第7話:協力関係

 ロイルさんに連れてこられた二人は、俺を一瞥いちべつするといぶかしむがすぐに姿勢を正して、国王さまに挨拶。まあ当然ですね。


そして一人が再び俺を見て、国王さまに問う。


「陛下、この者は?」

と耳が長い男性。見た感じ年齢は大学生くらい。黄緑色の髪。多分エルフってやつ。


「うむ、紹介しよう。その為に呼んだのだ。ただし、ここで見るもの聞くことは全て他言無用だ。よいな?」

友人や家族、恋人であっても許さん。と国王さま。


お? 思っていたより情報管理ができている? まあ口約束だけど。


かしこまりました。」

とエルフさん。もう一人の女性も頷いた。


口約束が成立した。



「では改めて紹介しよう、勇者召喚にて召喚された今代の勇者だ。」

俺を、ギルドのお偉いさんと思われる二人に紹介する国王さま。


俺も席を立ってその流れに乗る。


「只今ご紹介に与りました、今代の勇者シズヤ・オウジです。」

よろしくお願いします。と頭を下げる。


「勇者……だと?」

自己紹介してもなお、俺を見る目が厳しいエルフさん。


 しかし、もう一人の女性は切り替えたようで、ほほう? と言って話しかけてきた。


其方そなたが本物の勇者殿なのであれば、名乗らねばなるまい? わらわはファリオレ・キュイル。ギルドマスターを任されておる。ほら、お前も名乗りや」

そう言ってエルフさんに自己紹介を促すファリオレさん。


 ギルドマスターとは? と国王さまを見ると、ギルドのまとめ役だ。と言われる。社長みたいなものかな? これから関わりそうだからファリオレさんは覚えておこう。


 ファリオレさんは和服のような衣類を着ている……これも初代勇者が関係してるかもしれない。しかしそんなことより、狐のような獣耳に大きな尻尾がある……狐獣人ってやつかな? 白銀はくぎんの長い髪で胸元開けている、妖艶ようえんなお姉さんだ。


「私はセンチル・フィリット。サブギルドマスターを仰せつかっている……。」

そんなファリオレさんに促されて渋々と言った感じで名乗るエルフさん。ふんっ と素っ気ない。


 サブってことは副社長とか幹部的な役職の人かな? 別に覚えなくていいかな。エルフさんで。


 俺たちの自己紹介タイムが終わったタイミングで、二人分のティーカップが追加で用意され、国王さまによって全員が着席した。


「では本題に入るぞ。ファリオレよ、現在進行形で森で魔物が溢れかえって被害が増えていることは知っておるな?」


「はい。存じております。」


空気が変わった気がした。


「高ランク冒険者たちを持ってしても、被害は抑えられておらん。それどころか、頼みの綱の高ランク冒険者の中にも怪我人が増えている。低ランクとなると死人まで出していると聞いておる。間違いはないな?」


 冒険者にはランクがあるのか……何か実績を残すと高ランクになり、当然高ランクほど屈強な戦士なのかもしれない。それでも手に負えないなんて、低ランク冒険者と呼ばれる人たちに死人が出るのも納得だ。


「はい。冒険者総出で対処にあたっておりますが……未だ原因はおろか解決にも至っておりませぬ。」

弁解の言葉もない……とファリオレさん。


「ふむ……そんな状況を知って国の行く末を憂いた上級貴族たちにより提議され、検討した上で此度こたび一〇〇年ぶりに勇者召喚が行われたのだ。」


「なんと……」


 詳細は王家とロイルさんのみってだけで、勇者召喚というものがあること自体は誰でも知ってる感じなのかな?


「しかし曖昧な部分が多くてな、手違いで召喚されたのは男女二〇人前後。詳しくは言えんがそのうちシズヤのみが、一〇〇年前の勇者と同じことが分かった。」


 同じというのは適正魔法の件だろう。あれは機密なんだったな……。


「なるほど……では本物の勇者に間違いないのですね。年端としはも行かぬように見えますが……」


 年端も行かぬ? 確か幼く見えるとかそういう意味じゃなかったか? 失礼な、一六歳ですよ。


 俺が少しムスッとしていることに気付いたファリオレさんが大きな尻尾を揺らし笑う。


「ふふっ なんぞ、気に食わぬという顔じゃな? 其方そなたよわいはいくつじゃ?」


 国王さまと話している時とは話し方が変わった。使い分けているのか……器用だな。


「……一六です。」


「そうか。それではもう成人はしておるのだな。すまんかったの」

少し申し訳なさそうにするファリオレさん。


「いえ……」


ん? 成人してる?


