第1話:フラれた瞬間クラス転移(4/11改稿終了)

一つだけ、本作品に出てくる女神さまはCV:花澤○菜のイメージでご想像ください。

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 予鈴が鳴り、本日のカリキュラムが全て終了したことを知らせる。本日の授業は六時間で組まれており、ラストの担当は担任教師だったのでHRホームルームも既に終わり、他のクラスよりも一足先に放課後となった教室。


 既に教師は教室にはおらず、クラスメイト達は各々部活があるなら部活へ、遊びに行く帰宅組は友人と集まり、この後どこ行く何すると話に花を咲かせている。


 そんな、いつもと何も変わらない風景を見ながら、俺もそろそろ動くかと重い腰を上げた。一ヶ月ほど前から、始まった約束された行動……席を立ち、鞄持って約束をしているのもとへ行く──のだが、今日は彼女が先に席を立ち、俺の目の前までやってきた。


 いつもとは違う行動に驚くが、しかしうつむいて目の前に立っているだけで「帰ろう」ともなんとも言わない。不思議には思うものの、何か言いたいことでもあるのかと、言葉がかぶることがないよう、受け身で待ってみるが……よく分からない時間が流れる。


 それが数分続いたところで、流石に違和感を感じたのか、部活に遊びにと騒がしかったクラスメイト達の中には、動きを止めて段々その声を小さくしていき、チラホラ視線をこちらに向ける人も出てきた。


 こっち見んな! っていうのはこういう時に使うべきだよな? と考えるものの、俺はそんなことを言うキャラではないので言わない。


 そんな状況に、気付いているのかいないのかは分からないが、俯き黙って立っていた彼女は、少し大袈裟なくらい大きく息を吸い込んで、明らかに俺だけではなく、周りのクラスメイトにも聞こえるように、半ば……叫ぶように俺の名前を呼んだ。


應地おうじくんっ!」

意を結したような顔で言う、彼女こと篠原しのはら香澄かすみ


 当然、静まる教室。


 教室を出ようとしていた人も、友人と話していた人も……興味なさそうだった人も、声をあげた彼女に視線を向けて何事かとざわざわする。このクラスには悲しきかな、應地という苗字は俺しかいない。ホント勘弁してください……。


 先ほどよりも、視線が増えて不快な気分になるが、呼ばれたのに無視をするわけにはいかないので返事をしぼり出した。



「……何?」

出来るだけ短く返事する。


「その、あのね……私達、別れよう……」

を出して、ごめんね……と別れを告げる彼女。


 彼女が別れを告げて、俺が思ったのはただ一つ──本当に性格の悪い女だな……。


 ほんの一瞬だけ、脳の処理が止まりかけた──が致し方なし。


 ショックだったのではなくびっくりしたのだ。唖然とした……の方が正しいかもしれない。


 彼女と付き合ったのは、二度の告白を経て……これ以上は、なんだか悪いというか可哀想になってしまったがゆえに折れただけだ。


 さらに追撃で「別に今、付き合ってる彼女がいるわけじゃないでしょ?」なんて言われてしまったら……実際にその通りなので、何も言えなくなった。


 それ故に渋々、付き合うことになったのが約一ヶ月前。


 付き合った──付き合わされた当日に“毎日一緒に帰る約束”をさせられて……更に、俺から誘いに来るように言われたものの、先ほどのように苗字呼びのままだし、手を繋ぐことはおろか身体的な接触なんて皆無。


 それで現在に至るので、特に未練や思い入れみたいなものは無いのだが……なんか無駄な時間を使わされた気がして少し腹が立つ。


 しかし、別に引き止める理由はないし、早いとこ関係を切りたいので、文句は言わずに終わらせよう。は、きっと永遠に謎なままだが……まあいいだろう。忘れられるレベルだし。


 彼女が俺の名前を呼んだ時点で、クラスメイト達はほぼ全員、こちらに集中しているとみていいだろう。会話や、動きを止めているので教室は静かだ。


 そんな教室に、彼女の声はよく響いた。


 そして、たまたま視界に入ったでなんとなく、色々なことを察することができた。だから──


「分かった」


 それだけ。


 別れの言葉に対して、その了承の返事だけを伝えて、一刻も早くこの状況と話と関係を、終わらせて帰ろうとした時だった。



 震度五はありそうな揺れと共に、目を開けていられないほど、眩しい光に教室中が包まれ、視界が一瞬で真っ白になった。


 そして、クラスメイト達が異常事態に叫ぶ中、俺の意識はブラックアウトした。



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 冷んやりとした石の感触が、頬から伝わり意識を覚醒させられて目を開ける。


