第123話 クセになってんだ
初めて一緒に食べる昼ご飯。
瑠汰は先ほど購買で買っていたパンを持ち、俺は弁当を持っている。
この学校の中庭はまぁまぁ広い。
ベンチがたくさんあって、席も滅多に埋まらないため、昼休みにご飯を食べに来るのは最適かもしれないな。
「瑠汰は毎日ここで食べてたのか?」
「うん。教室はちょっと、居場所が……」
「俺の隣の時はそこで食えばよかっただろ」
「購買に来ちゃったら、なんかわざわざ三階まで戻るのが面倒でさ」
「まぁ……そうか」
若干恥ずかしそうにそういう瑠汰だが、わからなくもない。
これはぼっちにしかわからない感覚だろう。
ある程度出来上がった人間関係の中に異物である自分が混ざるのは気が引けるのだ。
友達がいれば、それで存在が他者によって認められているのがわかり、その空間に属すのが億劫ではなくなる。
だがしかし、一人だと心細さや、周りにどう見られているのかという感情にもなって、余計にその集団に苦手意識が生じる。
加えて俺達の場合、あまり自己評価が高くない。
そして過去に他者にとやかく言われた経験があった。
他人の目を気にするなという方が無理な話だろう。
俺は一年半かけてぼっちの三咲鋭登が一人飯をする光景を当たり前の空気内に入れたが、転校してきた初めはそうもいかない。
そんなことを考えながら歩いていると、一番校舎から離れたベンチに瑠汰が座る。
俺もその隣に腰かけた。
「ってか飯ってそのパン二個だけか?」
「少ない?」
「少ないだろ」
いくら女子高生と言えど、パン二個で午後はキツいはずだ。
と、俺の問いに彼女はクールな笑みを浮かべる。
「クセになってんだ。昼飯減らすの」
「大丈夫なのか?」
「生まれた時から抜いてたぜ。家庭の事情でね」
「ダメ押しのフルコンボだな。虐待じゃねーか」
乳飲み子に昼ごはん食べさせてあげない家庭って嫌だな。
鬼の所業である。
と、うちの彼女は吹き出す。
「あはは。この構文気持ちいいな。ってか、ご飯抜き始めたのは中学の頃から」
「それも問題だぞ。なんだその当たり前みたいな顔は」
「嘘だろ!? ゲーマーたるものご飯の一回や二回は抜くモノじゃないのか!?」
「ゲーマー基準で考えるな!」
俺の肩を揺さぶってくる大げさな瑠汰。
どんな生活してたんだよずっと。
と、そんな俺は視界の端にふと人影を確認した。
「ちょっと止まれ」
「ん?」
小首をかしげて止まる彼女に視線が固定されそうになるが、なんとか頭を切り替える。
今、誰かの姿を捉えたはずだ。
この円形のベンチのどこかに。
大きな木を囲むように作られたベンチ。
振り返ると、木の向こう側に確かに他人の気配を感じた。
俺は声を潜めて聞く。
「……なぁ、お前いつもここで食ってるのか?」
「うん」
「……誰か人はいるか?」
「……いるぞ。めっちゃ可愛いぼっちの先輩」
「……先輩?」
めっちゃ可愛いぼっちの先輩。
そのワードだけで背中に冷たいものを感じた。
え、それって……。
そんな俺の恐怖にも似た感情を知る由もない瑠汰は、ニコニコしながら続ける。
「……まぁここってぼっちの墓場みたいな場所だからな。みんな色々あるんだなーって思ってたんだわ。その先輩めっちゃ怖いオーラまき散らしてるし」
今の説明のおかげで人違いである線は消えた。
ほぼ確定でその先輩とは、佐倉雛実の事だろう。
となると、これは厄介な事になってきたぞ。
「どうしたんだ? 怖い顔して。笑えよ」
「ははは」
「それはキモいぞ」
「おい」
傍若無人な瑠汰の言葉に吹き出しながら、少し和む。
だがしかし、木を挟んだ向こうに先輩がいるのか。
ということは、奴ももうじき来るのだろう。
「なぁ瑠汰。先に言っておくがこの昼休み、俺以外の人間と喋るな」
「なんだその束縛!」
目を輝かせながら言う瑠汰に、残念さを感じる。
可愛いけど。
「束縛じゃない。まぁいずれ分かる」
「ふぅん。……あ、萌夏ちゃん」
瑠汰と俺は視界にショートボブを靡かせて歩く美少女を見つけた。
名は三咲萌夏。
この光南高校で一番可愛いと言われている女子である。
彼女は俺に一瞥をくれると、一瞬目を見開いた後に頷いた。
だからそれに俺も頷き返す。
合図はバッチリ。
後はお前に任せるという意味だ。
「な、なに?」
状況を理解していない瑠汰は俺と萌夏を交互に見て困っていた。
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