「この世界では、一六歳って成人しているんですか?」

やっぱりこういう所も異世界なんだな、と思う。


俺の疑問に答えてくれたのは国王さま。


「そうか、シズヤの世界では違うのだな。こちらでは一五で独り立ち、成人として扱われるのだ。確かギルドの登録も一五から可能だったはずだ。」


 へー、じゃあ冒険者たちは全員一五歳以上なのか……。冒険者って案外、俺と同じくらいの歳の人が多かったりするのかな?


「あの、ファリオレさん。俺に冒険者登録をさせてもらえませんか」


「ほう、それまたどうしてじゃ?其方は勇者、金に困ることはなかろうよ。」


「先ほど国王さまと話していたのですが、あふれかえる魔物を俺が間引くのはおそらく問題ないと思われますが、それをギルドに黙ったままというのは要らぬ争いを招く恐れがあるといいますか……仕事を奪う行為になるのではないかと思いました。それならギルドの、ギルドマスターに俺という存在を把握しておいてもらって、仕事を奪うのではなく、手伝うような形にしたいと考えました。」

そこで手っ取り早いのが冒険者登録です。と提案する。


「なるほどの……きちんと関係性を考えたうえか。なかなか頭が回るものよの」

ふふっ とファリオレさん。


 感心されているようだが……そのくらいも考えられないと思われていたのかと思うと、少し釈然しゃくぜんとしないものがある。


「それではお願いできますか?」


 ギルドマスターであるファリオレさんの許可がなければ何も始まらない。俺が登録に行ったところで、出身国も適正魔法も書けないのだから登録段階で何かしら面倒ごとになるのは目に見えている。


 ギルドカードは異世界の身分証だという話も聞いたことあるしな……。


「よかろう、登録は妾がやっておく。発行したギルドカードは後ほど──宰相あたりにでも渡しておけばよいかの」


にこり、としているロイルさんを見て言うファリオレさん。


「はい。それでお願いします。」


よし。これで取り敢えず一つはクリア……と。


「討伐した魔物の素材はギルドで買い取ってやろう。持ってくるといい」


「ありがとうございます。」


 倒した魔物がお金になるのか……召喚の賠償とはいえ、全ておんぶに抱っこは申し訳ないしなんか嫌だ。稼いだお金は最低限だけ懐に入れて、あとは国王さまに渡そう。無料ほど怖いものはない、って言うしな。


「すいません。それともう一つ、俺は訳あって共に召喚された人たちに勇者だとバレるわけにはいきません。ですので、もしもの時には対応の方、お願いしたいです。」


手を借りるかは分からないが、備えあれば憂いなし。頼んでおく。


「あい分かった。その時は其方が勇者だとバレぬように手を貸そう。魔物の件、頼んだぞ勇者殿。」


うわ、むず痒い……


「シズヤ、と呼んでください……」


 ふふっ と笑って大きな尻尾を揺らすファリオレさんは、なんだか新しい玩具おもちゃを見つけたような雰囲気をしている。楽しそうで何よりです……。


あ! こちらも忘れちゃいけない。


「えっと、この勇者というのを秘密にする件は──」


俺が言い切る前に手で制する国王さま。


「分かっておる。他の召喚者たちがシズヤのおまけだと知れば、気分はよくないだろう。面倒ごとになるやもしれんしな……こちらも他言無用とするし援助、協力も惜しまん。よいなロイル」


「はい。お任せくださいませ。暫くはわたくしめが対応いたしまして、後ほど信用のおける者を選抜いたしましょう。シズヤ様のお世話係を考えておきます。」


俺に、お世話係ですと……?


「あの、別に俺にお世話係は──」


「お世話係、と言っても私どもへの連絡係と思っていただいて構いません。口が堅い者を選びますのでご安心ください。」

間髪入れずにこり、とロイルさん。


……だから貴方の笑顔は怖さしかないんですって。次は何を企んでいる?


「わ、分かりました……」


笑顔のロイルさんによる否応いやおうなしの圧に負けました。


 お世話係でも名ばかりの連絡係ってことなら、女神さまオンにするうえで支障はないよな……? ないと思いたい。


「世話係とな? なんなら妾が世話してやってもよいぞ?」

完全に面白がってるファリオレさん。玩具は俺。


 そんな胸元ガバッと開けて巨大な果実を晒しているお狐お姉さんに世話されるとか、変な扉を開けてしまいそうなので遠慮しますよ!


「ギルマスっ!」

ここで最初こそ警戒していたが、俺が本物の勇者と分かると黙って聞いていたエルフさんの待ったが入る。名前は忘れてしまったけどナイスです。


「冗談じゃ。」

拗ねた子供のように口を尖らせているその顔は言外に冗談ではない、と言っているようなものですが……大人しく引き下がってくれて何よりです。


 かくして二人を呼んだ本題である、魔物対策のためギルドへの登録申請。協力関係、勇者の正体の秘匿の確約が済んだ。



 その後、本日の要件が済んだことを察したエルフさんが、ギルドは今忙しい時だとファリオレさんを連れて帰っていった。

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