第4話 物語の始まり、灯る時
アカリは決意と共に、目の前の敵を見る。
「
そう言いなが切られた腕を無理矢理にくっつけて治す少年。
「人間じゃ、無いわね。」
それを見たアカリは無感動に感想を漏らす。
「いやぁ、当然でしょォ?あ、その
そう言って
そんな目の前の少年に憤りを感じながら、アカリは自身の必殺を掲げた。
「
それは、人類に文明の光を与えた、原初の
遂には、名を与えられるまでに至った
文明の火を灯す
「
瞬間、爆炎が吹き荒れ、涼子の周囲を除くアカリを中心とした約半径60mが吹き飛んだ。
「うっおぉ!すぅっごい火力ぅ!」
吹き荒れる炎の渦中で
「──初めて使ったけど、中々、良いわね」
炎の中心で、ゆっくりとアカリはその目を開く。
アカリが使ったのは、本家で保管される神降ろしの札、そのレプリカだ。
(レプリカでコレ、原物は一体、どれだけの……)
「往くわよ?精々、死ぬ気で守りなさい」
アカリはそう言いながら、右手を天に掲げた。
そして、その掌に、極少の火の玉が生まれる。と同時に周囲の気温が、涼子の周囲を除きコンクリートが溶ける程に上昇した。
「おぉ!これはァ!良いねぇ!!」
そう言いながら少年はナイフを取り出し、自身の腕を切った。
「僕もォ!すこぉしだけ本気をだすよぉ!」
少年の足元にいつの間にか描かれた魔方陣にその腕を落とし、ナイフを何処かへ投げ飛ばす。
「黒炎呪法!!」
声を張り上げ、嬉々としてアカリを見つめる。
一方、アカリは、淡々とその術の名を告げる。
「■式」
それは、災厄を起源とする、黒き炎。
「黒龍骸炎ンンン!!」
それは、始まりの奇跡。全文明の始点。
「極炎」
その二つは想像を絶する熱波と共に放たれ────
──音が焼失する──
──光は炎を捉えられない──
───拮抗。
「─────はぇ?」
──すら出来ず、「黒龍骸炎」は少年ごと極炎に飲まれた。
やがて極炎は消滅し、少年のいた場所を見つめるアカリ。数秒経つと、その警戒を解いた。
「ふぅ。司を迎えに行かないと」
涼子の側により、神纏を解除する。すると目の前に紅い札がでてきて焼ききれた。
身体に負担が一気にくる。
意識が闇に落ちそうになるのをぐっと堪えながら涼子の事を背負う。
「これは明日は仲良く病院送りかも知れないはね」
学校に行けないかもな、という一抹の不安を、今はいいか、と切り捨て歩を進める。
「おぉい、おぉい、まぁだァ、終わりじゃァ無いですよお?」
そんな、神経を逆撫でするような声が聞こえる。
信じられない、と言った様子で後ろを振り向くアカリ。
「バカな……アレに耐えたと…?」
少年の生存を確認し、目を見開く。
「ハッハァ~?そんなワケないじゃ~ん!アレはさすがにキツかったよぉ?」
そう言う彼の手にはナイフが握られている。
「でもさぁ?さっき血の着いたナイフ遠くに飛ばしてたじゃァん?そッから再生したんだァ。」
そう言ってナイフで遊ぶ少年。
アカリはそんな彼に絶句する。
「そぉ…ん…な……」
絶望に目が濁る。
「うぅん。さっきとはァ、別の意味でぇ良い目だねぇ。まぁあ?両方抵抗出来なさそうだしぃ?もうとっとと殺っちゃうかぁ~」
少年はナイフを高々と上げ、振り下ろした──
◆◆◆
清水司は走っていた。己の無力から顔を背けたくて。また、そんな自分が醜く思えて、仕方無かった。だから、そんな自分を忘れたくて走っていた。
───けれど、
足が止まる。
やはり、ダメだ。
わかってる。あの場に行ったって何の助けにもならない。
足手まといでしかない。
彼女らが命懸けで創った時間を無駄にするのか?
けれど、いくら己に問えども、答えはでず、この足は動かない。
考えろ、清水司。
どうやったらこの場を生き残れる?
どうやったら彼女らを助けられる?
そんな彼の両足を黒炎の矢が射抜く。
「ッッッッ!!」
その両足を抱えて踞る司。
(痛い!呼吸すら満足に出来ない程に!痛い!苦しい!痛い!痛い!何も考えられない)
「アイツなら、三人全員殺ることも出来ただろうに、サボりやがって」
そう言って何処からともなく現れる褐色の青年。
無様に転がる司を見て同情した様にため息を吐いて、司の頭を掴み持ち上げる。
「悪いね、神子君。君には感謝しているんだよ?君が現れ無ければ、
そう言いながら苦しむ司の心臓に人差し指で狙いを定める青年。
「けれど、悪いね。君が生きていると、
人差し指の先に黒炎が生成され、射出される。
「─────」
奇跡は、起きない。
無力なモノが、力を持つモノにいとも容易く踏みにじられる。
そこに在るのは、当たり前の帰結、当たり前の日常。
しかしてそれは、
彼女は───
安寧を好まず、
完成を望まず、
安定を求めず、
蛮勇こそを好み、
未完成こそを望み、
不安定こそを求める。
嗚呼、ならば!
