第15話:入学まであと約一ヶ月

 というわけで、何が起こるのか……何かが起こることが確定なのに、嫌々ながらもやってきました食堂! 憂鬱ゆううつです。


 そっと扉を開けると数人のクラスメイト達。俺が最後ではないようで少しホッとする。


 しかしホッとしたのも束の間、クラスメイトはどんどん食堂に増える。まあ当然なんだけど……ご飯食べにきてるわけだし、この世界のお金とかないからお菓子なんて当然ない。朝を逃すと昼まで我慢だ。


 うちの学校は、授業中に食べなければ後はいつ何を食べようが、基本自由だった。流石にその場で料理はアウトだったけど。


 まだそんな学校の生徒になって一ヶ月半だったが、慣れてしまった人達に間食の我慢は酷なことだろう。


 隠キャと言われるグループでさえ、口の中に飴玉転がすくらいはしていただろう。


 これらを早いところ解決しないと、騒がしい人が出てきそうだが、そこら辺はどうなっているのか。


 俺が言うべきなのだろうか……いや、委員長がなんとかする気がする。他力本願で悪いが、やることが山積みなので許してほしい。


クラスのまとめ役、勇者(仮)な委員長パパの活躍に乞うご期待!


そんなこんな考えていたらクラスメイトは大分増えていた。


 ハッとして中崎を探すもいない。寝坊だろうか? 取り敢えずホッとする。というか足音で気付く俺が気付かない=いない。だなと思い直す。


原因が分かっても、中崎は既に天敵でしかないにゃ。


《あ、あの子入ってきたわよ。》

女神さまが教えてくれるが、あの子とは?


 扉の方を見ると副委員長たち。うわ……中崎ほどではなものの、副委員長が起爆スイッチなので、嫌いではないが関わりたくない。


 そっと距離を取る。しかしそれも虚しく副委員長の親友さんが俺に気付いて副委員長に声をかける。嫌な予感。


 更に距離を取るが、親友に言われ? 俺に気付いた副委員長が何故か、足早に距離を詰めてくる。正直、困るっ!


 どこへ逃げようか考えていると、メイドさんが配膳を終えたらしくお好きな席へどうぞ。と言われる。今先に座ったら、終わりな気がして俺は座れない。その間も広い食堂を、わざわざこっちに向かってくる副委員長。なんで!?


 もう少しで、挨拶できる距離になっちゃう! そんな時、扉が開いて顔を出したのは何時いつぞやの騎士団長さん。名前なんてすっかり忘れてしまった。呼ぶ機会は無いだろうしいいか。


しかし今は救世主! なんの用で来たのか分からないけど。


……もしかしてこれがロイルさんが言っていたことだろうか?


 突然来訪した鎧ガチガチの騎士団長の姿を見て、副委員長を含めクラスメイト達みんなの動きが止まる。ナイス過ぎる!


「各々、食事前や食事中にすまない! 少しいいだろうか。」

扉の前で声を張り上げる騎士団長。


 広い食堂でも声が響き渡るように発したので、友達と話していた人も会話を止めてシーンとする。


沈黙を了承とみて言葉を続ける騎士団長さん。


「君たちは戦ったことはなく、戦い方も知らない学生だとソウマから聞いた。そして金を稼ぐために、ある程度戦えるようになったり、知識が欲しいそうだな。」


 ソウマって誰ですか? それが気になって内容が入ってこないんですけど……。


《多分、シズヤが委員長って呼んでる子じゃない?》


へぇ、委員長そんな名前だったんだ。名前までイケメンかよ。


「それで我々は考えた。賠償の一部に戦い方や知識を加えようと。」


「話を通してもらえたんですね!」

呼ばれて? 飛び出て委員長。


 喜びの声を張り上げたと思ったら、騎士団長の元まで早歩きで向かった委員長は直ぐに騎士団長さんの側に着いた。


さながらご主人様に駆け寄るイッヌに見えたのは俺だけか?


「ああ、通ったよ。ソウマ」


あ、本当に委員長のことだったんだ。


「よかったです! 不安な生徒は多くて……僕が教えられるならいいけど、剣道しか経験ないので、魔法や本場の戦い方は分かりません。だから凄くありがたいです!」


「それはよかった。それでなソウマ、ある程度我ら騎士団の訓練に参加してもらって基礎を得てから、王立学校へ通ってもらうことになる。丁度、一ヶ月後に入学式があるんだ。」


