第4話:最初から詰み(4/20改稿終了)

《二属性持ち? そういえば、説明で出てきましたね……確か、闇の方が希少だけど、それでも持ってる人が多くはないっていう》


 うん、覚えてる。


《そうそれ。だからじゃない? クラスメイトの中でも、珍しいものを引き当てて力を得た。だから増長しているのよきっと。小さい男ね……》

ああ、やだやだ……と女神さま。


 まだどれくらいの割合で、存在しているかも分からないのに、クラスメイトの中だけで考えて、増長してるとか小物感がすごいな。


《二属性っていうと、二種類の魔法が使えるんですよね? 俺、大丈夫ですかね》


 中崎に殺されるなんて死んでも死に切れない。組み合わせによっては、大変かもなので少しだけ不安になる。


《何言ってるのシズヤ。勇者が、二属性持ちなんていう有象無象に、負けるわけがないでしょう。比べるのも烏滸おこがましいわよ? 勇者に対抗するなら、そうね……魔王とか【幻聖龍レリクトドラゴン】とか【精霊王】とか連れてこいって感じかしら》

少し呆れたような声色で凄いこと言う女神さま。


《えぇ……仮に連れてきたとして、それらに俺は勝てるんですか?》


 というか、この世界に存在するのかその厳つい存在達は……。名前を聞く限りでは、勝てる気が微塵もしないのですが……? てか、そんなのいるなら勇者要る? なんで召喚されたのさ……二桁の人間という、望まぬおまけ付きで。


《イレギュラーがなくて、シズヤの想像力がとぼしくなければ、まず負けることはないわよ? それも余裕で。幻聖龍と精霊王には、から……討つことはできないけど負けることも無いわ。魔王は一〇〇年前に討たれて以来、確認できていないから存在しないと思うけど……こちらも、負けることはあり得ないわ》

じゃないと召喚対象勇者にはならないでしょう? と女神さま。


 へぇ……死なない存在、不死身なんているのか……流石、異世界。



「はっ! 言い返す言葉もねぇだろ!!」



 あ、忘れてた。中崎(笑)、ごめん。


 女神さまとの会話は数分のこと。忘れそうに……いや完全に忘れていたが、まだ目の前には面倒ごとが服を着てこちらを見ている。


 面倒ごとが、服着るわ歩くわ喋るわで……もう面倒ごとの権化ごんげと言ってもいいかもしれない。


 んーどうしようかな、中崎コレ……。更に面倒なことになるだろうし、下手したらこういう存在が、中崎以外にも増えるかもしれないから、本当のことを言うのは避けたい……。


 しかし、このままでも面倒極まりない。そう思ってげんなりしていると、思わぬところから助け舟がきた。


「ナカザキ様」

と、いつの間にか近くに来ていた宰相の人。


「ああ?」

八つ当たりはやめなさい中崎。


 そんな中崎にも怯まない宰相は言葉を続ける。


「我々は、例え適正魔法をお持ちでなくとも、追い出したり見捨てたりはいたしません。それにこの世界にも、所持していない方が存在しますので……わけではありませんのでご安心ください。」

にこやかに、しかし目は笑っておらず……これ以上騒がないように、と視線でしっかり牽制しながら言い切る宰相。


 おお! これが大人の対応……。


 どうやら効いたようで、俺を睨みながらも舌打ちひとつして中崎は黙った。


「……」

黙りはしたが、まだ視線で射殺す勢いで俺を睨む中崎。


 そうだね、これからお世話になるんだから懸命な判断だと思う。理性が残っているようで何よりだよ。


 しかし本当に、何をそんなに憎まれているのか、そろそろ不愉快なのだが……どうにかならないもんかね。


 それより宰相の人……ろくに名前も覚えず、というか聞いていなくてすいません。名前なんだっけ……後で誰かに聞いておこう。お礼を言わねばなるまいよ。


「さあ皆様、いつまでも召喚の間ではなんですので……別室へご案内しましょう」


 タイミングを見ていたのか、存在を忘れかけていた宮廷魔導師のお爺さんが、声をかけて移動を促した。


 しかし、促した宮廷魔導師のお爺さんが、何やら他の騎士より少しだけ厳つい鎧の男性に声をかけ、声をかけられた騎士は先ほどまでいた場所から、一歩だけ前へ出ると、こちらを一度見渡して右手を左胸に当て口を開いた。


