第18話:予期せぬエンカウント
「こんにちは。ファリオレさん」
「うむ、よう来たの。」
今日も際どい装いのファリオレさん。
「お忙しい中すいません。出かけるならついでに、ギルドに寄ると予定より早くカードを受け取れる、と言われたもので……約束もしてないのに、お時間いただきありがとうございます。」
アポも無いのに、顔を出してくれたので感謝の意味も込めて、丁寧に挨拶したつもりが、どういうわけか渋い顔のファリオレさん。なにゆえ?
「ほんによう口が回るものじゃ。しかしもうよいぞ、堅苦しい話し方はやめじゃ。シズヤとは、長い付き合いになりそうじゃからな」
敬称はいらぬ。名もリオラと呼べ、親しき者はそう呼ぶ。とファリオレさん改めリオラ。
なるほど。本来は堅苦しいのが嫌いな人なのかもしれない。じゃあいいか。
「分かった。では本題だが、ギルドカードを二枚とも受け取りに来た。」
今度はびっくりした顔になるリオラ。顔が忙しい人だ。
「……切り替えも早いのじゃな」
ああ、そういうこと……いいと言うなら切り替えるさ。そっちの方が楽だもの。敬語だった人に、いきなりタメ語になるのは違和感は残るけどね。それもそのうち慣れるだろう。
リオラは
また遊ばれてる気配。俺で遊んで楽しいか? 楽しくないなら止めろと言うが、楽しいならいい。こちらが気にしないよう努めるまでだ。
ニヤニヤするリオラの前で、まだ少しぬくいギルドカードを確認する。
一枚は名前がシズヤ、もう一枚は名前がラルフ。
「確かに。ありがとう。」
「よい。それより、いつから活動する予定じゃ?」
単刀直入だな。まあ、回りくどいよりはいいけど。
「そうだな……俺の個人的な理由で、早いとこ魔物に触れておきたい。だから近いうちに動くと思う。」
今日は流石に時間がない。できるならば明日から動きたいが……。
「個人的な理由とな?」
目を細めるリオラ。
んー、これはどうなんだろう……勇者であることを知ってるからといって、何でもかんでも教えてしまっていいものなのか。
「気にするな」
突き放してみる。
「
仲って……会ったのは二回目で、略称で呼ぶようになったのも、タメ語も今さっき。どちらかといえば遊び遊ばれる関係よな? もちろん健全な方で。しかしそんなことを指摘しても、
「……適正魔法の実験台になってもらう。」
何がなんでも、聞き出してくる気だと思い、無駄な抵抗はやめる。
国王さまの言いつけもあるし、他に情報を漏らすようなことはしないだろう。国王さまも信用があるからこそ、あの場に呼んだんだろうし。そうでなければ、いくらギルドマスターとはいえ明かさないだろう。
「ほほう? それはなんとも興味深い話じゃの」
そんな目をランランさせて見られても、じゃあ見に来るか? なんて絶対言わないぞ。
「今は時間が惜しい。あとは今度にしてくれ──あ……」
「ん? どうした?」
「忘れていたことを思い出した。俺、ロイルさんに直通のコールキューブ貰ってるんだけど、リオラ直通のコールキューブとかないか?」
「ああ、その手があった。直ぐ用意させよう」
そう言うと、テーブルの上にある持ち手があるベル、呼び鈴? に手をのばし、綺麗にリィンリィンと二回鳴らした。
ベルから三分もしないうちに、扉がノックされ許可されて入って来たのは、先ほどの上司のお姉さん。
「お呼びでしょうか。」
「うむ。妾直通のコールキューブを用意するのじゃ。ラルフに持たせる。」
「畏まりました。」
「それと、ラルフ。妾がいない時や妾とのつなぎ役として担当をつける。この受付嬢長のリーシアに任命するから覚えておくのじゃぞ」
「分かった。」
上司のお姉さん改めリーシアさんか。今日みたいなことにならないよう、重宝する人になりそうだから覚えておこう。
ラルフの担当がリーシアさんに決まった。
その本人は少しギョッとしたあとハッとして軽く頭を下げて──
「よろしくお願いいたします。」
──と言った。
わざわざ聞かなくても、察することができるので言わないが、多分俺がタメ語になっていることに対してだろう。まあ、あーだこーだ言われる筋合いはないし、言うつもりもないようなのでスルーする。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ここでロイルさんスマイル。だんだん営業スマイルみたいな、使い方になってきたかもしれない……。
しかし俺の
少しショック。見よう見真似だから、まだまだ経験値が足りないのかもしれない……精進しよう。
《……はぁ》
ため息する女神さま。
幸せが逃げ──いや、実は健康に良いんだったか?
