第122話 金髪碧眼ツインテはテンプレ

「だいぶ根元の金髪もわかるようになってきたな」

「むぅ、やっぱそうだよな」


 翌日木曜の昼休み。

 昨日は果たせなかった約束を取り戻すため、俺達は校内を歩いていた。


 俺の言葉に髪を解く瑠汰。

 困ったような笑みを浮かべながら、俺があげたヘアリボンを弄る。


「染め直すの面倒だし、どうしよ」

「今みたいに髪下ろすのもいいんじゃないのか? 分け目が目立たないからさ。可愛いし」

「えへへ、そっか……ってそうじゃない!」

「何が?」

「髪下ろすと君がくれたゴム使えないだろ? それにアタシは可愛くないし」


 ぶつぶつ言いながら歩く瑠汰。

 変な奴だ。

 本来、可愛くない奴はツインテールなんてできない。

 この髪型が似合うのは超絶美少女か絵だけだ。

 わかっていないのだろうか。


「お前ってなんでツインテールなの?」

「金髪碧眼と言えばツインテールだから」

「……」

「なんだよその目」


 物凄く適当な理由だった。

 てっきり自分に似合うからとか、好きなキャラに憧れているから、などの言葉が返ってくると思っていたため、呆気にとられる。

 そんな俺に瑠汰はちょっとムキになった。


「テンプレに則ってるだけだぞ」

「それ、三次元対応のテンプレじゃないけど」

「そもそも金髪碧眼なんて日本にはほとんどいないんだからわからないんだわ」

「それもそうだ」


 瑠汰がいわゆる日本の量産型JKみたいな髪型をしているのを想像する。

 例えばショートボブ。

 うちの妹と同じ髪型を脳内趣味レーションしてみる。


 うーん。

 めちゃくちゃ可愛いが、確かにしっくりこない。

 顔の造形もあるのかな。

 こいつはあほっぽいが、意外と顔自体は綺麗系だ。

 三年前と違ってあどけなさも薄れているため、黙っていれば大人びて見えなくもない。

 黙っていれば。


「なんだよ、他人の顔ジロジロ見て」

「今のロングは似合ってるけどな」

「なんだ急に!?」

「いや、こっちの話だ」

「二人きりなのに別の次元で会話しないで欲しいんだが? 自分の彼氏がアタシを差し置いて妄想の中の自分と話してるなんて悲しいんだわ」


 早口でよくわからない事を言っている彼女はさて置き、話を戻す。


「じゃあいっそ金髪に戻したらどうだ?」

「急に話飛びすぎだろ。でも確かに、金髪にすれば毎度染め直す必要もなくなるけど」

「自分でも金髪碧眼がどうのこうの言ってたし」

「うーん。でも……」


 俺達は今、校舎の一階から自分たちのフロアである三階までを往復しながら会話を続けている。

 意味は特にない。


 ようやく玄関口に到達した辺りで、瑠汰は苦笑した。


「やっぱ目立つのは恥ずかしい」

「コンタクトとはハードルが違うか」

「それもそうだし、金髪はまだ見せてないからな」

「確かに」


 碧眼は文化祭の時に嫌という程披露してたからな。

 ほぼ生徒全員に知られているし、曝け出すことへの抵抗も薄かったのだろう。

 そして、目立ち方も変わる。


 例えば教室や、集会などの集まりで。

 黒髪しかいない中に金髪が混じるというのはかなりアウェーだろう。

 もし自分がそうだとしたら、考えるだけで気が重い。


 隣で靴に履き替える彼女を見ながら、俺は思う。

 瑠汰はそんな環境で生きてきたのか、と。


「でもさ」


 彼女はヘラっと笑いながら続けた。


「萌夏ちゃんの嘘を告白する方が勇気いるよね。もし萌夏ちゃんがみんなに本当の事言う日が来たら、アタシも金髪に戻そっかな。元ある場所にって感じで」

「……優しいな」

「なんで? どっちかと言うと萌夏ちゃんが悪目立ちしてる時に乗じようとしてるアタシ最低なんだが」

「はは、そんなことないさ」


 確かにそういう考えもできるが、逆もしかりだ。

 瑠汰が目立てば、萌夏への注目も分散する。

 萌夏を救う事にもなるのだ。


「あぁ、でもダメだ! 修学旅行で金髪はヤバい! 荒ぶるヤンキーに襲われてしまう!」

「荒ぶるヤンキーってなんだよ」


 二人で笑いながら話して。

 そうこうするうちに中庭についた。

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