第9話:嬉しくない再会
俺はふと思った。声に出さなくてもいいのなら、今この時でもステータスを確認できるのでは? ……よし。
夕食が配膳され終えて、食堂のメイドさんにお好きな席へどうぞ。と言われたので食事をしながらステータスの確認をしようと端の席へ座る。
そしていよいよ、アク──
「あのっ」
「……」
──しつ! 悪質だ! しつこいわ! いい加減にしろっ!? と声には出さないが、思わず声のした方へ睨みをきかせる。そこには──
「──副委員長?」
以前言ったと思うが、我がクラスの委員長は男子だが副委員長は女子だ。その副委員長が今、目の前にいる。名前? えーっと……副委員長で伝わるし良くない?
「えっと、隣……いいかな?」
おずおずと聞いてくる副委員長。
なんで俺の隣にくるのか分からないが、駄目です。と言う理由もないので──
「……お好きにどうぞ。」
──って言うしかないよね。
にしてもなんで美少女で人気者、学年一モテる女子とさえ言われている副委員長が俺の隣に? 罰ゲーム? 罰ゲームなの? そんなことを副委員長にさせる輩がいるの? はっ倒すぞ。
てか何より気付いてますか副委員長、こちらを見る視線は多いしざわざわしてますよ? そりゃそうだよ、今までまともに会話してるところを見なかった人と一緒にいるんだもん。俺でも見ちゃう……いや、ごめん興味ないわ。
とにかくこの状況をいち早く脱出するために黙々と食べる俺。異世界初のご飯は!──
──お味噌汁もどき、白米もどき、何かの焼き魚。
なんで!? あれ、ここ異世界だよな? なにゆえ日本食。あ、いや待って察するものがある。さては初代勇者だな……余計なことを。
不満に思うも食べ進める。もどきと言ったのはそれぞれ本物と少しだけ違うからだ。
まず、お味噌汁は色々入れました! って味がする。赤味噌とか白味噌とか魚の粗とか海藻とか、とにかく色々ぶち込んで無理矢理それっぽくした感じ。
そして、白米の味はちゃんと米っぽいけど何故か形がハート型。バレンタインとかプロポーズとかに使えそうですね。バレンタインはないと思うし、主食なら大事な時に使わないだろうけど。見慣れてるし。
残る焼き魚の味は鮭っぽい、でも丸焼きでツノがあった形跡が……後でロイルさんに、このお魚の名前を教えてもらおう。生きているのも見てみたい。
まぁそうだよな、全く同じ食材があるとは思えないし。そう考えると初代勇者も再現に苦労したのかもしれない。お疲れ様です。
魔王討伐の合間か討伐後か知らないが、何やってんだ……って感じだが故郷の味が恋しくなったのかもしれない。今のところ異世界料理に興味津々なんですが、俺にもそんなホームシックな日が来るのだろうか……。
《ああ、あの子が恋しくなって日本食を再現しようと頑張っていたのは討伐後、よ。それとさっきも思ったのだけど、貴方の適正魔法は転移よ? 旅に出ますってわざわざ出なくても、転移でサクッと行って帰ってこれるじゃない。》
何言ってるの? と女神さま。
《……》
確かにそうだ。
ああああもう! これもステータス確認を邪魔されまくってる弊害だってぇえ! いい加減、確認せねばなるまいよ。例え誰かに無視決め込んでも──
ア──
「ねえ、
知ってたよ、知ってました! だから「ア」しか言ってないもんねーだっ!
《誰に文句言ってるのよ……》
見事なフラグ回収ね。と女神さま。
《さあ?》
世界、っすかね? 何に邪魔されているのかもよく分からないですしー。ただタイミングが悪いだけですし? でも作為的な何かを感じなくもないというか、拗ねそう。何に対してかは分からないが。
それに流石に、俺なんかにも声をかけてくれる副委員長は無視できない……。
「……何?」
てことで呼ばれたので、少し遅れはしたがお返事。
「あのね、應地君さっき一人だけ宰相のロイルさんに呼ばれていたでしょう? その、どうしたのかなって……」
伏し目がちにこちらを見る副委員長。
自分のことでいっぱいいっぱいで気付かなかったが、見られていたようだ。んー……どうしたものかね。
「何もないけど」
言えることが。
「……適正魔法がないからって、このお城の人に何かされたりしてない? 何もないなら、なんで呼ばれたの?」
なぜか質問攻めの副委員長。
なんでそんなことを気にする? 今までまともに話したこともないのに。中崎だけじゃないのか、俺に絡むのは……これは今まで以上にあまりクラスメイト達と関わらない方が無難かもな。
《シズヤ》
おっと女神さま、なんでしょう?
