第117話 清い付き合い
佐倉先輩に秘密がバレていた。
この状況は最悪中の最悪だ。
瑠汰の場合は俺の彼女であり、さらに言うなら優しかったり、絶対に人の秘密を漏らすような奴じゃないこと、そして友達が少ないことも相まって秘密がバレることはなかった。
実際には演技力が皆無だったため、幾度となく窮地に追い込まれたが、それはさて置くとして。
瑠汰に比べて佐倉先輩はヤバい。
友達が少ないという点ではある意味安心だが、問題はその性格の悪さ。
何を考えているのかもわからないため、今後の動きが予測できない。
そこでまず俺がしなければいけないのは現状の確認。
双子の妹と共有する必要がある。
だがしかし、まだ時間は昼であり、学校はこの後四時間以上ある。
こんなことがあった手前、学校であいつと接触するのは悪手だろうし、帰宅後まで待つ他ないだろう。
「はぁ……」
憂鬱だ。
◇
下校時間、俺はツインテールを風に靡かせる瑠汰と一緒に歩いていた。
その髪は文字通り尻尾。
懐っこい犬みたいだ。
「今日ちょっと話良い?」
「あぁ……そうだったな」
そう言えば話があると言っていたな。
一体何を言われるのか、怖い。
と、信号待ちの時間に瑠汰は話を始めた。
「お父さんにバレたっぽい」
「……何が?」
「アタシに彼氏がいる事」
「……」
嘘……だろ?
そういう方向性のお話ですか?
「昨日お父さんが家に来て、『あの男はなんだ?』って」
「マジか」
昨日ももちろん瑠汰と一緒に下校した。
もはや日常だし、俺に委員会の無い日以外はずっと二人で帰ってきた。
その光景を見られたのか。
「お父さん、近くに住んでるのか?」
「全然。なんか様子見に来ただけ。大げさだよな」
面倒くさそうにため息を吐く彼女だが、どうなんだろう。
一人暮らしを始めて二ヶ月の一人娘。
それもまだ高校二年生で、見た目もこんなに可愛くて。
心配に思う方が普通じゃないだろうか。
どこぞの悪い虫が寄っていてもおかしくない。
って、こいつの親からしたら俺がその悪い虫なのか。
こりゃ一本取られたなー。
「それでな」
「おう」
「会わせろって」
「おう」
「……おう、じゃねーんだわ。いいのかそれで」
不満げにムッとした顔をする瑠汰に、俺は苦笑する。
それ以外になんと言えば良いのやら。
「会うしかないだろ。挨拶くらいした方が良いんじゃないのか?」
「いらないって! どうせ八割はニートなおっさんなんだから!」
「……そんな事言うな。ってか生計立つレベルのY〇utuberなら仕事で外に出る機会とかあるんじゃないのか?」
「でも基本的に家にいるんだぞ? 鬱陶しいって」
「まぁ、それは……」
家族が家にずっといたら邪魔だよな。
うちは両親ともに仕事をしているが、隣の部屋に妹もいるからわかる。
一人きりの空間ってのが欲しいもんだ。
「でも、それとこれとは別だろ。清いお付き合いをしていますって言わないと」
「……清いのか?」
「清いだろ」
「清いってなんだ?」
「さぁ」
言っていてゲシュタルト崩壊してきた。
きよいってなんだっけ。
と、そんな疑問を覚える俺を横に、信号が青になった横断歩道を渡りながら瑠汰はひょこひょこ跳ねる。
怒っているつもりなのだろうか。
「娘の生活圏に足を踏み入れんなって感じなんだわ」
「そんな事言うなよ。可哀想だろ」
「だって反抗期真っ盛りの時期だし」
「自分で言うのはなんとも……って感じだが、そんなに父親嫌いなのか?」
「嫌い!」
「俺は?」
「好き! ……って違う!」
やっぱり馬鹿なのかな、この子。
そんなところも愛おしい。
可愛すぎてハゲそうだ。
「急にぶっこんで来るなよっ!」
「なんかエロいな」
「あ、いやその……えっと」
「……ごめん。俺が悪かったから急に素で恥ずかしがるのやめてください」
「……あ、うん。そうだな。そうだよ。そうでございますわ。何言ってんだよ君は! 本当に……あぁ」
気まずくなって黙る二人。
しばらく歩いて、瑠汰はぼそりと言った。
「全然清くない」
「はっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます