第16話:こっそり勇者

 委員長に考える時間をもらったのは、別に本気で悩んでいるわけじゃない。ロイルさんに確認してから返事をした方が、間違いがないと考えたからだ。


 勇者として行動するにあたって、学生になることが不都合ならば行く理由はない。それもわざわざ、あなどられに行くようなものだ。本当の力を隠してまで通いたいのか、と聞かれればそうではない。ただ興味がないと言えば嘘になるけど……。


 まあ俺が色々考えた所で、俺に行くよう勧めてきたってことは、ロイルさんは学校の件知ってるってことだ、まあ宰相だから当然か。


 てことはロイルさんはこの件、織り込み済みってことだろうし、サクッとどうした方がいいのかだけ聞こう。




◆───────◆───────◆




自室へ戻って早速コール。


『お待ちしておりました。』


第一声がそれってもう、確信犯です。って言ってるようなものです……。


「……騎士団長の訪問。あれが今朝の件ですね?」


『さようでございます。参加してよろしかったでしょう?』


「まあ……」

確かに参加しないよりは、して良かったと思うけど、なんだかなあ……。


『正直に申し上げると、学校へ通うことに支障はないかと思います。しかし……シズヤ様は学びに行かれるのでしょう?』


 ですよね〜。正直そこは俺が思うことを、ロイルさんも考えていると思った。


何を、学びに、かあ……。


 俺の適正魔法は、基本属性ではないから教えない──教えられないだろうし、剣技なんてなくてもぶっちゃけ、困らない。


魔物になら無敵と言えなくもない。


 人間相手では、流石に殺すことに抵抗はあるし、剣や魔法の大会なんかあっても、部位を欠損させたり死亡させたり、ということは多分ルール的に禁じられているだろうから、少し厳しい戦いになり──あ、睡眠薬とか痺れ薬みたいな物を直接、胃に転移できるようになれば問題ないか。……対人も解決してしまった。


 しかし、まあそれもこれももっと検証して、色々試さないと口先だけになってしまうけどな。さしあたって、早いところ魔物で検証しときたいな……。



 しかし学校へ行く理由……必死に考える必要はないけど、興味はあるから長く通わなくても、一度は見ておきたいんだよな……。


「剣技……ですかね?」

理由を無理矢理しぼり出す。自分で必要ないと思っているくせに。


『……必要でございますか?』

使えるに、こしたことはありませんが……とロイルさん。


 俺の適正魔法を既に把握しているはずなので、当然の反応だろう。俺も必要性は感じてないです。


「じゃあ、魔──」

半分適当。


『シズヤ様の魔法を教えられる教師、いえ……そもそも知る人間は、存在しないかと思われます。』

食い気味に言われてしまった。これもなんとなく分かってました。


「うーん……」

もう出てこない。


『そこまでして通いたいのですか?』


「え、いいえ全然。」


『……では何をお考えで?』


そうなりますよね。


「長く通いたい、とは思っていないんです。ただ異世界の学校というものには興味があるので見てはおきたいです。」

正直に言ってみる。


『なるほど……。であれば、先ほど言ったように支障はありませんし少しでも通われてみますか?』


 通いたいけど面倒くさい。が入り混じる……我ながら優柔不断だなあ。でもこんな機会はこれを逃すとないかもしれないしな。



「はい、お願いします。」


『畏まりました。ただし、正体がバレたくないのであれば、勇者の適正魔法は使えませんよ? 剣技もなしで、どうなさるおつもりで?』

騎士団長に寝る間も惜しんで鍛えてもらいますか? とロイルさん。


それは勘弁してほしいです。


「あー……」

考えてなかった。


はぁ……とため息が聞こえる。すいません。


『ではシズヤ様としてではなく、別人として顔を隠すなりして行かれては? その代わり他の召喚者たちとの接触は回避しなくてはいけませんが……貴方にとっては寧ろ好都合では?』


 なんと! 名案かもしれない! ただ仮面? とかで顔を隠すのはかえって目立つのでは? と考えないこともない。


「仮面をつけてって……目立ちませんか?」

俺なら見ちゃう。なんぞこいつってなる。


『そちらに関しては問題ありません。校長含め一部の教師たちには、勇者だと明かしその正体を隠すための仮面だと言い、表向きな理由に“火傷で見るに耐えない傷だから”としておけば、まず問題にはならないと思われます。』


 なるほど……一部の教師には正体を明かして、でもそれを隠したいから隠蔽に協力してもらうと、そして表向きな理由では“酷い火傷”ということで顔を晒すことにならないようにできる。というわけか……。


「あの、この世界に認識阻害とかできる魔道具ってないんですか?」


正当な理由があっても、目立つものは目立つからな……。


『そうですね……一応ありますが、どうしてでしょう?』


「理由があってもやっぱり、目立つものは目立つと思うんです。仮面に認識阻害の魔道具を付けられたらいいなと思いまして」


『畏まりました。ではできるかは分かりませんが用意させましょう。もしできなかった場合は、多少目立ちますが……短期と諦めて我慢して下さい。』


「分かりました。」


 俺はこっそり勇者したいので、認識阻害有りの仮面ができることを願うしかない。


『学校長にはこちらで話を通しておきます。学校長が信頼する教師三名まで、事実の公開を許し、情報を管理するよう言います。他の教師には火傷で通します。偽名はどういたしましょうか?』


そっか、シズヤとして通うわけじゃないから……どうしようか。


《シズヤ! 名前、〖ラルフ〗とかどう? ドゥオラルって言葉がこの世界の古い言葉で“二番目”とか“二代目”って意味なんだけど、今の人は知ってる人少ないと思うし……そこからもじって人名っぽくしてラルフ!》

現地人でも珍しい名前ではないし、どうかな? と女神さま。


音は嫌いじゃないし、意味も酷いものじゃないからそれにするか……


《ありがとうございます。女神さまの案を使わせてもらいますね》


「名前はラルフでお願いします。」


『畏まりました。ではそのように』


「あ、それと冒険者の方もその名前で活動したいんですが可能ですか?」


『確かに隠したいのであれば、本名で登録すると厄介ですね。では名をシズヤ様のとラルフ様で二枚発行させます。上手く使い分けてお使いください。』


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


 取り敢えず、昼に会う委員長にはお断りの返事だな。部屋で大人しくしておくと、言っておこう。


コールオフと通信が切れる。



 なんだか、少し面白いことになってきた感がある。仮面はやっぱり恥ずかしさがあるが、例え認識阻害が付けられなくても、バレて面倒なことになるよりはマシ、だと思うことにする。


 声でバレないのかって? 俺の声なんて、覚えてる人いないと思う。いたら……いや、考えるのはやめよう。いないよ、多分。


《いたらどうするつもりよ……》

ぼそっと女神さま。いませんて。



さて、昼まではまだ時間がある。どうするか……。


 城の外、城下町……街? に出たいな。お金貰ったし──あ、委員長からお金の価値を聞くの忘れた。しまったな……と思いながら袋の中を覗いてみると一枚の紙を発見。おや?


開いてみると入っている硬貨の絵とその横に書かれる読み方と価値。


 流石、委員長の一言に尽きる。感無量です。全員分に書いて入れたの? ホントにパパしてるなあ……しかしありがたい。


 委員長メモ曰く、お金の種類は〖銅貨〗〖銀貨〗〖金貨〗〖大金貨〗〖白金貨〗〖大白金貨〗〖黒金貨〗と七種類があり、日本円で分かりやすく言うと──


銅貨は、一枚十円

銀貨は、一枚百円

金貨は、一枚千円

大金貨は、一枚一万円

白金貨は、一枚百万円

大白金貨は、一枚千万円

黒金貨は、一枚一億円


──と考えていいらしい。ついでに、白金貨より上と下とでは掘っている絵が違うのだとか。


 紙幣の代わりに硬貨を使うと、こうなるのか……といった感じだ。硬貨をジャラジャラ持ち歩くのかと思うと少し嫌になる。


 昔のヤンキーによるカツアゲで、飛んでみろとジャンプさせて所持金を確認する作業いらずだな。本当にそんな時代が、あったのかなんて知らないけど。



袋の中には銅貨が十枚、銀貨が十枚、金貨が十枚の日本円で合計一万一千百円。


 一人に対してこれで、二十一人分用意したのかと思うと流石、国王さまって感じだな。太っ腹です。


 じゃあお金も確認したことだし、城下行きますか! 一応ロイルさんに言っといた方がいいのかな? 無言で出るのはまずいかもしれない……しかし何度もコールするのはなんか変な感じ。ならば──


「あーお金手に入れたので城下? 直ぐそこの街に行ってこようかなー」


──大声で独り言を言っておく。これで知らなかったとは言わせない!


では早速──と思っているとロイルさんからコール。


「はい。どうしました?」


出鼻くじかれた気分にはならない。そんな気はしていたから。


『これからお出かけになるようでしたら、冒険者ギルドに寄っていただくと、予定していたより早く、ギルドカードを受け取れるかと思います。』

ラルフと名乗ることで通るはずです。とロイルさん。


「分かりました。寄ってみますね」


『それと、何がとは言いませんが伝言板では──』


「では行ってきます。コールオフ」


何も聞こえませんよー。



よし、改めて初めての城外へ出発!



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