレさんいますか?」


「えっと……ギルドマスターとお約束が?」


怪しまれている気配が凄くする。


「いえ、約束はないです。ただ、ファリオレさんと約束していた人から、こちらに寄るように言われました。」


「お約束のご本人ではないとなると対応しかねます。」


ですよね……やっぱり、誰にでも通ってるわけじゃない。どうしたもんかな。


困っていると後ろから声。


「おい坊主。お前ランクは? ギルドマスターを呼び出せるのは高ランクだけだぞ」


 声をかけて来たのはさっき見た大剣背負ってる犬耳の男性。髪の赤に合わせて犬耳も赤い。ムキムキ大剣赤髪イッヌだ。


《変なあだ名を付けるのやめなさい……》

呆れ気味の女神さま。


注意されてしまった。でも名前が分からないので仕方ないかと。


「ランクは……」

分かりませんが? カードもらいに来たんだし、見たこともありません……。


すると困る俺を見かねた赤イッヌが助け舟?


「言えねえくらい低いならやめとけ。何の用があって、ギルマスに会いたいのか知らねえが、忙しい人だ。約束以外では会わねえだろうよ。」

せめて約束してから出直しな。と赤イッヌ。


口調に厳しさはない。さとすような感じだ。


 むー、いっそこの場でロイルさんにコールでもするか? と迷うが、ギルマス云々より国の宰相と繋がりがある、とバレた方が面倒そうなのでなし。


 諭しても動かない俺を見て、少し眼差しを鋭くする赤イッヌは、悪い人ではなさそうだが、顔が強面なので少しビビる俺。尻尾があったら、内股に巻いてると思う。


今度はビビる俺を見たお姉さんが


「登録はしているのよね? だったら今日は依頼だけしておいで。まだでしょう? いい依頼取られちゃうわよ?」


 あーもう、ここまで来ると完全に子供扱いだ……強面にビビってる俺の自業自得だとは思うんだけど、解せぬ。


というか大分見慣れてきたぞ強面赤イッヌ!


いいから責任者を出せ! という五秒前に別の女性がカウンターから出てきた。


ちなみに、本当に言うつもりはなかったよ?


「失礼いたします。ラルフ様でしょうか?」


 少し目立ち始めていた、俺たちの騒ぎを聞いて駆けつけてきたのか、別のお姉さんが来たが……このお姉さんは俺を知っている気配。


「はい。ラルフです。カードを受け取りに来ました。」


「畏まりました。ご迷惑をおかけし申し訳ありません。ご案内いたします」

頭を深々と下げるお姉さん。


何だか申し訳なくなるのでやめてほしい。


「頭を上げてください。大丈夫ですので案内お願いします。」


ポカーンとしている強面赤イッヌと最初のお姉さん。


頭を上げた、後のお姉さんが二人を見る俺に気付いたらしく指摘する。


「ネアリー、頭を下げ謝罪なさい。見た目や態度に惑わされて、用件を詳しく聞かずに門前払いなんて、受付嬢の対応とは言わないわ。」


 その声に、ビクッとする最初のお姉さん。上下関係が後のお姉さんの方が上みたいだ。上司のお姉さんと呼ぼう。


「たっ大変申し訳──」


「大丈夫ですから、頭を下げないでください。買取も担当されているのでしたら、そのうちお世話になるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。」

頭を下げようとするので食い気味に割り込む。


もう強面赤イッヌにビビっていた俺はいない。慣れた。


 俺の言葉や態度に、再びポカーンとする最初のお姉さん。ポカーンとしたのち、上司のお姉さんの視線に気付き我にかえる。


「は、はい。その際はきちんと対応させていただきますっ」


 その言葉にロイルさんスマイルで返す。別に会話を続けるのが、面倒になったわけじゃないよ、うん。ロイルさんスマイルは万能ですから。


 なんなら最初からそうしておけば、面倒がなかったかもしれないと少し後悔するまである。


 そこで、最初のお姉さんの顔が赤いことに気が付いた。もしかしたら、具合が悪かったのかもしれない。そんな時に上司に怒られるとか、酷なことをしてしまったと少し反省。と共に買取のお姉さんと改める。


《……》

女神さまから、何やら言いたげな気配を感じた。きちんと反省しますね。


 取り敢えず、ようやくカウンターから奥へ移動。ただでさえ目立っていたのが、上司のお姉さん登場で更に、目立ってしまっていたからね。俺は逃げるように案内されました。




◇───────◇───────◇




そしてやって来ました、多分ギルドの応接室!


 上司のお姉さんの登場で、すっかり存在が薄れ忘れていたが、強面赤イッヌは正気に戻っただろうか? 最後に見た顔は、ポカーンとしていたし黙っていたから、応接室に着くまで存在を忘れていた。まあいいか。


 ここで、少し待つよう言われたので大人しく待ってます。カードをもらうだけだからだろうけど、お茶対応がなくて少しだけショボンとなった。



 体感十五分ほど待ったところで扉がノックされ、返事をすると入って来たのは、ギルドマスターのファリオレさんだった。

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