第3話
レモネードも飲み終わって、帰るかと夏生は思い、カウンターに向って声を掛ける。
「ひよりー、帰るからー!お金、ここに置いておくよ!」
夏生がお金を置いてでて行こうとすると、気まずそうに奥からひよりがでてきた。
「ひより?」
「待って、私も行く。」
「?」
「おじいちゃんに買い物頼まれた。」
ひよりは目線を合わせずに言うと、夏生の後ろに立った。夏生は、なんだか嬉しくなってにこりと頷いたのだった。
店を出て二人は歩く。
「何頼まれたの?」
ひよりは不機嫌そうにメモを夏生に見せる。そこには、ずらりと品物が書かれてあった。
「ええ!?こんなに?」
ひよりは無言で頷く。すると夏生は、何かを思いついてひよりの前に走り出た。
「そうだ!私も付き合うよ!」
「えっ!?どうして?いいよ!第一、帰るところでしょ!」
「どうせ帰っても暇だし!行くよ。一人じゃそんなに持てないでしょ?」
「そうだけど・・・でも・・・。」
「いいって!二人なら楽しいよ?ねっ?」
「・・・・・!」
二人なら楽しいよ?
そう迷いもなく言われ、ひよりは戸惑う。
楽しい?私といて、楽しいって言ってくれるの?
ひよりが躊躇っていると、夏生はひよりの手を取ってひっぱった。
「あ・・・。」
夏生はニコリと笑うと、ひよりを引っ張って走り出す。
細い小道を抜けて、夕日の坂道を下っていく。
まっすぐ、まっすぐ。
夕日がいつもよりまぶしい。
ひよりは、恥ずかしいやらくすぐったいやらで、顔を赤らめながら何も言えず目を細めて黙って夏生に引っ張られていく。
この坂道が、ずっと続けばいいなんて。少しでも思ってしまった自分が、馬鹿みたいと嫌になってまたひよりはさらに下を向いたのだった。
それから買い物を済ませた二人は店を出て、ここまででいいと言うひよりの言葉を聞かず夏生は荷物を半分持つと背中を無理矢理押して喫茶店へと再び戻っていったのだった。
道中、ひよりは不思議で仕方なかった。
どうして、こんなに・・・こんなに面白くもない自分に付き合ってくれるのだろう。
嫌じゃないのだろうか。
そしてひよりは思わず口にする。
本当はお礼が言いたいのだけれども。言えずに。
「ねぇ・・・、つまらなくない?こんなことして楽しい?」
すると、夏生は笑って言った。
「なんでそんなこと言うの?私はひよりといて楽しいよ。」
「どうして。私といてもつまらないでしょ。桧山は友達がいっぱいいるんだから、もっと・・・。」
そう言いかけると夏生は、不思議そうな顔をした。
「だからどうして、そんなこと言うの?ひよりだって友達じゃん。ひよりは私といるの嫌?つまらないの?」
「それは・・・。」
そんなことない。楽しい。今だって一緒にいてくれて嬉しい。
でもそんなこと言ったところでどうする。何を期待したやつなんだって思われたらどうしよう。
様々な思いがひよりの胸によぎる。
何も言えずに躊躇っていると。
夏生はもう一度、ひよりに向かって言った。
「楽しい。ひよりは・・・どう思っているかわかんないけど。私はひよりと話していて、一緒にいて、楽しい。」
その笑顔が夕日に照らされて、とてもまぶしくて、ひよりは一瞬みとれてしまった。
そしてその笑顔に耐えられずに思わず目線をずらしてしまった。
「困る・・・。」
「ん?」
「そんなこと言われても・・・困るよ。」
どうすればいいのかわからない感情になったひよりはまた心にもないことを言ってしまう。
まただ・・・。
あぁ、いっそ、これで愛想を尽かしてくれ。
そう思ってひよりは夏生を見た。
すると夏生は少し困ったように笑うと「そっか。」とだけ言った。
だがその後、またいつもの笑顔に戻るとこう言った。
「でも、私は、ひよりと仲良くしたいし。ねぇ、一緒にいていい?またこれからも喫茶店に行ってもいい?レモネード作ってよ。」
ひよりは驚いて、目を丸くした。
一緒にいてくれるの?
一緒にいてもいいの?
ひよりは、不思議な感情に襲われて夏生を直視できなかった。でも、今度は精一杯自分の気持ちを伝えようと口を開いた。
「・・・いいけど。」
これが限界だったがそれは夏生に伝わったようで、夏生は「よしっ!」とガッツポーズをして、ひよりの荷物を奪いとると走って喫茶店へと向かった。
「あ!待ってよ!!」
ひよりは慌ててその後を追いかける。後ろを追いながら走るひよりの口元は緩んでいた。
今ならどこまでも走っていける気がひよりはしていた。
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