第8話:幼児退行した女神さま

 ファリオレさんとエルフさんがギルドへ帰っていき、再び俺と国王さまとロイルさんになったので──


「──では改めて、現在の状況は森に魔物が溢れかえっている。国王さまが勇者に望んでいるのは魔物の討伐、冒険者達だけで対処できるくらいに間引くこと。ですね?」


「うむ。」


「分かりました。それでは最初に言いましたが、勇者としてそれらを了承する代わりにお願いしたいことが五つほどあります。」


 改めて言うことと、追加がいくつかある。それをこの場で約束しておこうと思う。


「うむ、言ってみろ。」


国王さまに促されたのでお願い事をあげる。



一つ、勇者が俺だということの秘匿。


二つ、無理は言わないので、勇者への援助、協力を惜しまないこと。


三つ、問題を起こさないと約束するので基本的に俺を自由にすること。


四つ、俺の許可なく俺が使用する部屋への立ち入り禁止。


五つ、魔物の件が解決して旅をしたいと言ったら許可すること。



それを聞いた国王さまは──


「──うむ……概ね問題ないが、旅をしてみたいのか?」


引っかかるとこそこなんですか、国王さま。


「はい。この世界は俺のいた世界とは食文化から始まり、生き物や環境等大きく異なります。そんな世界を、できれば全て見てまわりたい、そういった好奇心は捨てられそうにありません。ですが今すぐというのが叶わないことは分かっています、ですので全てが片付きひと段落してからでいいのです。」


 異世界、まだ見ぬ種族や食べ物、景色などを沢山見てみたい。それは異世界小説を読んでいる人は勿論、読んでいない人も未知のものに対しては好奇心や探究心が芽生えるものではないだろうか。


 きっと多かれ少なかれクラスメイト達も考えているはず、そしてそれは俺も例外ではないというだけのことだ。


「そうか……よかろう。ただし、本当に全てが終わってからだぞ? それと帰らぬこともあってはならん。あくまで勇者シズヤは我が国、ロズレット王国の人間だということを忘れるな。よいな?」


「分かりました。」

しっかり頷いて了承する俺。


 要するに国籍はロズレット王国だぞって言いたいんだよな? それくらいは構わないさ。出身国を聞かれた時に日本です。とは言えないし、ギルドカードも多分この国出身になっているだろうしな。



かくして取り敢えず、前準備の一部は終わったのだった。



 俺にとってこれからが大変なんだけどな……でもようやく異世界生活が始まった感じだ。できる範囲で頑張りますよ。女神さま、見守っててくださいね──



──というか、女神さまの存在を忘れかけていました……ごめんなさい。女神さまオンにした時が怖いかもしれない……。





◆───────◆───────◆





 今俺は先ほどまでいた応接室を出て、俺専用で用意してくれた部屋へとロイルさんに案内してもらっている。


 クラスメイト達は召喚の間を出てからすぐ案内されており、二人一部屋で部屋割りがされているらしく、各々おのおの自由にしているとのことだ。


 俺があれこれ勇者として考えている間に、異世界の城の豪華な部屋を堪能していたということですか、そうですか。……まあいいけど。


 クラスメイト達は既に適正魔法とか試して、自分の力を把握してそうだな……出遅れてる感が半端ない。勇者なのに。


 俺も部屋に着いたら転移魔法で色々試さなきゃな……やることがいっぱいだ。やることリストでも作ろうか?




◆───────◆───────◆




 そしてやってきました、これから俺の自室となる部屋! と思ったけど案内されてる間にロイルさんから、召喚者たちをいつまでも王族の住む城に住まわせるわけにはいかないので召喚者専用の屋敷を建てると聞いた。


 俺は勇者だからそのまま城住みでも問題ない、寧ろそうしてほしいとのことだが、俺だけそれだと勇者だと言ってるようなもので、確実に不満を言う人が出てバレるので俺も移動になるだろう……。


 不満を言うだろう人、主に中崎とか異世界小説愛読者とか中崎とか中崎。


 取り敢えず一時的でも、やっと安らげる場所が手に入ったのだから嬉しい。


 部屋に着くとロイルさんは、それではごゆっくりどうぞ。と言って出ていった。


 さて、何から始めるか……転移魔法の検証? それとも目の前にある五人ほど横並びでも余裕で寝れそうな、大きなベッドにダイブしてお昼寝タイム──と少しわくわくするが、ふと思い出す。女神さまのことを……



……女神さま、オン



《…………》

あれ? 無言の女神さま。


オンにしたよね、んん?