 そこはいわゆる【異世界】だった。


 其の手の小説を、自分で買ってまでじっくり読んだことはないが……教室でクラスメイトの誰かが、話しているのが聞こえてきたり、本屋に行くとおすすめとして、小説や漫画がピックアップされ、映像でもアニメ化されたものが流れていたり……SNSで、タイムラインを流れているのを見かけたりして、そういうものがあることは知っていた。


 いわゆる“異世界もの”と言われる、例えば……事故や疲労で死んだと思ったら、記憶はそのままだけど、新たな体で異世界に転生していたり……体はそのままである日突然、異世界に召喚されたり……といったものがあると記憶している。


 そして、今まさに目の前には騎士……兵士? いやなんとなく、騎士な気がする……いや、どっちでもいいか。兎に角、それらと思わしき鎧を着た人間が数名いる。


 だ。そんなのもう、異世界しかあり得ないだろう……さっきので言うなら完全に後者。


 するとあれか? 【クラス転移】や【クラス召喚】と言われるやつか……なんて、まだぼんやりとしている頭で考える。


 その間に徐々に起き上がり、戸惑いの声をあげるクラスメイト達を見て、俺の方は逆に冷静に──


《違いますよ? 俗に言う〖巻き込まれ〗ってやつです!》


 ──なってきた──────…………は?


 思わず周りを確認するも、戸惑うクラスメイト達しかおらず違う。今のは明らかに、聞こえてきた感じだった……。



《そう。私は今、貴方の脳内に直接話しかけています! 口に出さずに心の中で思ったことは私に聞こえるので、それで会話できますよ!》

頭の中に、すこぶるテンションの高い女性の声が響く。


 …………考えたことが筒抜けとか、なんて生きにくい世界だ……。軽く絶望。


《あ、他の方には分かりませんよ? 私にだけです。そして私の声が聞こえて、会話をすることができるのも、貴方だけです! ですよ? やったね!》

ドンドン! パフパフ! と騒がしい女性が一人で盛り上がっている……。


 テンションアゲアゲで、正体不明の騒々しい女性の声に、逆に俺のテンションは下がる一方だが……少しだけ安心した。


《騒々しい!? 酷い! 私と貴方は、これから末長く人生を共にする、運命共同体、即ちパートナーなのに! その言い草は酷いと思います!》

声を張り上げる女性。


 はぁ……取り敢えず、何でもいいから今は説明をお願いすることにしよう……。


《まず、貴女は誰ですか?》

なんとなく、察するものはあるが……一応聞いてみる。間違えていたら一大事だしな。


《え、少し冷静過ぎない? いきなり質問タイム? 早くも私の扱いが雑じゃない? ……えっと、貴方達からすると【神様】と呼ばれている存在、ズバリ! 女神様よ! どう? 分かったらさっきみたいな雑な扱いは──》


《……ここは、異世界で合ってますよね?》


 大人しく話を聞いていたら、日付が変わってしまいそうなので、淡々と質問する。


《ちょ、ちょっと待って! 何かリアクションは? ねえ、女神様よ? 人生で一度も会えないのはもちろん……【聖女】ですら、声を聞くこともできない存在よ?》

神託しんたくは文字なんだから! と女性。


 なるほど? では──


《──女神さま、質問に答えてください》


 女神さまのレアリティは分かったけど、今の優先順位はこちらの質問の方が上なので。


《違う! そうじゃない! うー……初対面なのに女神の扱いがぞんざい過ぎない?》

「女神さま」って言えばいいわけじゃないの! とうなる女神さま。


 対面はしていないけどな。せっかく改善したのに、お気に召さなかったようだ。でもやっぱりそれよりも──


《──答えてください》


《あー! もー! そうです! ここは貴方達がいた世界とは異なる世界、魔素があり魔法が使える異世界ですー!》

半ばやけくそ気味に、女神さまが答えてくれた。


《魔法は、誰にでも使えるのでしょうか?》


 半ばやけくそでもいいから、この調子でどんどん答えてほしい。


《はぁ……ちょっといいかしら? 私まだ名乗ってもいないし、貴方の名前を聞いてすらいないのだけど? いつまで“貴方”と呼ばせる気かしら?》

不満しかありません。と言いたげな女神さま。


 しかしこちらも、今は時間に余裕がないので後にして欲しいのだが……


《名前? 神様ならば知っているのでは?》

どうせ何から何まで全て、まるっとツルッとプリッとお見通しだろうに。


《ツル? プリ? ……だとしても! 人間だって普通は、自己紹介から関わり始めるでしょう? それを私達はしていないのよ!いわばまだ始まってすらいないのよ! 分かった?》

