賢者、地球にて転生する

あじたま

第1話 終わりと始まり

そこは地球の存在する世界とは違う別世界。

異世界「■■■」。

そこで、ある一人の男が死に瀕していた。

男の名前はアルフ・ゼル・クラウス。

リネア魔法王国にて、賢者との呼び声高き至高の魔法使いである。

「師匠ぉ…師匠ぉ…」

横たわった彼の側には二人の少年がいた。彼の弟子である。

何か、文句を言いたいような、でも、何も言えないような顔で此方を見る弟子達。

その後方では龍すら恐れるような屈強な大男が非難するような目付きで此方を見ていた。彼等弟子を共に育てた、唯一にして、最大の戦友。彼には、自身に下った「神託」含め、全てを伝えてあった。だからこそ、問いたいのだろう「本当にこれで良かったのか?」と。

そして、その三人のより後ろから、美しい女性が突如表れた。

その正体を察した大男が道を開けると此方に向けて歩を進める女性。

だが、弟子達はその女性を警戒して、道を開けない。

「…いい、大丈夫…だ……ゴホッゴホッ」

そう言うと、渋々弟子達も道を開けた。

「お久し…ぶり、です。女神様。」

胸の痛みを気合いで抑えて口を開く。

「まずはお礼を、アルフ・ゼル・クラウス。貴方の滅私の献身により、無事、第四の災厄「邪龍の王」はこの世界より消滅しました」

第四の災厄「邪龍の王」。

それこそ、彼が死に瀕している理由であり、彼に神託が下った理由でもある。

「そ…れ……は、よ…かっ……た」

───完全に沈黙するアルフ・ゼル・クラウス。

「賢者アルフ、貴方の献身に最大の敬意と感謝を」

そう言って女神は黙祷し、アルフの体の上で手のひらを広げる。すると、アルフの体は光の粒子に変換され、女神の手の中に入って行く。

「女神…様。師匠は?」

弟子の一人が女神に問うた。

「彼の遺体は、我が霊廟にて保管します」

そう、無感動に返す女神。

「そうじゃなくて!師匠は、死んじゃったんですか!?」

まるで、認めたくないと言わんばかりに、分かりきった質問をする弟子。

「遺体、と言ったでしょう。完全に死んでいます」

そう言いながら、女神もまた、沈痛の表情を浮かべている。

「……」

それを見て、弟子達ももはや何も言えなくなっていた。

「それでは、賢者アルフの弟子達よ、貴方方に祝福があらんことを」

そう言ってもう話すことはないとばかりに消える女神。

その場を重苦しい沈黙が支配した。



◆◆◆



そして場面は変わり、そこは「世界の最果て」と呼ばれる場所。

女神の手より光の粒子が表れ、アルフの形を作った。

「改めて感謝を、賢者アルフ。無理難題であったにも関わらず、よくぞ成し遂げてくれました」

そう言って女神は頭を下げた。

「よして下さいよ、女神様。僕は僕のやるべきことをやっただけだ。」

頭を下げる女神に対して、申し訳なさそうにアルフが頭を上げるように言う。

「ですが、貴方はあの日、私が神託を下さなければ今も生きていたのですよ?」

女神がアルフに下した神託の内容は要約すると以下の通りである。

・第四の災厄「邪龍の王」が復活する。

・災厄達の王が去来し、世界は滅びる

・だが、それらに対抗しえる希望の星が二つ

・けれど、希望の星は第四の災厄に消される


「けれど、あの日神託を授けてくださらなかったら、弟子達や、あいつとも縁は結ばれ無かったかも知れない。」

アルフの人生は、確かに薔薇色とは言いがたかったかも知れない。使命に生きて、使命に死んだ。だが、それでも、掛け替えの無い弟子達や、唯一無二の親友が出来たことはウソ偽り無い事実であり、その点、彼は深く女神に感謝していたのだ。

「…なるほど、まさに、滅私の英雄…ですか。」

そう女神は何かに納得したような所作を見せた。

「ならば、何か望みは無いのですか?」

「望み、ですか」

弟子達の行方を見てみたい、という感情は少なからずある。だが、彼等よりも使命を取った自分に、いわば彼等を裏切ったとも言える自分に、その資格はないだろう。というか、その前に自身は死人の身。彼等に関わるべきではない。

(にしても、「行方を見てみたい」ね。滅私の英雄が自らを滅ぼすことで自分の望みを知るとは随分とまた皮肉が効いている)

そう内心で毒づくアルフ。

「…特には、ないですね」

考えた末、そう結論付ける。

「そう、ですか。あの、言ってませんでしたが、私、心読めるんですよ」

「…………」

「すいません」

謝る女神。

「いえ、謝らないでください。その程度、予想出来なかった僕が悪いのですから」

謝る賢者。

アンリミテッドソーリーワールドに入りかけたところで、

閑話休題。話を戻そう。

「……話を戻しますが、本当に望みは無いのですか?」

「はい」

そう言いきる。もはや、彼等以外の未練などないと言わんばかりに。

女神は思った。どれほど過酷な試練をこの人間に与えてしまったのだろう、と。彼の人生は晩年近く以外は神託に対する備えであり、端的に言えば、与えられた使命を機械的にこなすだけであった。だが、最後の弟子達や、戦友との交流を経て、人間らしさを手に入れたと言える。何て、不憫なのだろう。最後に手に入れた自身の人間性による願いすらも、この世界を救った英雄は叶えられないのだ。

