第3話:適正魔法は転移魔法(4/14改稿終了)

 ────水晶は、触れていない時と変わらないままった。



 クラスメイト達が、触れた時には赤やら緑やら……おそらく、属性に合わせた色が付いた、煙のようなものが水晶の中で、漂っていた気がした。


 しかし、俺が触れても何色にも色付くことはなく、光ったり割れたり──なんてことも無かった。



「うーむ、残念だがキミには適正魔法が無いようじゃな……」

水晶を覗き込んで、心底残念そうな顔をして告げる宮廷魔導師のお爺さん。


 ……宮廷魔導師は、遠目では分からなかったが、どうやら六〇過ぎのくらいのお爺さんのようだ──なんて、言ってる場合じゃない! けど、現実逃避したい気分。一体どういうことだってばよ?


《答えましょう! この女神レイリアが!》

張り切った声で女神さま。


 ああ……今は騒々しくても、なんでもいいから情報が欲しい、正直なりふり構っていられない状況なので、大人しく聞くことにする。


《うー……いつまで経っても、ぞんざいな扱いに不満があるのだけど……。まあ、今は見逃しましょう! いい? 勇者である、貴方が所持している適正魔法はズバリ【転移魔法】! 水晶には、は表示されないのよ。だから、無いって判断したんだと思うわ》

うんうん。と女神さま。


 ズバリ……


《転移、魔法……?》


《そう! 転移魔法は、属性に干渉されないから、水晶に表示はされないわ》

まあなんだけどねー、と女神さま。


 それも関係あるのか……。それが、文献に残っていないことを祈るしかないな。


《なるほど……》


 転移魔法か……転移って言うと、移動手段って感じだけど……勇者の魔法なのだから、それだけってことはあり得ないよな? 使い方によっては、強い……のか? まあ、後で色々試してみるしかないな……。


「──」


《そうよ! 魔法は、基本属性も含めてが大事なの。想像力と保有魔力量次第では、色々な使い方ができるから……勇者であるシズヤは、し、想像力さえあれば無敵ね!》

何故か、自分のことのように嬉しそうな女神さま。


 魔力量に限界が無いから無敵ってことは……保有魔力っていうのは、魔法を使うのに必須なエネルギー……みたいなものか。


 ならあとは、想像力と……体力さえあれば、無限に魔法を使うことが可能? それは確かに無敵だ。


《というか、シズヤはやらないの? 「ステータスオープン!」って》

後ろの子みたいに、と女神さま。


え? と思い見てみると、適正魔法を調べ終わって暇そうな、クラスメイトの男子が数名……「ステータスオープン!」やら「ステータス!」と言っている。


「──ぃ」


《えぇ? ……やりませんね。というか、アレで見れるんですか?》


 あれは、小説の中でのことだろうに……この世界でも、同じとは限らないだろう。


「──ぃ!」


《あれじゃ無理よ? あれは、シズヤが言うように別の世界のものね。この世界で、ステータスを見るなら──っていいの? さっきから呼ばれてるみたいよ?》

私もスルーしちゃったけど、いい加減……と苦笑の女神さま。


「おい! シカトしてんじゃねぇ!!」


 女神さまに言われて、意識を向けてみると……そこには、クラスメイトの男子の一人──確か……なか、中崎なかざき! が不機嫌全開の表情をして、こちらを睨んできていた。


 うん、ギリギリ覚えてた。チラホラ噂が聞こえる奴だからな。それに──の男だ。


「ん?」

いつから呼んでいたかは分からないが返事をする。


「ん? じゃねぇ! 應地おうじ、お前って適正魔法が無いんだってな? ほとんどの人が持ってるって話だけどよ」

眉間に皺を寄せながら中崎。


 俺よりも、身長が五センチほど低いので少しだけ、見上げてくるが……それがまた気に食わないのか三白眼で睨んでくる中崎。


 あれ? 中崎で合ってるよね? 取り敢えず(仮)付けるから、落ち着いてほしい。


「……ああ、そうらしいな」

取り敢えず返事しとく。


 それにしても、あぁ面倒くさい……中崎(仮)が言いたいこと、これから言うことや、目的のようなものが手に取るように分かる。


 はぁ……俺は、あの時きちんとしたのに……それでも、突っかかってくるのか。もう関係ないし、二度と関わりたくないと思っているのに。


 まあいい、召喚のせいで認識が曖昧なんだろう……丁度いいから、再度ハッキリさせておこう。これ以上の面倒ごとは勘弁だ。


「分かってんのか? 俺達は現状帰れないんだから、この世界で生活しなきゃいけねぇのに……その中で、お前だけ足手まとい確定ってことだぞ?」

自身の機嫌を隠さないで、突っかかってくる中崎(仮)


 だが……盛大な勘違いをしてらっしゃる。


「適正魔法が、からって……何もできない、とは限らないだろ?」

言い方を、わざと変えてみる。


 俺が、面倒くさがっていることに、気付いてしまったのか……中崎(仮)はヒートアップ。


「ぁあ? ンなこと言ってっから、彼女寝取られんだよ!!」

何か脈絡の無いこと言い出した中崎(仮)


 それにしても……寝取った、ねえ? 付き合った期間は約一ヶ月。で、その間にキスはもちろん、手を繋いだことすらない。付き合っているかも曖昧な、彼女を取られたところで、辛さや未練なんて微塵もないけどなあ……。


 寧ろ、思ってたよりも早く解放されて……感謝こそすれ、恨みは一切ない。


 どちらにせよ、今それは関係ないと思うが……中崎(仮)は、周りに説明するように「いいかよく聞け」と言い言葉を続けた。


「魔法が使える世界で、魔法が使えないっていうのは、明らかに無能だろうが! 魔物以外が、ほとんど持ってるもんを持ってねぇんだぞ? 無能じゃねぇって言うなら、魔法が無いとできねぇことを、お前はどうやんだよ?」

ぁあ? 言ってみろよ! と中崎(仮)


 周り──クラスメイト達に、俺が無能であるということを、認識させようとしているみたいだ。


 「表示されない」と言っただけで、使とは言ってないけどな……。まあ、わざわざ訂正なんてしてやらないけど。


「中崎……召喚で曖昧かもしれないが、俺達はもう別れた……。既に無関係だ。それでも、まだ突っかかってくるのは何故だ? 何が気に入らない、どうしてそこまで俺に噛み付く?」

さり気なく名前を確認しつつ核心を突く俺。


 名前が違ったら訂正してくるはず……。


 それに、こういう人間に回りくどい言い方は悪手だ。どんな言い回しをしても、理解しようとしない。ならば、直球ドストレートで聞いてやるのが一番。


「当たり前だ、ボケカスがッ!! そもそも、お前なんかと香澄かすみが釣り合うわけねぇだろうが! お前は、前から気に食わなかったんだよ。いつもスカしやがってクソ隠キャが! あっちではお前なんかに犯罪犯して、捕まるわけにはいかねぇから放置してたけどな……こっちでは関係ねぇ」

俺を口汚くディスりつつ、犯罪犯す一歩手前だったと白状する中崎(仮)から(仮)取れて中崎。


 名前に訂正が無いってことは合ってたんだな。やったね! 人の名前覚えるのは苦手だ。覚えておきたい人なんて、今までいなかったし……他人の顔もじっくりは見ないから……名前と顔を一致させるのは至難しなんわざ


 ちなみに、香澄というのが俺の元カノだ。篠原しのはら香澄かすみ……自分大好きで、自己中心的な女子。詳しくは、また別の機会に。


 ん? って……異世界では、俺の命を狙うよっていう殺害予告と思っていい感じです?


「まあ、俺が何かしなくても? 適正魔法が無いお前じゃあ、生き抜くのは厳しいだろうけどなあ? 何日、生き延びられるか見ものだぜ」

ククッとわらって言う中崎。


 その顔は、さながら悪虐非道なタイプの、魔王のようだな中崎。今世の魔王はお前だったか──と、冗談もそこそこに。中崎は、まだ何やら言葉を続けているが、中崎を相手するのに疲れたので、ここで女神さまへ意識を向けてみる。


《ねえ、シズヤ……この子何? なんでこんなに、ギャンギャンしてるの?》

心底不思議そうに聞いてくる女神さま。


《さあ? なんででしょうねえ……俺も知りたいです》


 知ってたら苦労しませんよ。殺害予告までされちゃいましたよ?


 いやしかし、中崎が騒がしいからか……女神さまは、落ち着いて静かになってくれたので、しゃくだが少しだけ感謝。


 それにしても……中崎はこんな人間だっただろうか? きちんと関わったのは初めてだが、クラスメイトなので一応、俺が名前を覚えているくらいには知っている……ギリギリだったけど。


 それに、こういう人間だという噂や、会話なんて聞いたことが無かった。適正魔法があり、魔法を使えるようになって、増長しているのか? いや、それくらいなら他のクラスメイト達と変わらないだろうし……──



 ──あ、何かを得た? なんとも、厄介極まりない人間に成り下がったものだ……。学校含め、あちらで絡まれたことはなかったが……隠していたか、俺が知らなかっただけで……元々、こういう人間性なのかもしれないな。こういう時こそ、本性って出るものだろうしな。



 中崎……名前は知らない。同じクラスで、サッカー部所属……俗にいうイケメンな容姿で、身長は一七〇センチ。その整った容姿と、周りを盛り上げる明るい性格ゆえに、女子に告白されることは多く……女に困らない男らしい。


 男子の会話を、小耳に挟んだ話によると……寝取りを楽しむクソ野郎。そして──


 ──俺が付き合っていた、篠原さんを寝取ったN T R間男(NEW!)



 まあ、よく考えてみればこれくらいしか知らないな。


 友人だった訳では、勿論ないし情報のほとんどは、見た感じとクラスで誰かが言っていたことだし……実体験はNTRくらいか。


《へー……なるほどね? ああ、増長している原因なら、あれじゃないかしら? あの子、二属性持ちみたいよ》

一人だけね、と何やら分かっているらしい女神さま。



 へぇ……?

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