第2話 平和

この世界に転生してから十六年、

この十六年、僕は普通の子供をやりながら世界眼で情報収集をしていた。結果から言えば、僕にとってこの世界は驚愕の連続だった。まず驚いたのは、国によって使う言語が違うことだ。前世では、文化圏が違えど、使う言語は同じだった。これは神の恩恵によるものだ。そうして、調べていくうちに、ある仮説にたどり着いた。前世では、神を一種の理として扱っていたのでは?と。例えばだ、前世では、神々が力を振るえば、天変地異、例えばだ雷などが起こることは当然であり、それは道理であった。しかし、この世界では、雷などの天変地異には発生する理由があり、神々が力を振るおうとしようとも天変地異の類いは発生しない。なぜならそこに道理が無いからだ。

さあ、言語の話に戻ろう。

この地球の人々はかつては前世と同じく、世界共通言語だった。しかし、それは失われた。それは人々が神々の怒りに触れたからだ。そうして、神々からの恩恵は日に日に消えていった。遂には神々すらも、消滅、もしくは人の世に干渉出来ない程弱体化し、神々と言う理が消えた穴を縫うようにして複雑怪奇な今の理が出来たのでは?という仮説だ。

(にしても面白い!この複雑怪奇な理で魔法式の様なものを作れれば……考えただけでも面白い!!)

彼は存分に世界を謳歌していた。

余談だか、彼の信仰と感謝の念によって女神の神権は三割ほど回復したらしい。

無論、趣味それのみを調べていたわけで訳ではない。此方の世界の魔法使い──こちらでは魔術師や陰陽師などの名称で呼ばれる──についても調べていた。まず、一番最初にわかったことだが、この世界の魔法魔術は秘匿されていると言うことだ。さらにいえば、魔術師の全体数はそう多くないらしい。人口が70億を越えるこの世界で、10万いれば良い方だ、と女神様が言っていた。

この世界の理に奇跡まほうが存在するような余白はない。つまり、魔術師達も世界再環のような世界の理に干渉する業を持っているはずだ。事実、偶然近くにいる魔術師っぽい奴を世界眼で視ていたらこの世界の魔術師の互助組合のような物や、魔物のようなものを討伐するため、結界(?)をはる姿を確認できた。

この世界に転生してからこの世界の理や文明にばかり気を取られていたが、この世界の魔法も面白そうだ。果たしてどんな手段で理をねじ曲げる結界なぞ作っているのか?世界と取り引きでもしているのか?はたまた、己をことわりと定めて無理矢理改変しているのか?実に興味深いな。

とまあ、考え事をしながら歩いていると、僕の通う、私立学習院高校の門が見えてきた。すると、勢いよく背中を叩かれ元気な声で挨拶が聞こえてくる。

「よう!賢!先教室いってるぞ~」

そう言って走り去って行くのは僕の保育園時代からの友人、清水司。そして、そんな彼に追随するように僕の視界を手が覆う。

「だぁ~れだっ!」

鈴のような可愛らしい声が聞こえてくる。

「転ぶからやめてくれ、朱禅院」

そう言うと、僕の視界を塞いでいた両手を後ろに回しながら花のような微笑みをその顔に讃えて、僕の前に躍り出た。こいつは朱禅院アカリ。司ほどでは無いにしろ、小学校からの友人だ。

「はしたないぞ?アカリ」

そう言って朱禅院アカリを注意したのは黒髪黒目の大和撫子と言う言葉がよく似合う少女、涼川涼子だ。

すると前方から、

「お~い!速く~!」

と言う声が聞こえてくる。たく、アイツ自分から先行くとか言ってた癖に。と苦笑しながら、

僕は、

「ハイハイ。今行くよ」

と言いながら小走りで走る。

二人もそれにつられて小走りでついてくる。

そして、下駄箱で靴を変え、他愛のない雑談をしながら四人で教室に向かった。


◆◆◆


キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン

六時間目。終業のチャイムがなった。

みな、帰りの会、掃除を速やかに終わらせ、部活勢以外の者は迅速に帰宅する。

そして、例に漏れず迅速に帰宅した僕は動きやすいスポーツ用の服を着て、外にでる。

三十分ほど走ると、人目のつかない場所に移動した。

(神の式、起動、空絶)

神の式 空絶

その能力は空間への干渉。主に空間自体の収納や、空間断絶、空間転移等々。


◆◆◆


そしてやって来ました森の中!修行試し打ちには最適の人目の無いところだぜぇ!ひゃっほう!