ならばせめて───

「分かりました。ならばせめて、ニ度目の生を貴方に与えましょう。これは世界を救った報酬です。今度は遠慮せず、第二の生を謳歌してください」

そして、世界を救った至高の賢者は転生した。

「へ?」

……本人は置いてけぼりだったが。



◆◆◆



かくして、賢者アルフ・ゼル・クラウスは転生した。

もといた世界とは遥か遠き世界に存在する青き生命の星地球に。

そして、賢者アルフは──

(まさか、零歳児からのやり直しとは)

そう、0歳児として、赤ちゃんようベッドに横たわっていた。訂正、ように、ではなくそのものだ。

(ふむ、どうやら女神様は転生特典のようなものを授けてくださったらしい。)

それはこの世界を含めた、世界の知識。

どうやらこの世界にはこの世界の理があり、前世のように魔法をポンポン打つことは出来ないらしい。ふむ、この知識があれば、自力で神の式を作ることも可能だと思ったんだがな。

そして、さらには「世界眼」という能力まで授けてくださったらしい。この世界眼だが、前世の自分が有していた真実の瞳の完全上位互換に当たるらしい。さらに、女神様お手製?らしく、世界眼を中心とした任意の空間内の世界を変質させる、世界再環という能力が新たに追加されているらしい。簡単に言えば、この世界には魔法やらステータスやらの概念がない──魔法は限られた者達のみが使えるらしい──が、この世界再環を使えば、前世の理である、魔法やら、ステータスやらが適応されるらしい。ちなみに今の自分のステータスだ。


名前 加堂賢(アルフ・ゼル・クラウス)

種族 人間(■■■■/高位情報体イデア)

(レベル87)

状態 死亡?(生存)

才能職 なし(果てに至る者)

洗礼職 なし(導きの賢者)

職業 なし(クラウス公爵家当主)

(称号) 不倒の鉄心 究極の魔導 女神の使徒

究道道中 才夫不当 一騎無双 邪龍殺し 救世の導き手 転生者

職業スキル

(導師の宣告)

(最果てにて輝ける星)

タレントスキル

(魔導)

(神の一端)

世界眼 NEW

(スキル)

全属性魔法レベル30(MAX)

→支援魔法レベル30(MAX)

→防御魔法レベル30(MAX)

→攻撃魔法レベル30(MAX)

神の式レベル9

魔力増加レベル30(MAX)

属性付与レベル30(MAX)

魔力操作レベル30(MAX)

魔力探知レベル30(MAX)

並列詠唱レベル30(MAX)

→並列起動レベル30(MAX)

高速詠唱レベル30(MAX)

→詠唱破棄レベル30(MAX)

→無詠唱レベル30(MAX)

指揮レベル5

鼓舞レベル6

交渉術レベル8

格闘術レベル15(MAX)


※()内は、世界再環中に適応される情報。スキル、称号は、それ自体が世界再環をしないと適応されない。


種族変わってる!?てか状態死亡?ってなんだ?いや、そう言えば女神様が流産する運命の胎児に魂を入れるとかなんとかって……。

て言うか、これは…。いや、今はわからないからとりあえず置いとくか。

そして、世界再環には、二種類があり、周りの空間と切り離して世界再環を行う「閉ざされた世界」型と周りの空間と接合しつつも指定空間内のみを世界再環する「開かれた世界」型。なお後者のほうが持続時間は短い。

閉ざされた小世界型は中からは外へ干渉出来ずその逆もまたしかり。そして、開かれた小世界型は、例えば、開かれた小世界の外から、野球ボールが投げ込まれたとしよう。だが、開かれた小世界内には、地球世界の物理法則は存在せず、言うなれば魔法的物理法則が存在する。そして、それに則った場合、その野球ボールに掛かる物理的エネルギーは存在せず、その場で野球ボールがコトンと落ちることになる。そして、その逆の場合。例えば、火球の魔法を外に向けて打った場合。これは火球の存在の根幹となる魔力事態が存在しない世界なのでその場で霧散した。ほかの魔法も同様だ。

そして、気が付いた事が一つ、神の式は世界再環外でも使えるらしい。女神様曰く、これは神の式に使う力の問題らしく、神の式は魔力ではなく、世界の基礎構成元素エーテルと言う物を使っているらしい。運命であれ、魂であれ、物質であれ、理であれ、この世界のありとあらゆる全てはこのエーテルで構成されているんだとか。ああ、あと言っていなかったが、世界再環発動中は女神様と連絡が取れるらしい。ステータスやら魔法の有無もそこで聞いた。