《どうかしましたか?》
《この子は絡んでいるというか、心配してるんじゃない?》
それこそ意味が分からない。
《心配なんてする間柄ではありませんよ。》
今日までまともに話したこともないクラスメイトを、しかも異性を心配なんてするだろうか? 答えは否。少なくとも俺はクラスメイトの誰がどこで何をしていようが気にしない。好きにしたらいい。命なんて自己責任なのだから。
副委員長は俺の心配ではなく、この城の人がどういう人間なのかを探りたいんだと思う。召喚後、適正魔法がないからって直ぐに俺を拷問なり、なんなりするような人達じゃお世話になるのも不安だろうからな。俺もやだよそんな国。
《……シズヤって見た目は優しげなのに、実際は結構ドライよね》
《そうですか?》
はて?
みんなこんなものでは? 結局はみんな自分が一番可愛いに決まっている。仲の良い友達ならまだしも、ただのクラスメイトに何を思うでもないだろう。ああ色恋沙汰が絡めばまた別か。
それこそ誰かが俺に、なんてありえないと思うけどな。特にクラスメイト達にはいないだろう。
「やっぱり! 何かあったの?」
顔面蒼白の副委員長。近い。
いえ、質問から色々考えて貴女を忘れかけていただけですよ。あとパーソナルスペースがバグってますね。
考える原因となった副委員長のことを忘れかけた。早いとこ、この女神さまとの両立にも慣れなきゃな……これもやることリストに加えておこう。
「いや、本当に何もない。ただ適正魔法がないからといって気にすることはない。対応するからって言われただけだ。」
寧ろ良くしてもらっているまである。
対応を約束した、が正しいけどね。布石にもなるし言っておく。
「本当に……?」
信用ないな。当たり前だけど。
「本当に。」
「ならいいけど……何かあったら言ってね?」
力になるから。と副委員長。
なにゆえ副委員長に報告? と思うが一応頷いておく。言質は取らせませんよ。
それにしても、力か……俺の代わりに森の魔物を殲滅してほしい。って言ったらしてくれるのだろうか? そんな無責任なこと言わないけど。
そして話しながらも、なんだかんだ夕飯の日本食もどきを完食。
さて、面倒が服を着ている
「こんなとこにいやがったのか應地ぃ」
──と腰を上げようとするが、噂をすればなんとやら。
何も考えずに部屋へ戻ればよかった。嫌な足音と共に中崎と再会。
猫みたいに足音覚えそう。ご主人様としてじゃなくて天敵として、だけど……。
「……」
「ははっ 楽しそうじゃん。俺も混ぜろよ」
頬が引き攣っている中崎。なんだ、どうした。
てか、言うに事欠いて楽しそう? どこが?
「別に。俺はもう行くからお二人でどうぞ」
冗談じゃない。さっさと帰りますよ。やることは山積みなのだから。
今度こそ席を立とうとした時、袖に違和感。
「待って、應地君……もう少しでいいから話そうよ」
何故か
掴まれてた。副委員長に。
「……俺、やることあるから。」
無理やり振り解くのはなんか違う気がして動けない。自主的に離してもらうしかない……。
「お願い……」
か細い声を出す副委員長。
えー……あ、もしかして副委員長も中崎のこと苦手なのか? 俺はもう嫌いまで行きつつある、いや寧ろ嫌いだけど……それなら仕方ない感ある。被害者の会みたいな。
誰にでも優しいタイプの女子である副委員長に嫌われるとか何したんだこの女好きめ。これだからヤリ○ンはやだね。
「っ……調子乗ってんじゃねぇぞ無能が」
いきなりキレる中崎。
くっ
「調子に乗った部分なんてなかったと思うけど」
思わず漏れ出る本音。
中崎って俺と話す時キレないと死ぬ病気か何かなの? 本気でそう思えるほど、毎回理不尽にキレる中崎に嫌気がさす。
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