その後、俺はリオラ直通のコールキューブを受け取り、冒険者ギルドをあとにした。
◇───────◇───────◇
ギルドに居たのは体感で大体、三〇分くらいだろうか? 女神さま曰く、まだ昼時まで時間があるようなので、次はギルドを出る時にリーシアさんに教えてもらった服屋へ行く。
◇───────◇───────◇
ギルドから歩いて一〇分ほど、やって来ました服屋さん!
異世界の服屋なんてもちろん初めてだ。テンションが上が──らない。思えば一人で服屋とか、日本でも行ったことないかもしれない……ネットで買える時代だったし。
なんかよく分からないけど緊張する。どうしよう。
《何に緊張してるのよ?》
《女神さま……服屋の、空気感?》
《訳分からないこと言ってないでさっさと入る! じゃないと時間なくなるわよ?》
文字通り声に後押しされる。
《わ、分かりました。》
扉を開けるとカランと音がする。喫茶店みたいだな。
それでいくらか緊張がとけた気がした。結構チョロいよな俺……。
「いらっしゃいませ。」
と店員さんの声。女性店員だ……。
店内を歩き、男物の売り場で足を止める。
……見ても良し悪しなんて分からない……店員さんに聞くべきか? でもそこからずっと話されるのは困る。
うーんと唸っているとカランと来店の音。
声的に女性だ。この広い王都だ、知り合いはいないはず……と思い意識から外して再度悩む。
《あ》
不意に女神さまの声。どうかしたのか、と周りを見ると俺のあとに来店した女性は、副委員長と愉快な仲間たちだった。
愉快かは知らないけど、親友さんとプラスαの女子三人……。
服なんかもういいから、今すぐ自室へ帰りたくなる。転移で。そんなことするわけにはいかないんだけど……。せめて俺に気付かないことを願いながら、息を潜める。でもこんな時って大体──
「あ、
──バレるんですよね! はぁ……。
挨拶する仲でもないので一応会釈だけする。俺に気付いた女子は、副委員長でも親友さんでもなくプラスαの一人だった。
「應地君っ!」
声を張り上げたのは副委員長。
お店の中なの忘れないでほしい。
「……副委員長、ここ店の中だから声抑えて」
俺の指摘に、むぐっと自身の口を両手で塞ぐ副委員長。
「應地君、ここに買いに来てたんだ」
こちらに近付きながら言う親友さん。
「ああ。でも決まらないし他の店も見てから決めることにするよ。じゃあ──」
「待って! お願い、少しでいいから……話を聞いてほしいのっ」
悲痛な声を出し両手で顔を覆う副委員長。
……女神さまが声だけなので、声でその人の感情が読み取れるようになって来ている俺です。この声から逃げるのはさすがに……。
「ねえ、應地君。
核心をつく親友さん。
「……」
思わず無言になる俺。
誰? って言いたいけど、話の流れ的に副委員長しかいない。
《
何故か楽しそうな女神さま。
俺は別に、悪いことをしているわけでは無いと、思うんですが……。降り掛かる火の粉をはらっているだけですよ。
「取り敢えず店、出ようか。いい加減避けずに話くらい聞いてくれてもいいよね? ……中崎は絶対来ない場所にするから」
俺が関わりたくない理由を分かっているようだ。
「それなら……」
構わない。……でも問題はどこならバッタリが無いかだ。中崎の行動なんて分からない。この大きな街の王都で、俺と副委員長と愉快な仲間たちがエンカウントしてしまったように、その可能性は決して低くはない。
「問題は場所だよね……雪葉の部屋は──ないよね、うん。」
ごめん……と親友さん。
俺の顔を見た親友さんが即座に訂正。俺の顔がどうなっているか、自分じゃ分からないが、今この時確実に嫌そうな顔をした自覚はある。
何故か俺の顔を見た副委員長が、泣きそうな顔をしているから、怖さもあったかもしれない。露骨過ぎたか……しようと思ってした顔じゃ無いんだけど。なんかごめん。
《もう! そうやってバキバキ折っていく!》
こちらは何故か怒っている女神さま。
ええ? 折るって何を? 思わず怖い顔をして、女子を怖がらせたことは反省しますが、今はそれより場所ですよ女神さま! 中崎に絶対会わない場所じゃないと、ゆっくりお話なんてできません。
もうっ! と激おこな女神さまを、すいませんと一時的に放って考える。
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