第2話 駆け出し冒険者チーム、スペード
エンジェルは玄関からはいってすぐのロビーにいた。「私は大けがをした冒険者様をみかけたら、治癒します。疲労が色濃いようなら、お客様が寝たあとに直接治癒魔法をかけに行きます」
「おかえりなさい。スペードの皆さま。怪我はありませんか?」
「みてのとおり、ピンピンしてるよ」
チームリーダーのダニアはとある道場の免許皆伝者で、ある理由により破門されたと、冒険者の方から聞いた。酒場でよく他の剣使いに絡まれるけど、剣術勝負で負けなしの剣士だった。「青い髪と黒い瞳なのになんだかとっても面白そうな人ですね。白いふわふわしたのを首周りにつけてて、黒いジャケットと銀の鎧と青いマントを着ているの。さながら狼というところかしら」
「エンジェルの姉ちゃん、ただいま!」
アンサは魔法と剣を使い、トリッキーな戦いかたを得意とする子供だけど、おっちょこちょいでこれからに期待されていた。「黄色い髪で青い瞳でとっても元気な子よね。黄色いシャツと茶色のグローブとブーツで、鎧をつけずにかなり動きやすそうな感じかしら」
「仕事など後にして、我らの部屋でゆっくりと話さぬか?」
ミレディはマジックソードの使いてで、魔法なしの剣と影では言われてるらしいが、ソードスペルと尊敬を込めて呼ぶものもいた。「赤い髪を白い紐で結んでいて、黒い布の小手と白のブレストアーマーですごいカッコいい女の子よね。私のこともよく気にかけてくれて、友達っていってくれる優しい子かしら」
「みなさまおかえりなさい。怪我もないようですし、先に大浴場にいかれてはどうかしら。部屋には時間に余裕ができたらお伺いします」
「また、ふられてしまったなミレディ」
「拙者は断じてそのようなことを考えてなどおらぬ! そもそも拙者は女だ。ナンパしてどうする」
「じゃあ、なんで呼ぶんだよ」
「そ、それはだな。拙者は友達として、エンジェルが寂しいかなって思って……」
ミレディは顔を真っ赤にして下を向いて喋ってぼそぼそと話していた。
「ん? なんだって。ミレディ。よく聴こえないぞ。なあ、エンジェル」
「私は寂しいと聞こえ――」
「ああ、いいからいいから。こういうのは楽しまないと」
ダニアはニヒヒっと意地悪そうに笑って見せた。
「ダニア……貴様ぁああああああ! 許さん! スペル! ソードダンシング!」
無数の光り輝く剣がダニアの頭上に現れた。それは意思をもつかのようにダニアめがけて振り下ろされた。
「わぁあああああああああああああ! ばか! 人様の家の中でマジックソードをよぶんじゃねぇええええええええええ!」
ダニアは転がるように魔法剣を全部避けた。
「相変わらず。二人とも馬鹿だなあ。なあ姉ちゃん」
「そうね。ふふふ。でも、なんだかとっても仲良さそうでうらやましいな」
「なら、部屋に来て、ミレディとも遊んであげてよ。あいつ姉ちゃんのことほんとの友達だと思ってるし」
「そう…だよね。でも、私は……」
「ま、子供の俺がいうのもあれだけどさ。気楽に楽しんだらいいと思うよ。難しいことなんか考えずにさ。だから、気が変わったら部屋においでよ。いつでも待ってるから」
「うん。ありがとう」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
宿泊客が寝静まった夜。一人、宿の廊下を蝋燭を手にもって歩く女がいた。
「さて、もうそろそろかね」
彼女は夜な夜な過労なものをみつけては癒していた。
「お勤めご苦労様です」
青い瞳の女は赤いローブを着て、金の髪飾りをいくつもつけ、紅く唇をぬり、真っ白に顔を化粧していた。銀色の長い髪は邪魔にならないように左右で結んでいた。みた目は成人したくらいの女性に見えるが、とうに50を過ぎていた。
「すみません、女将さん! 起こしてしまいましたか?」
女将はいつものようにエンジェルと会話した。
「いや、なーに。わたしゃ寝れないだけだよ。月でもみたら寝るさ。それよりも、あんたも無茶するんじゃないよ。冒険者だって、どんなに万全の状態でも死ぬときは死ぬんだからさ」
「わ、私は……ただ、みんなが元気に帰って来てほしくて……」
「自分を追い詰めちゃいけないよ。あんた自身が一番苦しんでるのはよくわかってるつもりだ。あんたが疲れて倒れたら、誰が治すんだい? だからさ、もっと気楽にしたらどうだい?」
「私は自分の体調は精霊さんに治してもらってるから、大丈夫です」
「そういうことじゃないよ。無理するなっていってんだよ」
「これは私が好きではじめたことです。無理はしてないつもりです。それに楽しいんです。みんなを癒してあげてたら、つらいこともみんな忘れられそうで」
「そういうもんかね。まあ、楽しんでるならいいけどさ。じゃ、私は月でもみるから、がんばりな」
「はい! 女将さんも、無茶せず早く寝てくださいね」
女将はエンジェルの後ろ姿をじっとみつめて、彼女が廊下の角に消えるまで見送った。
「まったく、心配しておちおち寝れやしないよ」
女将は月に向かって、しかめ面で呟いたが、ニコニコと丸く笑うだけで月は黙ってみているだけだった。
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