第2話:世界の現状(4/14改稿終了)

 宮廷魔導師曰く、この世界には【魔物】と呼ばれる生き物がいる。そして、その魔物は人を喰らう存在である。


 そして現在、その魔物が例年よりも異常に増えて、国難になり得るほど困っているため、この国に残る王家の伝承や文献を頼りに【勇者】を召喚して、魔物を減らすため手を貸してもらおうと考えたらしい。


 この国の文献に残る勇者とは、“最終的にのようだ。と思える強さに至れる唯一の”なのだそうだ。


 一〇〇年ほど前に〖【魔王】と呼ばれる、魔物の王を討つために召喚された〗きりで、既に当時関わった人は存在しておらず、伝承や文献でしか残っていない、遥か昔の物なので、勇者や召喚について曖昧な解釈と把握しか、できていないのだという。


 そんな、曖昧なものに頼らざるを得ないほどに、切羽詰まった状況で……まさにわらにもすがる思いで、勇者召喚を行ったとのことだった。


 それを聞いた、クラスメイト達の反応は大きく分けると二つ。


 人を喰らう、魔物という存在がいることに……泣き崩れ、絶望感に打ちひしがれたり、自分に勇者の可能性があるという事実に目を輝かせたり……。


 クラスメイト達の反応を見てから、宮廷魔導師は適正魔法について、説明を始めた。


 補足だが、この世界の宮廷魔導師とは“魔法を導く師”であり、この国で一番魔法に長けている人物が就ける役職なのだそうだ。決して、禍々まがまがしい感じの怪しいものじゃない。実際、俺たちが見た宮廷魔導師は、優しげな雰囲気のある長く白い髭のご老人だった。


 

 閑話休題。



 適正魔法とは、偶に持って生まれてこない人もいるが……基本的には、魔物以外の生き物ほとんどが持っている力である。


 それは、基本属性と言われる火、水、風、土、光、闇の六属性だということ。ここまでは、女神さまも言っていたが……更に──


 ──適正魔法は、遺伝にはまったく関係なく、完全なランダム配布であるということ。稀に、【二属性持ち】といって、二つの属性を持っている人もいるらしい。


 しかし、それよりも希少なのは基本属性の中でも闇だ。

 

 現在、確認できている適正魔法の所持者には、存在しないほどだそうだ。


 それを、聞いたクラスメイトの男子が、何人か目をキラキラさせていた。

 

 そうだね、それがあればきっとチートだもんね。扱いは最上級……待遇は他のクラスメイトよりグレードアップするだろう。


 そして、適正魔法は専用の水晶でのみ、調べることができる。それ故に、一般的に販売はされておらず、その水晶は宮廷魔導師と【冒険者ギルド】という所が、所持しているらしい。


 更に、闇でなくとも所持している、適正魔法によっては優遇することもあると言う。それを聞いたクラスメイト達は、チート希望者も含めて……泣いていた人の中にも、涙を拭い希望を見出す人もいた。


 この話の後に、クラスメイト達は宮廷魔導師が持つ、水晶の前に一列に並ばされ……現在は、一人ひとり所持している適正魔法を調べている。


 それが、今ココってやつだ。


 ちなみに、この世界ではステータスを開いていても、他人に見られてしまうことはなく、適正魔法を調べることができる水晶でさえ、見ることができるのはと、魔力量……それとその適性が高いか低いかだけだそうだ。


《いい? 適正魔法を調べる方法は、専用の水晶以外にないわよ。ちなみに、他人のステータスを見る方法は、魔法も魔道具も含めて存在しないからね!》

 教えてくれる女神さま。


《【鑑定】とかそういう魔法? も無いんですか?》


 定番で、時にはチートって聞いたことがあるそれ。


《鑑定はあるわ。適正魔法を持たない子でも使えるものよ! ただ……他人のステータスはもちろん、適正魔法を見ることはできないわ。見れるのは、物や人……それと魔物の名前。あと、保有魔力量が多ければ物の品質や、人の健康状態の良し悪し、なんてのも見れたりするから……商人や薬師なんかは保有魔力量が多い子がなったりするわね!》

ちなみに、勇者も保有魔力量が多いわよ! と女神さま。


なるほど。保有魔力量が多い方が生きやすそうだ……。


《では、この中に……勇者はいますか? いや、勇者召喚したのだからいるか……勇者は、誰ですか?》


 核心をついてみる。


《その質問っ! 待ってましたぁああっ!!》

声を張り上げる女神さま。


 あぁ……また一段と、騒々しくなってしまった……。


 これからは、質問の内容をよく考えてから──いや、聞きたいことを聞いているのだから、どうしようもないか……女神さま、チェンジで。


《はーい、そこーっ! 騒々しいとか言わない! あとチェンジって何よ!? 私しかいないから! というか扱いっ! 女神だぞ? ん?》

そこら辺ちゃんと理解してる? しててそれ? と女神さま。


 先ほどは、少しマシになっていたのに……また、テンション爆上げに戻ってしまった。


 声が頭に響いて、そろそろ頭痛が……というか、女神さまってこのざん──レイリアさましかいないのか……。もっと沢山いる中で、現在のこの世界担当的なものが、レイリアさまなのかと思った。