失礼、取り乱した。

さて、ここにきた目的だが、先ほどの通り試し打ちだ。今世でも普通に発動できる神の式と、前世の魔法と、地球の科学を合わせた、言うならば混沌式。あ、因みに試し打ちはこれが初ではない。だが、毎日打っているわけでもない。何故なら、司が魔術関係者に馬鹿みたいに狙われているからだ。僕はそれを片付けるために毎日奔走しているってわけ。

(昨日取り敢えずあの市内にいた奴は片付けたし、流石にアイツも今日は狙われんだろう)

何故彼が狙われているのか?それは、司が本来存在しない、結界無しでも魔術を使える体質何だとか。いや、百、神の式だろ。因みに彼の両親は魔術の存在すら知らない一般人である。もちろん司も魔術の存在なぞ知らんが。どこ情報かと調べてみれば教会の聖女とやらの予言だそうだ。うーん。絶対、神の式やん。

とまぁ、それは、置いといて。

「ふぅースッキリしたぁ~」

そんな彼の前には地獄の鬼も真っ青になるほどに変わり果てた森があった。

「あ、やっべ。」

そう言いながら世界再環を発動し、魔法で森を直していく賢。

「ふぅー良い仕事したぜぇ」

そう言いながら指パッチン一つで直った森を見渡す。誰が荒らしたと思ってんだ?こいつ。

そんな馬鹿なことを呑気にやっていた彼は、だがしかし、しっかりと脅威を関知した。

「ッ───!」

すぐに世界眼で脅威の出現した座標を視る。

「チッ!」

すでに結界にて塞がれていた。

(マーカーの情報的に涼川、朱禅院、司の三人全員があの結界の座標で途切れてる!)

朱禅院と涼川だけなら、アイツら魔術師だし自衛くらいは問題ないが、司も一緒となると厳しいかもしれない。

(クソッ)

そして、問題なのが先程の気配がこの世界の魔物──悪魔や、怪異など──とは違い……

(いや、今は考えてる時間はねぇ!!空絶、起動!)

座標指定、自宅、玄関。


◆◆◆


私、朱禅院アカリは古くからの陰陽師の家系で、ある家の分家の長女だ。そして、私の幼馴染みである涼川涼子も同じ家の分家の長女で、彼女とは、幼い時から仲良くしている。というか、小学校に入る前までは外の子と関わるのが許されていなかったので彼女も私もお互いしか同年代の友達はいなかったのだが。

だが、そんな状況は小学校に入るとすぐに改善された。幸い、私たちは二人とも優れた容姿を持っていて、関わった人の大多数は友好的だった。さらに、その新たな友人の中から、二人、涼子と同じくらいの親友ができた。それが加堂賢と清水司だ。しかし、そんな幸福は中学生になったある日、明確に変化した。

その日は、珍しく本家の当主様から御呼びだしがかかり、私の両親と共に本家へ赴くと、涼子と会った。涼子も両親と共に本家へと呼び出されたと言う。

そこからは私と涼子のみが通された。

そして、当主様よりある話がもたらされた。

清水司は、世界を救う神子である。と、その第一声から始まり、西洋の聖女様とやらが予言したと聞かされた。そして、その情報を聞き付けた本家の意向により、私達は彼と同じ小学校に入学させられた、と。そして、本家の思惑通りに私達は仲良くなった。仲良くなってしまった。そして、当主様は言ったのだ。彼と結婚し、彼を本家に繋ぎ止めよ、と。本当に腹が立つ。なんだと思っているのだろう。私達を、彼を。あの人達は。そして、そんなことがあっても彼等との日々は過ぎていく。

他の三人をいつも通り引っ張る司、それについて行く私。さりげなくそんな私達のフォローを入れる賢。苦笑しながらも優しく見守る涼子。そんな普通の日々が、幼い頃にあれ程焦がれた普通の日々が、だがどこか、私達二人は心に影を抱えながらも過ぎていく。賢は、そんな私と涼子の様子にどこか気付いているようだったが、「話したい時に話せば良い」と言ってくれた。しかし、そんな彼の対応すらも私達はどこか、負い目を感じていた。

私達に、彼からそんな言葉をもらう資格があるのだろうか?と。

そして、そんな日々を過ごしていたある日、事件は起こった。


◆◆◆


終業、六時間目の終わりのチャイムが、なって、帰りの用意や、掃除などを済ませて掃除班が別の三人を待って一緒に下駄箱に向かう。

「あ!そう言えば俺、昨日新しく出来たクレープ屋見つけたんだよ、皆一緒に行かない?」

いつも通り、司が提案する。

「あー僕はパスで、今日はやることがあるんだよねー」

そう言いながら断る賢。

「私は別にいいよ!予定とかもないし。」

そう言って快諾する私。

「君達二人だけだといろんな意味で心配だ。私もいこう。」

そう言いながらもどこか、楽しそうに了承する涼子。(彼女が大の甘党であることをここに記載しておく)

そして、校門前で賢と別れて三人でクレープ屋に向かう。

涼子が三種ほど注文し、私たちはそんなに食べられるのか?と呆れながらも疑問に思っていると私達が一つ食べ終わらぬ間に完食していた。

司の「太るぞ?」とのデリカシー皆無の発言には、「良い食後の運動だ」と言って、鉄拳制裁を加えていた。





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