第115話 嫌味な妹
授業終わり、瑠汰に必死に謝った。
「ごめん! 委員会の会議入ったから今日の昼は一緒に食えなくなった……」
「それは仕方ないな~」
若干寂しそうな笑みをこぼすが、彼女は頭を下げる俺の肩を触る。
「大げさなんだわ。昼休みは毎日あるんだから、また今度な?」
「……お前、カッコいいな」
「あんま嬉しくないし。可愛いって言えよ」
「可愛いな」
「……ッ! さっさと行けよ!」
「お、おい!」
急に突き飛ばされ、危うく尻もちをつきかける。
後ろには他の人の机もあり、後頭部を打ったら死ねるぞ。
こいつは俺を殺す気なのか。
「急に危ないだろ!」
「き、君がふざけた事言うからなんだわ!」
「お前が言えって言ったんじゃねえか!」
「言ってない!」
「なん……だと?」
正気か? 正気なのか?
本当にさっきの発言を忘れてしまったのだろうかこの子は。
と、こんな茶番を繰り広げている暇もない。
「じゃあな」
「うん。頑張れよ」
「おう」
「あ、あのさっ」
「どうした?」
その場を離れようと背中を向けた瞬間、制服を掴まれる。
「放課後は、一緒に帰れるよな?」
「あぁ」
「よかったぁ」
緩い顔で息をつく瑠汰に、俺も笑う。
本当に可愛い奴だ。
◇
図書室へ着くと、佐倉先輩しかいなかった。
いたら真っ先に話しかけてくるだろう鳩山さんの姿は見えない。
辺りをきょろきょろ見ながら席につくと、佐倉先輩は手元の資料を見ながら言ってくる。
「鳩山さんは欠席です」
「えっ!? 除名したんですか!?」
淡々と抑揚のない声音で放たれた言葉に俺は震えた。
唯一の知り合い、そして役員がいなくなったら終わりだ。
俺の仕事量が増えるし、なによりこの先輩と二人きりなんて嫌すぎる。
しかし、そんな俺の心境をたった一つの質問で悟ったのか、彼女はそのまま俺の方を見ずににやりと笑って見せた。
「いえ、学校も欠席しているらしいので、今回は大目に見ます」
「よ、よかったぁ」
「私と二人きりにならずに済んでほっとしてますね?」
「……いえいえそんな事は」
「嘘は結構です。私もあなたと二人きりなんて嫌なので。汚らわしい」
「その最後の台詞いりました?」
一言余計だ。
その前の発言でも十分殺傷能力に長けていたのに、追い打ちをかけてくるのがサイコパス感を出していて怖い。
「随分余裕ですね。私に嫌味を言われてへらへらしているのはあなただけです。三咲鋭登君」
「まぁ、嫌味は慣れてるので」
「随分と劣悪な環境下で生活しているんですね。可哀そうに」
「思ってもない事言わないでください。ただ単にちょっと妹と色々あっただけで」
萌夏は本当は俺の事が好きらしいし、あの嫌味も今となっては可愛いものだ。
むしろあの口の悪さがあってこそだな。
俺も結構言う人間だし、雰囲気が近い分話しやすい。
決して俺はドМではないが、適度にいじられたり馬鹿にされる方が好きだ。
と、脳内で妹の事を考えていると、佐倉先輩はふっと笑った。
「へぇ、学校一の美少女は口が悪いんですか。初耳です」
「……今なんて?」
「あぁ、言い方を変えましょうか。三咲萌夏さんは随分兄に対して辛辣な態度を取っているんですね」
「……なん、で」
何でそうなる。
俺の妹=三咲萌夏と一瞬で方程式を立てられたのは何故だ。
俺と奴は学校内では従兄妹という設定。
双子の兄妹であるという真実の関係は瑠汰以外に誰も知らないはずなのに。
「言ったでしょう? 私、嘘つきは意外と好きなんですよ」
ようやく俺の顔を見た佐倉先輩。
性格のわりに澄んだ彼女の瞳は、隠そうともしない好奇心で満たされていた。
やはり、知っていたいたのだ。
どこから得た情報かは知らないが、俺と萌夏の関係性を知っていたのだ。
先週、萌夏と危惧した最悪のケースが起こっていたのだ。
「うふふ。会議を始めましょうか。二人っきりで」
会議は――昼休みはまだ始まったばかりだ。
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