第5話 到着

それは少し時を遡る。

玄関に転移したは良いが、それを母親に見られ、何とか「ミスディレクションの練習してた!!」と言う誰が考えても見苦しい言い訳で乗り切った賢は、途切れた座標の所まで走っていた。転移しないのかって?結界で座標を誤魔化されてるから無理だ。神の式とえど、そこまで万能ではない。

(遅いな、走るか)

世界再環を行使し、自身の周囲に前世の法則ステータスを適応させる。

そして、走ること約3分。

「言ってたな、クレープ食い行くって」

クレープ屋の前に到着した。

そして、結界の格を探す。

(こうゆう、別世界に閉じ込める系の結界やつはどっかに格があるんだよなぁ)

そう言うタイプの結界を出る方法は二つ。

一つは、中から力で無理やりぶっ壊すこと。

そして二つ目は、外から格を見つけてそれをぶっ壊すこと。

(ない、何処にもない)

とは言え格が見つからなければどうしようもない。

(クレープ屋の周囲で格を探せそうなとこは一通り視たんだが)

後探して無いのは───

(上空地下!)

上を見る。

「───見つけた」

上空、それもかなりの高度にある。

(神の式 不可視の布)

この瞬間、加堂賢は、ありとあらゆる生命から認識され無くなった。

風魔法の延長である飛行魔法を使って、格のある高度まで飛ぶ。そして、格に触れた。

「消し飛べ、結界」

そう言って格に大量の魔力を注ぐ。格が砕けると同時に、身の前の空間に亀裂が生じ、賢はそれに飛び込んだ。


三人と、見知らぬ少年一人を確認し、不可視の布を解除する。

結界内の惨状を確認した賢がまず感じたのは安堵だった。

(よかった、全員生きてる)

次に感じたのは怒りだった。

(司は、取り繕ってるが精神の方が疲弊してる。涼子は、筋肉やら体の組織がズタズタだな。アカリは──一番酷いな。前世含めて視たことない程に───)

三人の容態を確認した賢は自身の側に三人を転移させ、「神の式 光癒」を発動すると、三人を光がつつむ。

そして最後に自分の敵災厄の使徒を確認し───

「お前か?オレの友を傷付けたのは?」

再びキレた。

「そぉだってぇ?言ったらァ?」

文字通り、格の違うであろう存在を前に頬を引き吊らせつつも何とか声を絞り出す褐色の少年。

「殺す」

その端的な回答と共に送られたのは雷の槍。しかし、少年はソレが当たるまでソレを関知することすら出来なかった。

バシュゥゥ

少年の片腕が消し飛ぶ。

(!?速いぃ!いぃや、それだけじゃァない。うまい!!発動すらぁ関知ぃ出来なかったァッ!)

隠れようとも遮へい物は遥か遠い。たどり着く前に殺される。

(どォうするぅ?)

そう考える少年の顔は、喜色の笑みで彩られている。

だが、そんな思考は虚しく、元より賢は戦闘する気は無い。今は三人の処置が最優先なのだ。

「逝け、災厄の使徒」

そう無慈悲に宣告すると、空から落雷が落とされた。その轟音と抉られた地面が落雷の威力を物語っている。

敵対者が消滅したことを確認して賢は地面に舞い降りた。

そのタイミングで司が賢とアカリに質問する。

「賢、アカリ、お前らは一体…?」

司は賢とアカリ達を同じ一派だと考えたのだろう。

「…取り敢えずその件に関しては全員が揃っている時にまた今度話そう。今はお前らの回復が先決だ」

そう言って司に手招きする賢。

「いや、俺は大丈夫だよ」

そんなことを言うアホを賢は、無理矢理引き寄せる。

は、な。お前一体?」

その質問にバツが悪そうにして答えない司。

「はぁ~貴方の方が無理してたんじゃない、司。でも、庇ってくれてありがとね。」

そう少し、呆れた様に言うアカリ。

「なーに言ってんだ、朱禅院。お前もだよ」

そんなアカリにお前が言うなと言わんばかりにジト目で言う賢。

「いや、と言うかお前が一番酷い。何したらこうなるんだ?」

そう、この三人の中で、特に酷い状態なのはアカリだ。

「いや、それは……何て言えば良いのかな?」

「心当たりはあるんだな?」

そう賢が聞く。

「えぇ。一様。あるわね。」

「そうか、じゃ、ちょっと失礼して、過去を覗かせてもらうぞ」

そう言ってアカリの頭に手を翳す。

「え!?えぇ、いいけど」

驚きつつも了承するアカリ。

(世界眼・因果視、発動)

それは本来の性能並ば全て過去未来現在を見通す眼。……使用者の処理能力的な問題でのみしか視れないが。

そして、賢はその光景をた。

それは、命の煌めき、魂を薪として使用した爆炎。その決意は美しい。しかし────

「これは……」

あまりの無茶に言葉を失う賢。

「随分とまぁ。無茶したな、朱禅院」

かなり深刻そうな表情でそういった。

「大丈夫なのか?アカリ」

事のあらましが全くわかっていない司も賢の反応を見て心配する。

「う、うん。短時間だったし、大丈夫だと思うけど…」

なわけあるか、と言う目でアカリのことを睨むんだ。だが、賢は結界が消えかけていることに気付き移動を提案する。

「と、いつまでもここに居るわけにもいかん、結界が完全に消える前に移動しよう。ここじゃまともに手当ても出来ないしな」

しかし、それは一歩遅かった。

「あら?逃がしませんよ?加堂賢。」

「「「!?」」」

三人は驚愕に顔を染め声の方を向く。

(気付かなかった?いや、因果視を使っている間に接近したのか??)

