第119話 双子の進路

 自宅に帰ると、リビングに母親と妹がいた。

 テーブルに向かい合って座って、互いに頭を抱えている。

 その姿はまさに瓜二つだ。

 萌夏の双子の兄妹は俺だが、俺なんかより母親の方が萌夏と似ている。

 いや、萌夏が母親に似ているんだけど。


「あら、鋭登……」


 母親は俺を見るとほっとしたように笑う。

 まるで帰りを待ちわびていたようだ。


「おかえり」

「ただいま」


 そしてやや不機嫌な妹の挨拶に、俺も不愛想に返事をする。

 だいぶ虫の居所が悪いらしいが、何を話していたのやら。


 と、自室へ向かおうとする俺に母親は言った。


「話があるから荷物を置いたらすぐに来なさい」

「えぇ……」

「大事な話だから」


 真面目な顔で見つめてくる母の目を見る。

 どうも怒っているわけではなさそうだ。

 すると何の話だろう。


 ちらりと萌夏に視線をずらすと、奴は面倒くさそうに髪を弄っていた。

 反抗期の女子高生ですと言わんばかりの態度だ。

 なるほど。


 面倒くさそうだが、無視するわけにもいかない。


 俺は自室にバッグを放ると、ため息を一つ吐いてリビングに戻った。


 本当は俺も話したいことがあったんだけどな。

 佐倉先輩が俺達双子の秘密を知っている状況を伝えなければいけなかったのに。

 だがしかし、しばらくは無理そうだ。

 あまり母親に聞かれたい話でもないし。


「座って」

「はい」


 母親の正面、すなわち萌夏の隣の席に座る。

 彼女は俺が座ると若干顔を背けた。


「話って何?」

「進路よ」

「あぁ……」


 その一言で納得した。


 そう言えば俺ももう高校二年生だ。

 しかも現在は十月。

 もうそろそろ受験勉強ムードが漂い始めるだろう頃合い。

 面倒な時期だ。


「鋭登は志望校とかあるの?」

「志望校って、まるで進学しか道がないみたいな言い方するのか」

「だってあんた進学校に通ってるでしょ」

「……ははは。こりゃ一本取られたな」

「鋭登!」

「すみません」


 分が悪い話題なため、少し雰囲気を変えようと誤魔化すが逆効果。

 大事な話だから当然だ。

 ふっと左の首筋に寒気を感じて横を向くと、あり得ないものを見るような目をした妹がいた。


 ……愚かな兄でごめんなさい。胎児からやり直します。


「はぁ、あんた達は揃いも揃って……。本当にそっくり」

「ちょっとお母さん! 少なくとも真面目に話した私とこんなのを一緒にしないで!」

「こんなのって言うな」

「あ、ごめん。でも今のは鋭登が悪いもん」

「まぁ、そうだけど」


 互いにぎこちなくなってしまった。

 そんな俺達を母親は凝視した後、ため息を吐いた。


「二人とももうそろそろ志望校くらい決めなさい。もう十七歳で、来年には成人扱いなの。自分の将来に責任を持って。誰の人生?」

「「自分の人生です」」

「お母さんに言われるまで考えてないのは無計画過ぎない?」

「「ごめんなさい」」


 息ピッタリで謝罪する妹。

 少しイラっとした。

 こいつ、わざと俺に被せて来てんのか?


「何か興味あるモノはないの?」

「「うーん……」」


 イラッ。


「どこの地方が良いとかさ」

「「地方かぁ」」


 イライラッ。


「私立でもなんでもとりあえず何かないの?」

「「あんまり大学は知らないかr――」」


 ぷっちーんっ!


 脳内で何かがキレた。

 俺が隣を向くと、ムッとした顔の妹がちょうどこっちを見る。


「一言一句被せんな!」

「あんたが合わせてくるんでしょっ!? マジでキモい!」

「はぁ!? なんでお前に合わせなきゃいけないんだよ! 馬鹿!」

「うるさいハゲ! あんたに馬鹿って言われたくないし!」

「だからハゲてねぇって言ってんだろうが! なぁお母さん、俺ハゲてないよなっ!?」

「黙って二人とも。うるさい」

「「ごめんなさい」」


 またも声が重なって不快だが、ここでいがみ合うのは流石に良くない。

 しゅんとする双子に、母親はこめかみを押さえてため息を吐いた。


「鋭登はハゲてないしキモくない。萌夏も馬鹿じゃない。二人とも二人に謝りなさい」

「「……」」


 これだから親の前で言い争うのは避けたいのだ。


「ごめんな萌夏」

「私こそごめん鋭登」


 結局こうやって気まずくなるだけだ。

 ついヒートアップしてしまうのが俺達双子の難点。

 こればかりは中学の頃のいざこざ関係なく、昔っからだ。


「話を戻すよ」


 萌夏そっくりのジト目を向けながら仕切る母親に、俺達は再び正面を向き直る。

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