「私は、王宮騎士団団長を任されております、ケイルズ・フォル・カテットと申します。これよりザゼット様に代わり、私が皆様をご案内いたします」

よろしくお願いします。と団長さん。


 おそらく、あれは騎士の敬礼なのだろう。そして思わぬところで人物名! 多分、宮廷魔導師がザゼット。宰相の名前も誰か……。


《はぁ……まったく、宰相の男はロイルという名よ》

覚えるかは別としても、聞くくらいはしなさいよ。と呆れた声で教えてくれる女神さま。


 また呆れられてしまった。ロイルさんっていうのか……覚えておこう。


 ぶっちゃけ今初めて、居てくれて良かったと思いました。


《ちょっ!?────》


 また騒々しくなりそうなので意識から外す。


 意識的に意識から外せば、声が聞こえなくなると判明したので、これを有効活用していこう。騒ぎそうな時は女神さまオフ! オンオフの切り替え大事。



 俺達は、団長さんに連れられて召喚の間を出た。



「少し、よろしいでしょうか」


 あ、宰相の……ロイルさん! 忘れてない、忘れてないよ。


 召喚の間を出ると、俺にだけ聞こえるくらいの声量で、こそっと声をかけてきたロイルさん。年齢は五〇代くらいだろか? 一見優しそうな雰囲気だが、しっかり貫禄がある人だなあ。


 俺に何か用ですか? でも丁度いいからお礼言っとこう。


「ロイルさん、先ほどはありがとうございました」

助かりました。と軽く頭を下げて感謝を伝える。


「いえ、彼とは何やら因縁でもありそうですね。しかし、今はそれよりも……これから、少しお時間いただきたいのですがよろしいですか?」

最初はにこりと、でもそのあと何やら真剣な顔をするロイルさん。


 んん゛? 思わず身構える俺。頭の中で逃走手段を模索開始!


「な、何用でしょうか」

変な話し方になる。でも何か嫌な予感がするんだ……致し方なし!


「悪いようにはしないと約束いたします。キミにとっても有意義な時間となると思いますよ」

警戒MAXな俺に、にこりとするロイルさん。


何? 唐突に距離を縮めてきた! 笑顔が怖いです。


 一度とはいえ助けてくれたから、感謝はすれども……信用するのは早計だろう……出会って何分だよ? さて、どうするべきか。


「どういったご用件で……?」

言外に、ここで済ませることはできないのかを探ってみる。


 分からん……何かを企んでいる? いやしかし何を? ロイルさんは信用に値する? それは知り合ったばかりだし無理。何より、この笑顔信じちゃいかんと警笛が鳴っている……──


「それは……来てもらえれば分かりますよ」

にこりとするロイルさん。


「……分かりました」


 ──とはいえ、いつまでもここで疑っていても仕方ないし……平和的に逃げられる気がしないし、取り敢えずこの場は腹をくくることにした。


 でも、逃走手段の模索は引き続き続ける。ついて行った先で、何があるか分からないし……まだ自分の魔法のことが分かっていないから、必要以上にビビってるんです。


 早いとこ確認作業したいなあ……。





◆───────◆───────◆





 宰相のロイルさんに連れられてやって来ました別室! 多分、応接室みたいな、そんな感じの部屋。でも──


 ──聞いてませんよ。国王さまがいるなんて!


 いかにも【王様】な格好して、王冠を被っている三〇代くらいの男性なので確実と言っていいだろう。


 騙したなこの野郎! と目でロイルさんに訴えてみるも、亀の甲より年の功……「来てもらえれば分かる」としか言ってませんよ。という顔で、にこり。


 ぐぬぬ……確かにその通りだし、最終的にのこのこ付いてきたのは自分なので何も言い返せない。「ぐぬぬ」なんて思う日が来るとは思わなんだ。


「えっと……謁見えっけんの際の礼儀作法とか、何も分からないのですが……?」

頬が引き攣ってるのが自覚できるくらいピクついてる。


 日本には、謁見する王様なんていませんからね。いても会えるわけがないけどね身分的に。こちとらド平民ですよ。


 うわぁ、今すぐ逃げ出したい……。


「ここは【謁見の間】ではないので、堅苦しい挨拶は要らぬ。そこに座れ」


 「座れ」と言われても……上座とか下座とかなんとかあるでしょう!? それも正確には分からないんだってばっ!


 怒ればいいんだか、泣けばいいんだかよく分からないまま、ロイルさんを見るとやはり、にこり。ぬぁああああっもうやだあ!


 少し悩んだ末に、取り敢えず国王さまの対面の席へ座ってみることにした。


 間違ってる気がするけど、この際ヤケなので知りません。文句はロイスさんへどうぞ! と開き直ってみる。


「うむ。俺の名はザイルズ・レ・フォル・ロズレット。ここ、ロズレット王国の王だ」

特に気にした様子は見せず、堂々と名乗る国王さま。


 ここにきて国名発覚! 召喚国は【ロズレット王国】というのか。



 あと国王さまの名前は長い……よく噛まずに言えましたね? 慣れかな……名前で呼ぶ機会なんて無いだろうし覚えなくてもいいか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る