────少し、教えましょう。「力」の使い方を────
◇◇◇
────世界を司るモノ、
第十三原権「■■」への接続を確認。
付属権能 第一次権能「再生」への対象の接続を確認。以上。全工程を終了します。
◇◇◇
遠くで爆発と共に火柱が立った。
「へぇ、アレは中々。アイツもちょっとヤバいかも知れないな」
そう感心した様に呟いて、青年は火柱の立った方向に歩を進める。
それは、青年にとって凶と出た。
「……」
青年は、司の傷が再生し立ち上がったことを認識出来ていなかった。
パァン
「ふぇ?」
瞬間、青年の腕が弾ける。それは、言うなれば、ただの魔力の塊。それを射出したにすぎない。だが、司は救世の神子なのだ。それに見合う能力を持つのは当然。魔力量、魔力出力、魔力回路、それらどれをとっても
「くっ!」
司の力を正しく認識した青年の行動は速かった。
即座にその身を動かし、建物の影に隠れる。
だが、それは悪手だった。
青年は、アカリ達に近い方に隠れたのだ。
グォォォォン
凄まじい爆音とそれに一瞬遅れて熱波が届く。
「ウッ」
青年は元々、後方支援を得意とするタイプだ。故に、消し飛んだ片腕の再生は、出来なくは無いが非常に体力を消耗する。と言うか、あの少年が異常なのだ。普通、ナイフに着いた血だけで身体の再生なぞ、出来ることでは無い。何が言いたいかと言えば、片腕を失って、さらにこの爆音と熱波の中で動けるような、身体能力は彼には無い。
バァァァン
青年の潜む建物の一部が司の放った魔力弾により倒壊する。
青年は一瞬だけ顔を出し、司の位置を確認する。
(ウッソだろ!アイツ、この熱波の中、燃えてんのに平気な顔して立ってやがる!)
勿論、司は燃えながらも再生している。だが、それは、痛く無い、と言うことでは無い。
内心で司の精神力に舌をまく青年。しかし、その逡巡の思慮が仇となる。いや、それが無くとも、結果は変わらなかったかも知れないが。
「面倒だな……」
直後、青年を含めた建物が全て吹き飛んだ。
熱波の止まぬ中、司は思案する。
(この
そう行動方針を決めると、いつの間にか熱波は止んでいた。
「嫌な予感がする。出来るだけ急ぐか!」
そう言って魔力弾を足の裏に溜める。
「──ぶっ飛べェ!」
足の裏に溜めた魔力弾を解放する。
身体にかなりの重力がかかり、胃液が逆流しそうになる。
だがこれだけでは
「オ゛ホ゛エ゛ェエ゛」
吐いた。
◆◆◆
少年はアカリ達に向かってナイフを振り下ろ───せ無かった。
何故なら、
「オロロロロロロロロロロロロロ」
吐瀉物を撒き散らしながら、空にある意味の虹を架けながらぶっ飛んできた男がいたからだ。
「えぇ!ちょ!なにぃ!?君ぃ!?」
クリーンヒット。そう表現するのが妥当だろう。司は少年のみぞおちにゲロをぶちまけながら突っ込んだ。
「ぐぶぅ!いやァ、きたァねぇ!離れろぉ!」
そう言って司を引き離す少年。
「てかぁあ?君ぃ、覚醒ぇしてんじゃぁん?この分だとぉアイツは殺られたかぁ?」
そう言ってまじまじと司を見る少年。
「お前のお仲間の事か?消し飛ばしたぜ?」
そう言って口元の吐瀉物を拭きながら立ち上がる司。
「へぇー。期待してなかったけどぉ、楽しめそぉウじゃァん?」
邪悪に嗤う少年。アカリ達を庇う様に立つ司。
「気を付けて。そいつは血肉の一片でも残したらそこから再生するわ」
アカリはボロボロの体に鞭を打ち、何とか司の横までやってくる。
「分かった。けど無理しないで、涼子を安全な場所に運んでくれないか?」
司も、その事が分かったのだろう、アカリに気を遣う。
「ごめんなさい。そしてありがとう。帰れたらクレープを食べましょう。今度は賢も一緒に」
そう言い、涼子を連れて離れていくアカリ。
「うぅ~ん、泣かせるねぇ!絶対殺すって気持ちになってくるよぉ!」
「同感だな。俺もお前を今すぐ殺してやりたいよ」
まさに一触即発。
しかし、その爆弾二つが爆発することは無かった。
パリィィィィィン
カン高い音を立てて、今までアカリ達の逃亡を阻止していた結界は、容易く崩壊する。
司が少年の前から消え、アカリ達も何処かへ消えた。
そして、割ったであろう空に浮かぶ人間の側にいつの間にか浮かんでいる三人。
「お前か?オレの友を傷付けたのは?」
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