 その騎士団長の発言に、今まで静かに聞いていたクラスメイト達はざわざわ。


 男子からは、また学校かよーとか異世界の学校なら猫耳っ娘いるかな? とか貴族の女の子とお近づきになれたら……とか。


 女子からは、魔法を習う学校? とか勉強についていけるのかとか、王立なら王国が建てた学校でしょ、王子様とかいないのかな? とか……。


 男子も女子も似たり寄ったり。下心が丸見えか、そうでないかの違いしかないように俺には見える。


 しかし、学校に通うと聞いて嫌そうにしていた人たちも、友人と異世界の学校生活での想像話が盛り上がるにつれ、嫌そうにする人は減って行った。


「みんな! 聞いた通りだ。魔法や剣技を習える学校に通うことになった! しかし僕達は何も知らない異世界人だ。だから入学までの間、騎士団の訓練に参加させてもらうことになった。訓練は今日からで、お昼からだから遅れないようにね!」


「それと、その格好のままで訓練はできないから、個人に金を渡そうと思う。動きやすそうな服を買ってくるといい。全て使い切るなよ? そのうち剣や装備、私服やらを買うこともあるだろうからな。あくまで、今回はこの世界を見つつ知りつつ、訓練着を買いに行くだけにしとけ!」

以上だ。と言って委員長に重そうな袋を渡す騎士団長。


後は頼んだぞ。と言って食堂を出て行った。


後を託された委員長はこちらに向き直る。


「まずは朝食をいただこう。食べ終わった順に僕の所へ来てくれ。お金とお金の価値を教えるから。価値を知っていないと損することもあるからね」


それを聞いたクラスメイト達は我先にと食べ進めて行った。



はい、異世界の朝食は──丸く白いパン三つとミルク。


 うん分かってた。朝食なんてそんなもんだと思う。そして思ったんだけど、城の人が同じものを食べているとは考えにくい。そうなると、多分俺たちに出してくれている食事は、一般家庭で食べられている庶民的なのものなのではないか、と。


 無駄に良いものを城滞在中に食べさせて、この世界の基準を見誤ったり、食生活で破産しないように、色々考えられている食事なのではないかと思った。寧ろ、臨時で城にいるだけで全員庶民だし。この城で良いもの食べて、出てからも同じにしようとしたら苦労しそうだもんね。


 ありがたや。良いものは自分で稼いで食え、と。俺も異世界らしい食事は、自分で稼いでから食うとしますか。


《シズヤは勇者なんだから、下手したら王様より良いもの食べれるようになるわよ!》


おお、それは朗報ですね!


《頑張りますね》


 そしてさっさと食べ進めて、委員長から金をもらい退散しようと考える。しかし、そんな考えを見透かすように、副委員長が急いで食べてるのが分かる。


 なんでかって? 親友さんが、喉に詰まるのを心配している声が聞こえるからです。俺は気にせず、ゆっくりお食べ……。



 結果は俺が先だった。手を合わせてご馳走様。委員長の所へ行く──気持ち早歩きかもしれない。


「おや? 應地おうじ君」


俺は他のクラスメイトと違って、金をもらいに来たというよりは──


「こんちわ。それ俺の分ってあるの? 金以外にも、俺はどうすればいい?」


──俺の扱いはどうなっているのか確かめに来た。


 国王さまとロイルさん達以外の人は、最小限しか俺の正体を知らないはずだし、それだと適正魔法が無いって認識だから、俺に何を求めるのかが分からない。みんなと同じようにしろ、とはいかないだろう。


「うん……應地君はどうしたい?」

お金はあるよ。と委員長。


 俺に金の袋を手渡しながら聞いてくる。え、ここで俺に希望を聞くんですか?


「どうしたい、とは?」


一応、聞いてみる。


「魔法は使えないかもしれないけど、そういう人でも剣技で補えれば学校に通ってる人もいるそうなんだ。だから、應地君が入学までの約一ヶ月、死ぬ気で訓練して剣技を磨けば入学は可能かもしれない。」


「なるほど」


「でも無理にとは言えない。それで入学しても不都合がないとは言えないみたいだし……」


 言外にイジメが存在すると言っているんだろうな。適正魔法が使えない人もたまにいると聞いたけど、そんな人も剣技で補えれば学可能。しかし、それでも無いものは無いので、一部からは落ちこぼれや無能だと思われ扱われるだろう。


それこそ魔法をも凌駕できる剣技でも無い限りは。


一人くらいいそうだけどな、そうやって頑張ってる人。


《あ! 今フラグが立った気がしたわ》


え、俺の死亡フラグかなんかですか? 急ですね。


《違うわよ。恋よ。恋!》


気のせいだと思います。


 剣技のみで頑張る脳筋なんて大体、男だと思います。趣味趣向は自由だと思いますが俺の恋愛対象は異性、女性です。今のところ恋には興味ありませんけど。


取り敢えず委員長に返事をしないと。


「考えておく。また昼に食堂で会った時、返事をするから待ってほしい。」


「分かった。それでいいよ」


 女神さまの発言のせいで、告白を保留みたいな気分になってしまった、勘弁してほしい。取り敢えず時間はもらえたので、委員長から離れ足早に食堂を出る。



 途中、副委員長の声が聞こえたような気がしたが、それどころではない。俺は忙しいので放っておいて下さい。


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