第10話:クラスメイトと話し合い

「はあ? 白峰しらみねに話しかけられて調子乗ってんだろうが!」

怒鳴る中崎。またギャンギャン言ってる。


 それとさり気なく副委員長の名前が発覚! 白峰っていうんだってさ。


《シズヤ……貴方、人の名前覚えなさ過ぎじゃない?》

ここでついに女神さまからのご指摘。


《え、いや……人生で確実に関わる頻度が多いならまだしも、そんなに関わることのない人の名前覚えても仕方なくないですか? 呼ばない可能性だってあるわけだし……そうなると名前覚える意味って思ってしまいます。》


 だから例外なく知り合った人全員の名前覚えてる人って尊敬します。真似はしませんけど。


《やっぱりドライね、シズヤ……》


《そうですかね? ああ、大丈夫ですよ。末長く共にするとのことなので女神さまの名前は覚えてますから! 女神レイリアさま。》


《そういう問題じゃないのだけど……まあいいわ》


「おい!」


あーはいはい。


「なんとか言ってみろよ!」


 なんとか。って言いたくなるけど、言ったら火に油で更に面倒になるってことくらい分かってる。


「はぁ……中崎。俺に絡んでて楽しい?」


「はあ?」


「俺に絡んでる暇があったら、好きな女子と会話する時間にあてなよ。」


「てめっ──」


「ほら、あっちで篠原さんが待ってるんじゃない? 別れるの待つんじゃなくて、わざわざ寝取るくらいなんだからさっさと愛しの篠原さんとこ行けば?」


 実はさっきから集まる視線の中に、篠原さんの視線もあることには気付いている。


 俺は有意義な時間の使い方を提案する。しかし中崎は、このっ!と言っててのひらに野球ボールサイズの火の玉を出した。


 俺はその火を見て、適正魔法の一つ目は火か……。と冷静に考えてしまった。次いでこの状況をどうするか考える。


 試してもいない転移魔法を使うか……いやそれは避けたい。しかし、火の魔法をまともにくらうのは防御力が分からないので遠慮したい。


「ちょっ!? 中崎君! 魔法はっ──」

副委員長が止めに入ろうとする。掌にはこれまた野球ボールサイズの水の玉ができていた。


 お、副委員長は水か……。しかし副委員長の水の玉で、中崎の火の玉が消されるよりも前に第三者の声と魔法。


「やめるんだ」


 声が聞こえたと思ったらピカッと一瞬の眩しさ。声の主の近くにいた中崎が、一番被害を受けたらしく目をおさえて文句を言う。


「てめっ 芹沢せりざわ!!」


「それ以上は看過かんかできないよ。」

委員長登場。


 委員長は芹沢っていうらしい。そして、そんな委員長の適正魔法は光か……。


「どういうつもりだコラァ! 邪魔すんな!」


「なんだい。クラスメイトに、しかも適正魔法を持たない應地君に魔法を使おうとしていた君に、僕が魔法を使って止めることはとがめられる行いかな?」


「くっ……」

何も言えず、ただ委員長を睨む中崎。


ド正論、論破だな。ぐうの音も出ないとは、まさにこのことだろう。


「それと、應地君がそろったらこれからのことを話し合うと、さっき言ったの覚えていないかい? 問題を起こしてもらっては困るよ。」


へー、そんなことになってたのか。


 委員長は中崎に向けてそう言うと今度はみんなに向けて声を大きくした。


「中崎君だけじゃない、みんなもだよ。“犯罪を犯さない限り”は援助してくれるとの約束なんだ。はやめてくれ。この世界に来たばかりの僕らが、何も知らないままこの城の外に放り出されてごらん……どれだけのクラスメイトが犠牲になるか。死にたいのかい?」

まだと決まったわけではないのに、と委員長。


 確かに現状知ってる人がいないだけで無い、不可能だとは言われてない。


《その辺りどうなんですか、女神さま》


《初代勇者は帰らないと選択したから分からないわ……》


そうか、勇者の周りしか分からないって話だったな。


 委員長の言葉を聞いたクラスメイト達は、中崎の行いを止めずに静観していた人が多いのでざわざわする。というか、止めようとしたのは副委員長のみだしな。


 みんなそこまで考えていなかったんだろう。もしくは、俺に消えてほしいって言外に言ってるのかもしれない。そこまで嫌われているとしたら、もう二度と会わないようにするしかないけどな。


 どうしても遭遇しそうな時は顔を隠すなりして、應地おうじ静弥しずやとしては二度と会わない……とかね。


「そうならない為にも、適正魔法が使えない應地君含めてみんなで、力を合わせないといけないんだ。勝手な行動で関係ない人を巻き込むのはやめてくれ。」

いいな? と中崎に視線を戻す委員長。


 もう雰囲気だけなら委員長が勇者だと思う。勇者のイメージ光属性だし。


舌打ちして黙った中崎を尻目に、委員長は副委員長に声をかける。


「怪我はないかい?」

イケメンかよ。


「大丈夫。中崎君を止めてくれてありがとう、芹沢君」

さながら王子様に救われたお姫様かな?