ちなみにヤキュウボウルは世界眼で情報収集している時に知った。にしても凄いな、この世界は。前世よりも遥かに複雑怪奇な理があるにも関わらず、それを全てでは無いにしろ解き明かしているのだ。自分のような、いや、自分以上の賢者達が多く存在するのだろう。なればこそ、その賢者達に俺もだろう。


◆◆◆



そこは世界の最果て、女神の間。

「ふぅ、無事、転生出来ましたね。」

転生は、上位の神格である女神でさえ、手間取るような難易度の作業だった。

まあ、それをおいても彼には彼女の神権のほぼ全てを注ぎ込んだのだ。それで転生失敗しましたでは冗談にもならない。

「あら?出来たのかしら?」

そう、言って彼女の隣で地球の存在する

世界「■■■■」を観察していた謎の女神(?)が顔を上げた。

「はい、滞りなく。始原様、御助力感謝します。」

そう言って、彼女は始原─謎の女神─に跪く。

「いいわよ?別に。アイツらの同根存在(根底、魂を同じくする者)の師匠とかどう考えても面白すぎるもの。貴方の全権と引き換えにアレを与えたのはあくまでワタシの趣味よ」

女神すらかしずく絶対存在「始原」。彼女が今回力を貸し出したのは、アルフの弟子二人の同根存在のうちの二柱が目の前の絶対存在と同格の「始族」だったからだ。女神が全権を捧げただけならば目の前の絶対存在は、興味すら示さなかっただろう。目の前の彼女は何処までも人間的──順序的に人間が始原的と言うのが正しい──であり、つまりは自分本意なのである。

すると、何の脈絡もなく空間が割け、そこから男が二柱出てきた。

「よー始原。テメー、俺等にはむやみに世界の理いじるなとか言うくせにテメーはいじってんじゃねーかよ」

そう、登場するなり文句を言いながら片方がエネルギーの塊を投げつけた。それは、星にでも当たれば周りの星系ごと吹き飛ばす威力をはらんでいたが、始原が軽く息を吐くと掻き消えた。彼等に取ってこの程度は児戯にも劣るのだ。むしろ女神がいる分気を遣っているまである。

彼等ニ柱は先程の話にも出てきた、アルフの弟子二人の同根存在である。

「ふふん♪︎おねえーちゃん特権よ♪︎全識♪︎原初♪︎」

そう機嫌良さそうに返す始原。

「アンタを姉と呼んだ覚えはないが?」

エネルギー塊を投げてない方─原初と呼ばれた男─がそう返した。

「あら?それでも、ワタシのあとに産まれた同質の存在ってことはあながち弟でも間違って無いんじゃない?原初の王?」

原初の王と呼ばれた男は不承不承にその言葉を肯定した。

「えぇー何よその反応!お姉ちゃん悲しくて泣いちゃう!」

ヨヨヨ

と嘘泣きを始める始原。

「やーい(棒)泣かしたー(棒)」

一緒になってふざけだす全識。

なお、始原の外見は銀髪碧眼の美少女であり、原初の王の外見はローブを深く被っていて顔までは見えない。何が言いたいのかと言うと、犯罪臭がすごい。

そんな団欒(女神を除く)をしていると──女神自身が全力で関わらないよう下を向いている──閉じかけていた空間の亀裂が再度開らき、黒髪に黒目、額には青筋をヒクつかせた男が一柱、入ってくる。

「おい!いつもの事だが勝手にどっか行くな!お前らの遊びのせいで毎度壊れる世界全体のパワーバランス直すこっちの身にもなれッ!!」

入ってきてそうそう、男は怒鳴る。

よくよく見れば、その目の下には隈が出来ている。相当無理に働いているのだろう。

「なによ天稟?いきなり入ってきて怒鳴るなんて、貴方らしくもない」

始原の言葉通り普段の彼─天稟─ならば怒ったとしても声を上げるまでには至らない。

が、そこで始原も、天稟の隈に気付く。

「……ゴメン」

申し訳なさそうに始原が謝罪すると、一瞬天稟が怒りずらそうに顔をしかめた。

「いや…まあ、わかってくれるなら別にいいんだよ。次からは気を付けてくれよ?」

始原がスッと目をそらす。

「「「……善処します?」」」

天稟の眉間にシワがよる。

「する気ねェなぁ?」

三者三様の態度を示す始原達。共通点は皆が目の前の存在を刺激しないように黙っていると言うことだ。

数秒間の沈黙の末、しびれを切らした天稟が二回手を叩き、こう言った。

「強制連行」

すると、空間の亀裂がさらに大きくなり、17人の男女が現れ、始原達を強制的に連れていく。

そして、最後に、お騒がせした、と天稟が謝りこの空間よりも遥かな、女神では存在することすら出来ないらしい高次元に移動していった。

そして女神以外誰もいなくなった空間で女神はごちる。

「まるで嵐のような方々でした……」

その嵐を招いたのはお前だろ、とは言ってはいけない。どうせ始原は勝手に目をつけて引っ掻き回すのだから。ならば、こちらから呼び込んで事前に掻き回される事を承知でやった方が良い。

だがまあ、それでも自分より遥かに格が上の存在と相対していたのだ、その疲労の色は隠しきれていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る