《あの……女神さま?》


《……》


《女神レイリアさま?》


《……ぐすっ》


!? まさかの泣きっ──ちょっ、待って、あの……


《ご、ごめんなさい……》

泣く女神さまに謝罪以外が出てこない。女の子、ましてや女神さまを泣かせてしまったと思うと罪悪感がすごい……。


《……》


《えっと、本当にその……文句でもなんでも聞くので、泣き止んでもらえませんか?》

俺にできることならなんでもするので……と心を込めて謝罪する俺。


《……シズヤ無視する》

その気持ちが通じたのか、ぼそっとでも返事をくれるようになる女神さま。


《無視ではなく、オフにしていたので聞こえなかったといいますか……》

そんな幼子みたいな……。


《私のことオフにして忘れる……》

あーそれは弁解の言葉もない……。けど


《もう忘れません》


《……》


《約束します。》


《本当に?》


《はい。》


《……暫くオフ禁止》


《えっ あー……》


《約束》


《分かりました……》


《なら許す》


《ありがとうございます。》

やっとお許しがもらえた……。


 なんだか女神さまが拗ね過ぎて幼児退行してしまっているが……それも俺のせいだし何も言うまい。



《改めて、ここが俺の部屋らしいのでここでなら思う存分意識を女神さまに向けられます。》

一時的な自室ですけどね、と俺。


《うん。やっと落ち着けた感じね》


《はい。それでクラスメイト達……中崎と再会してしまう前に、自分のステータスを確認しておきたいのですが、この世界では「ステータス」や「ステータスオープン」ではないんですよね? なんて言えばいいんですか?》


《そういえば、その会話中に邪魔が入ったんだったわね。この世界では「アクセス」っていうの。それで自分のステータスが見れるわ。》

この世界では相手に見せることはできないから、それだけ覚えておけばいいわ。と女神さま。


《それは声に出さないと駄目でしょうか?》

恥ずかしくて少し抵抗がある……。


《心の中でも構わないわよ。言うことにキーとしての意味があるから声に出しても出さなくても言えばいいわ》

なるほど……少しありがたい。


では、アク──


 いざ、ステータス確認! と思っていたところでコンコンと扉がノックされる。


──ぬぁああああっ! 毎回毎回どうしてそうっ! さては俺にステータス確認させる気がないな!?


誰に言うわけでもないが文句が出る。致し方なし! はぁぁぁ……


「はい……」

渋々ノックに対し返事をする俺。多分、不機嫌は隠せていない。


「お、お寛ぎのところ申し訳ありません。これより食堂は夕食の時間となりまして、他の召喚者の皆さまも食堂に集まっておられますので、ご一緒にいかがかと思いまして……》

おずおずと訪ねた理由を述べる、多分メイドさん。


紅茶の人とは声が違うから別人だろう。


 夕食の時間か……日本と時間の流れが同じかは分からないが、俺たちが召喚されたのは放課後なのだから、もうそれくらいの時間なのは納得かもしれない。


「分かりました。行きますので案内を頼んでもいいですか?」

場所なんて分からないです。


「畏まりました。」



《ということで女神さま──》


《オフは駄目よ》


《う……はい》

暫くオフ禁止の約束だもんな……仕方ない。


 でも中崎が絡んできたらどうしよう? いや、テンション高い女神さまじゃなければ大丈夫かな……それでもできるだけ絡まれないように端っこにいよう。


 そう思い部屋を出ると待機しているメイドさんが目にはいる。


 やっぱり紅茶の人とは違うメイドさんだった。この人は案内のメイドさんと覚えよう。




◆───────◆───────◆




 案内のメイドさんに連れてきてもらって、やってきました食堂! うわぁ、クラスメイトが沢山いる……。案内のメイドさんは俺が中に入ると一礼して出ていった。


《ねえ、思ったんだけどシズヤって友達いないの?》

同じところから来たのよね? と女神さま。


んなっ 女神さまじゃなかったらグーでパンですよ?


《いいですか、俺たちが召喚されたのは入学して一ヶ月半くらいなんです。俺は同じ中学だったやつも、知り合いもいない高校に入りました。そんな環境で、一ヶ月半という短期間で友達ができるほど、俺のコミュ力は高くないだけです。作ろうとすればできますが、上部だけの関係なんていらないんです俺は》

少し早口になる俺……


《え、あぁそう……分かったわ》

う、何やら気を遣われている気配……


コホンと場を改める。


《とにかく、今はそれでよかったって思ってます。仲の良い友達なんていたら勇者であることを隠して行動を共にするのはキツいものがありますし……一人で行動するのは容易ではなかったと思います。》


 そうだ、そう思えば仲の良い友達を作らなくてよかった。一人で行動しても違和感ないしな、うん。自由最高。


《そうね、友達がいなくてもシズヤには女神である私がいるから大丈夫よ!》



 おおう、なんか友達がいなくても女神はいる。とかいうパワーワードが聞こえた気がした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る