第112話 可愛いは正義?
「何か聞かなかったの?」
「そんな時間なかったからな」
あんな意味深発言をされたわけだ。
俺だって発言の真意を確かめようとした。
しかし、言いたいことを言って佐倉先輩はすぐに図書室を出てしまった。
なんでも職員室に用があるとかで、ゆっくり話をする機会すら得られなかったのである。
萌夏はジト目で俺を見た。
「なんだよ。使えない奴だなって思ったのか?」
「そこまでは思ってない。ただ消化不良なだけ。でもバレたとしていつの話だろ。私とあんたが家の外で話したのなんて、与田に従兄妹だって嘘ついた日だけでしょ」
「じゃあその日かな。たまたま下校中の会話を聞かれたとか」
「でも双子だなんて言ってない」
「それならあの人が知っている嘘は違う話なのかもしれない」
「それは何?」
「……さぁ」
情けない声を漏らす俺に、妹は顔を顰める。
「佐倉先輩か。マジで面倒な相手だね」
「そんなに悪評が広まってる人なのか?」
「性格悪いのは有名。あと図書委員関係で毎年揉めてるのも有名」
「……」
「でもそんなに嫌われてはないよ。可愛いし、頭良いから」
「可愛いってのは正義なんだな。学校一の美少女が言うと説得力あるぜ」
「……嫌味?」
萌夏じゃあるまいし、俺は嫌味なんて言わない。
ただありのままの事実を述べたまでだ。
そうカッカしなさんな。
と、萌夏はそこでベッドに寝転ぶと大きなため息を吐いた。
「あーあ。学校一の美少女なんて、本当にもうそろそろ呼ばれなくなるよ」
「瑠汰がいるもんな」
「そうそう。それに私の株も大暴落中だろうし。まぁこれが本来あるべき姿なんだろうけど。嘘つきで性格の悪い三咲萌夏に、学校一の美少女なんて呼ばれる資格はないよ」
「……」
嘘つきで性格の悪い三咲萌夏、か。
どうもこいつは勘違いをしているらしい。
「お前は素の状態でも十分可愛いぞ。その証拠に小学校や中学校の頃も普通に人気だったじゃないか」
「……」
「むしろ猫かぶりをやめた方が印象良くなるかもな」
「それ、マジで言ってる?」
訝しげに聞いてくる萌夏に、俺は思い出す。
あれは夏の事。
元原君や渡辺君が言っていたことだ。
萌夏は完璧すぎるから、と言われていた。
完璧すぎるから、逆に抜けている瑠汰の方が可愛げがあると。
「確かに性格は悪いし、陰キャ男子には避けられるようになるかもしれないけど」
「……あんた、フォローしたいの? 貶したいの?」
「フォローしたいけど、嘘を言うつもりもない。考えてみろ、俺の双子の妹の性格が良いわけないだろ」
「この前の私の真似?」
「どうかな」
実際、私の兄が不細工なはずがないと言っていた萌夏の姿が少しカッコよかったので真似してみた。
だがしかし、言ってから少し違うなとは思った。
俺のふざけたフォローに萌夏は笑う。
「今日瑠汰と一緒に帰ったんだけど、改めてあの顔見てると自信なくなっちゃうよ」
「まぁ当然だな」
「……あんたはマジで何なの」
「自分の彼女の方が妹より可愛いって言うのが不満か? 逆に彼女より妹を褒め出したらキモいだろ」
「それもそうだね」
「で、実際お前も可愛い。双子というフィルターがかかっていても魅力的だ」
「きっも。何言ってんのあんた」
げらげら笑い始める萌夏。
相変わらず口は悪いが、こういうのは和んで楽しい。
体を起こして俺を向く妹は、ニコニコしていた。
「なんだよ。俺に可愛いって言われて照れてんのか?」
「そんなわけないでしょ。鳥肌立ってきた」
「ははは。もっと拒絶反応を見せてくれ」
「マジでキモい」
まるでついこの前までのような関係に戻ってきた。
やはりこいつは口が悪くてなんぼだ。
「あーあ、本当に最低。瑠汰に今日の話してあげよ」
「また仲を疑われるぞ」
「確かに。近親相姦疑惑をかけられるのは泣きそうになるもん」
「……おえ」
「だからなんであんたがそんなに嫌がるの!?」
「お前が直接的な単語を口に出すからだよ」
近親相姦なんて、妹の口から聞きたくない単語ナンバーワンだ。
と、そんなこんなで時間も遅くなってきた。
「じゃ、今度会った時は先輩に真意を聞いておいて。私の方も色々手は打つから」
「おう。おやすみ」
「うん。おやすみ」
互いに挨拶を交わして、お開きとした。
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