賢の感知能力は、前世の時と比較しても、今の方が上回る。たとえ、世界眼を使っていても多少意識は削がれるが、一定の感知能力は有している。そんな賢に全く気付かれず接近した目の前の女はかなりの強者だ。

「なっ!?柩様!?!?何故此所に!」

アカリがバカなとでも言いたげに声をあげる。

「何故?決まっているでしょう?貴女達を助ける為ですよ」

そう言って微笑む柩。

「さて、加堂賢、彼等から離れていただきましょう」

しかし、瞬時に冷徹な鉄仮面でその顔を覆う。

「…おいおい、なんでだ?アンタなら、オレの情報も把握してんだろ?あぁ、把握していたからこそ、って訳ね」

「えぇ、そうですね。少なくとも私達が調べた時は貴方に、魔術的なモノこっち側の影は、見えなかった。にも関わらず、今は平然と結界を砕いて見せた。疑っているのですよ。貴方が、他の巨大派閥の手先なのでは、とね」

そう言って柩は目を細める。まるで、一つの偽りも見逃さないと言わんばかりに。

「因みに、貴方には今二つの選択肢があります。一つは、この場から逃げること。私達は彼等アカリ達に危害を加えませんので、貴方一人で逃げれます。貴方ほどの魔術師ならば逃げることは容易いでしょうね。だけならば。二つ目は、私に捕らえられること。大人しく捕らえられるのならば悪いようには扱いませんよ?」

賢に二つの選択肢を突き付ける柩。しかし、邪魔が入る。

「いや、ちょっと!何勝手に言ってるんですか!彼は何も悪いことやってません!むしろ僕を助けてくれました!」

そう言って賢のことを庇う司。

「今問題になっているのは彼の行動では無いんですよ神子様」

聞き分けの悪いこと子供に言い聞かせる様に柩が言った。

「じゃあ何が問題なんですか!?って言うか神子様って何の事ですか!?」

先程から何が何だか分からず、説明も後でとはぐらかされ続けた司が叫ぶ。

「あー、分かった。アンタの言う通り大人しく連行されようじゃないか。その代わり、司への説明やアカリ達の治療はちゃんとやれよ?が厄介だから見殺す、とかやったら地の果てまで追い詰めるからな?」

これ以上柩と押し問答していても状況が悪化すると判断した賢が提案を受け入れた。

この状況で柩達の勢力に神子への説明を任せる、と言うのは相手側からすればかなりの自殺行為に近い。

(なんか勘繰ってるみたいだしな)

先程の柩のセリフにもあったように、アカリ達の本家──の上層部──は、賢を、巨大な組織のエージェントか何かだと勘違いしている。もし何か組織のエージェントなら相手側本家に不利な説明をされることは嫌がるはず、にも関わらず、説明を任せるとは、どう言うことだ?と疑惑の目を向ける柩。

「当たり前です。神子様への治療メンタルケア、説明は元より、アカリ達の治療も、本家お上の老がi……ゴホン。お爺様たちは、相当重症であれば渋るでしょうが、私の名に掛けて、完璧に治療しましょう。」

その言葉に、一応は頷く賢。

「分かった、じゃチャッチャと連行してくれよ」

そう言いながら両手を合わせて前に出す。

賢が決めたならば、と司は賢を信頼して大人しく、柩が寄越させた迎えの車に乗って本家に向かった。


◆◆◆


その部屋は、灯りが一切入っていなかった。

その部屋は、一面が血の海で彩られていた。

そんな血の一部が、ブクブクと音を立てて増大する。

それは、やがて、人の形になり────

「ハッハァ~!ありゃぁ~とんでもォ無いねぇ!」

愉しそうな少年災厄の使徒に姿を変える。

ガチャッと扉が開き、褐色に銀髪の女が入って来た。

「やぁ、随分と面白……失礼、酷い殺られップリだったな?マガツ」

そう、小馬鹿にしたような表情で言う女。

「いやぁ、そう思うんだったら助けてぇ欲しかったなぁ?チキンチャァン?」

負けじと言い返す少年マガツ

「…なんだと?」

殺意を振り撒きマガツを睨む女。

「ハッハァ~?殺るぅ?殺るぅ?良いよぉ!!」

狂喜の笑みを浮かべるマガツ。その場はまさに、一触即発。両者の殺意が昏く揺らめく。

「……いやー、やめとこう。腹立たしいけど、君みたいなろくでなしでも災厄の復活には無くてはならない人材だ」

心底不服そうに言うチキン

「ハッハァー。腰抜けぇだァなぁ」

対して、心底つまらなそうに落胆するマガツ。

「……あっそ。じゃあ君にピッタリの仕事があるんだけど、やる?」

そんな事を言って、一枚の紙を取り出す。

「おぉ!何ぃ?」

その紙をひったくり、その場に座るマガツ。

「へぇー?面白ォ~そー。良いよぉ」

マガツは邪悪な笑みを浮かべて承諾した。

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