 しかし、ずっとこんな感じなのかと思うと……ため息しか出ない。


 はぁ……そもそも、なんでこんなにテンションアゲアゲパーリーゴッドなんだろう、この女神さま……。テンションのせいで、有り難み的なものが感じられないのですが?


《もー! そんなうんざりした顔しない! あとパーリーゴットって何? パーリーピーポー、パリピって言いたいの? 騒がしい=パリピみたいな認識なの? ねえ》

弾丸トークな女神さま。


 はぁ……有り難みより、寧ろ一抹の不安を禁じ得ない。この女神さまで、果たしてこの世界はまともなのだろうか……。


《仕方ないじゃないっ! 一〇〇年ぶりの勇者よ? これで一〇〇年ぶりに事務仕事から解放され──ッ! コホン、そんなのテンション上がるに決まってる! もう爆上げよ!》

目ぇキラッキラさせている、まだ見ぬ姿が想像できるお声で、一人盛り上がる女神さま。


《さいですか……》


 勇者がいない間の女神さまって、事務仕事なんだ……なんだかリアルな天界? 事情を知ってしまったかもしれない。


《シズヤも、もっとテンション上げましょうよ? せっかく、勇者になったのだから……ね? ゆ・う・しゃ・さ・ま》

語尾にハートでも付きそうな言い方の女神さま。


《──……は?》


 待った。


《ん? どうかしたの?》

キョトンとした声の女神さま。


《いえ、今なんか受け入れ難いことを言われた気がして……》


《んー? どの部分でしょう、勇者シズヤ》

透き通るような声色で言い切る女神さま。


 くっ……絶対分かっててやっているのが、何故か分かってしまうっ! というか、そんな声色できるなら最初からそれでいてほしい!


《その部分しかないでしょう、その部分しかっ! え、本当に? 真ですか? マ?》


《それ知ってるわ。ギャル語ってやつよね? 急にギャル語とか草生えるー!》

あはははっ! と楽しげな女神さま。


 女神さまが何か言ってるが、こっちはそれどころじゃない。


《だって、俺が勇者召喚のお目当てである勇者ってことは……クラスメイト達、総勢二〇名前後が異世界に、召喚されてしまった。ということで……うわぁ、なんか申し訳なさ過ぎる》


 そりゃあ動揺し過ぎて、正確な意味は分からない、聞き齧りのギャル語なんて使ってしまうわ。しかし今はそんなことよりも──


《ほ、本当に……俺が勇者で間違いないんですか?》


 これが実は、冗談だよ! なら大きな問題はないが……本当ならば、水晶が俺の番になる前に、確認しておかなくてはいけないことが、いくつかある……。


《そうだよ? 逆に、女神である私とになるわけなくない? なくなくない?》

あれ? なくなくなくない? んん? と女神さま。


 ……あぁ、この女神さまが目の前にいなくて良かった。


 目の前にいたら、絶対殴ってた。グーで。


《グーは痛いっ! いや、パーでもチョキでも男の子が女の子、ましてや女神を殴るのはダメだと思います!!》

挙手でもしてそうな勢いで訴えてくる女神さま。


 でも今のは仕方ない案件だと思います。


 それにしても……俺という勇者に巻き込まれた、召喚だとクラスメイト達が知ったら……男子には嫉妬され、女子にはお前のせいで! と袋叩きにされそうだ……考えただけでも、背筋に冷たい汗が流れた。


 俺が動揺していると、いつの間にか例の水晶が目の前にあり……ついに、俺の番になってしまったことを主張している。


 それも、一番最後の大トリなので……変に焦っている俺は、物凄く目立っている。その目立っている状況と、自分が勇者であるという事実が合わさり、吐き気を催すまである。気分は最悪だ。


 そんな、俺の内心を知らない宮廷魔導師は、早くしろと急かすが……勇者の場合の適正魔法は、表示が変わったりしないのか、それが伝承や文献で伝わってしまっていたりしないのか……何より、この水晶で俺が勇者であると、バレる可能性はないのか──


 などを、自らの思考さえごちゃごちゃにさせながら、女神さまにまくし立てるも、情報を整理する前に焦れた宮廷魔導師のせいで、ついに水晶に触れてしまった。



 すると水晶は────


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