その場にいれば、ビシッとこちらを指差してそうな言い方する女神さま。


 あー、俺はそんな風に関わり始めたこと、無いから分からないなあ……。


 しかしなんとまあ、変なこだわりのある女神さまだ。後でもよくないか? とはいえ、そうだな……


《では……俺の名前は應地おうじ静弥しずやです。よろしくお願いします》


 入学後、担任にさせられた時のように自己紹介する。


《やっとね……普通はもっと序盤にするべきことなのだけど……では改めまして、私の名前はレイリア。女神レイリアよ》

ふふん! と胸を張っていそうな声で自己紹介する女神さま。


 担任と違って、短いだの他に何かアピールないのかだの言われず、少しだけホッとする。


《分かりました。では先ほどの──》


《だからリアクションーっ!! はぁ、もういいわ……答えは、いいえ! この世界では【適正魔法】というものがあってね、それがないと魔法は使えないわ。そして、その適正魔法にはというのがあって、それは【火】【水】【風】【土】【光】【闇】の六属性。魔物以外の生き物はほとんどが持っているものだけど、たまに持たずに生まれてくる子もいるわ》

理由は世界の、バランスのため──大人の、神様の事情ってやつね。と女神さま。


《なるほど……その適正魔法があるかどうか、調べる方法は──あの水晶以外にもありますか?》

そう言いながら、水晶に目を向ける俺。


 実は、こうして女神さまと頭? 心? の中で話している間にも、普通に時間は進んでいる。時を止めて会話しているわけではない。


 現在は、宰相と名乗った男性が紹介してきた、宮廷魔道師と呼ばれるローブを着ている人によって、バスケットボールサイズの水晶で、適正魔法を調べるために一列に並ばされている。


 女神さまから、情報をある程度貰ってからが好ましいので、俺は一番最後に並んだ。



 ここまで、長々と話していた宮廷魔道師の話も含め、俺が女神さまと話している間、聞こえてきたことをまとめると……こうだ。


 大体、全員が起き上がったタイミングで、二人の人間……一人は宰相の……えっと、忘れた。兎に角、宰相が入ってきてその後に、続くように宮廷魔道師が入ってきた。


 そして、二人は戸惑うクラスメイト達を一度見渡すと、静かにするように言い、その時に状況の説明を求めた、クラス委員長の芹沢せりざわの問いに答えていった。


 ああ、この芹沢は男だ。異世界ものでは、委員長といえば……真面目で時に眼鏡をかけた、黒髪美少女が多いらしいが……我らが委員長は、芹沢という男子生徒だ。副委員長は女子だが、まあそれはまた別の機会に。


 それで判明したのは、俺達が召喚された冷たい石畳の床の部屋は【召喚の間】と呼ばれる部屋だということ。

“【勇者召喚】を行い、一人の人間を召喚する予定が、何故か複数の人間が召喚されてしまった”ということ。


 これが、さっき女神さまが言っていた、巻き込まれ……ということなのだろう。


 勇者一人だけを召喚する予定が、その一人に巻き込まれて……クラスメイト二〇人前後が召喚されてしまった。


 予定していなかったとはいえ、無責任に追い出すのではなく、巻き込んでしまったことへの謝罪を宰相にされ……元の世界に帰す方法が、分からないという白状に一悶着あったが、賠償として、この世界で生きていくために生活の援助をする。と約束してくれたので、クラスメイト達の不安はいくらか解消されたようだった。


 ホッとした顔をしているがそれでいいのか? 追い出さないのは、誰が勇者か分からないからだろう? 犯罪者に仕立て上げられたらどうする? まだまだ不安は消えないはずだが……まあ後で誰かが気付くだろう。


 しかし、帰れないと知って泣き崩れる女子は複数いたし、不安がゼロになったわけではないので前途多難だろうな。


 女子のほとんどは泣き、男子は不安を隠せない人が多いが、何故か喜んでいる人もいる……これが小説の影響なんだろうな。不安はあるものの、小説の中に紛れ込んだような、物語の主人公になったような気がして、好奇心が勝っているように見える。


 チートが来ますように! などと叫んでるやつもいて……もう少し空気読もう、一部の女子が睨んでいることに、早いとこ気付いた方がいいぞ。



 そして、女子の泣き声がいくらか落ち着いてきたところで、宮廷魔術師がこの世界について説明を始めた。



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