 委員長は副委員長ににこりと微笑むと、今度は俺に向き直る。ああ、その笑顔に何人もの女子が仕留められてるんですね? 俺も女子なら落ちてたかな?


《シズヤは例え女の子でも、それくらいで落ちる子じゃないと思うわ》


 そうですか? 言われてみると確かに、惚れるまでは無いかも。好印象にはなるかもしれないけど。


「委員長、ありがとう。助かった」

素直に感謝を伝えておく。


 実際委員長のおかげで、ぶっつけ本番で転移魔法を使わずに済んだ。もしもの時はそれしかないかと、腹を括り始めていたから助かった。もちろん、転移魔法を使う方にではなく魔法をくらう方に。女神さまお墨付きの自分勇者の防御力を信じてみようかと。


《痛くも痒くもないはずよ!》

ふふん! と女神さま。


ほら。


 でもそんな異常な防御力を、適正魔法が無いと判断されている俺が発揮したら不自然だし、何かを勘繰る人も出てくると思うからやっぱり感謝。


「どういたしまして。そういえば、宰相のロイルさんに連れて行かれていたみたいだけど、何かあったのかい?」

副委員長と同じこと聞いてくる委員長。


委員長も探ってるんだな。俺はさっきと同じ返しをする。


「何もない。ただ適正魔法がなくても対応するから気にするなって言われただけだ」


「そうか、それならいいさ。ならやっと全員集合だし、これからのことを話し合おうか。」


 委員長はそう言うと、俺から視線を外しみんなへ向けてまた少し大きな声を出す。


「ちょっといいかい、注目してくれ!」

パンパンと手を叩き視線を集めるようにする。既に集まってましたけどね。


「さっき言ったと思うけど、應地君も合流して全員が揃ったから、情報整理を兼ねてこれからどうするか、どうしていくかを話し合おうと思う!」


《助けられたわね》


《はい。委員長のおかげで目立たずに済みました。適正魔法が無いはずの俺が異常な防御力とか怪しさしかないですからね。》


《彼がピンチの時、一度くらい助けてあげるといいわ》


《……そうですね。そんな時がきて、それが俺の知るところであるならば、そうしましょう。》


《ふふっ 彼の方がはあるけどね。力は残念ながら平凡ねぇ》

と苦笑する女神さま。


初代勇者は委員長みたいな人だったんだろうか?


 俺が勇者らしくない、なんて言われなくても分かってる。俺は誰かを自主的に救いたいタイプの人間じゃないのでね。


「まず召喚されたのは、男子十一人の女子一〇人で合計二十一人。うちのクラスは三〇人いたはずだから、あの時に部活や帰宅に急いだ人はいない。教室に残っていた僕らだけが召喚の対象になったってことだね。」


 今初めて召喚された人数が判明した。二十一人か……これは一人召喚するはずが、何かの手違いで二〇人プラスされたってことか?


《うーん、召喚の時を見たわけじゃないから絶対じゃないけど……多分、魔法陣の大きさを間違えたんじゃないかしら?》


《そんなことで召喚される人数が変わるんですか?》

なんとはた迷惑な……。


《人数じゃなくてが変わってしまったのよ。》


あー、個人じゃなくて教室全体になってしまったってことか……。


 曖昧なままの召喚だって言ってたしな……何事も曖昧なままにするのは駄目だな。俺も気を付けよう。


「それでこれからのことだけど、今は二人一組になってその二人で一部屋使ってると思うんだけど、その二人でできるだけ適正魔法を試して自分の出来ること、力量を把握しておいてほしい。もちろん怪我したり城の人に迷惑をかけないようにね。」


 そんな委員長の発言に、ちょっといい? と手をあげる女子が一人。確か、副委員長と一緒にいるのを見ることが多い……多分、親友の女子だ。


「何かな?酒々井すすいさん」


副委員長の親友は酒々井というらしい。


「なんで把握しておいた方がいいの?」


「ああ、それはある程度みんなが自分の力量を把握できたと判断できたら、魔物の討伐に出てみようと思っているんだ。」

もちろん、みんなでね。と委員長。


衝撃のスケジュール判明だ。


 これは止めるべき……だよな? 通常時ならまだしも、今は勇者召喚に頼らなくてはいけないくらい、魔物が増えている状態だ。下手したら死人が出るかもしれない。



 それに勝手に魔物を討伐するのは、冒険者たちの仕事を奪う行為になり得る……そもそも、なんでそんなことを言い出した?

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