第109話 もかともなか
さて、そんなこんなで始まった新環境での高校生活だが、高校とは絶えず行事が起きている忙しい場所だ。
というわけだから、妹とのごちゃごちゃを考えつつも他の行事に目を向けるマルチタスクが必要となる。
火曜の放課後、俺は珍しく学校に残っていた。
修学旅行関連のクラスによる話し合いではない。
そのため瑠汰も一人で帰らせている。
運動部の練習の声が窓から聞こえる廊下を歩き、目的地の扉を開いた。
そこは図書室だった。
「お、三咲君じゃん」
「鳩山さん……」
慣れない部屋に入ったが、一瞬で知人に遭遇した。
「三咲君も図書委員だったのかー」
「ま、まぁな」
「何その返答マジウケる」
相変わらず笑いのツボがよくわからない人だ。
と、短い髪を後ろでちょこんと束ねた姿に少し違和感を覚えた。
「髪切った?」
「お、気付いた? さっすが瑠汰ちゃんの彼氏! 女の変化に敏感?」
「いやいや、大体気付くだろ」
「ナチュラルモテ男だね」
「……」
褒められているのか馬鹿にされているのか。
俺はため息を吐きつつ、空いている席に着く。
まぁ空いているも何も、まだ俺達以外いないんだが。
図書委員会の会議が本日放課後に行われる。
そう今朝アナウンスされ、俺は自分が図書委員だったことを思い出した。
図書委員と言えば放課後に会議が多く、生徒のほとんどからハズレ役員と言われている。(妹情報)
そんなわけだから、勿論俺もやりたくはなかった。
だが現実は非常。
じゃんけんに敗れて押し付けられたのだ。
決めたのは新年度始まって直後の約半年前だったため、記憶から消えていた。
「あー、みんな遅いね。集合五時だったのに」
「もう五分過ぎてるな」
肝心の委員長すら来ない始末。
どうなっているんだこの委員会は。
「みんな休みかな」
「連絡知らされてないのかも」
「それはないっしょー。知らんけど」
部活に行く気満々なのか、部活着に着替えている鳩山さん。
運動部って感じがしてなんだか強そうだ。
みんなが休みなら俺もサボればよかった。
瑠汰に一緒に帰れない旨を伝えるとき、どれだけ虚しかったか。
泣きつかれたらどうしよう。
一緒に帰ってよなんて言われたら、俺仕事サボっちゃう……なんて思っていた。
しかし。
『あ、いいよ。萌夏ちゃんと帰るから』
彼女の反応は冷めたモノだった。
それもこれも憎き妹のせい。
あいつには今日帰ったら説教だ。
兄の彼女を横取りするなんて、どんな神経してやがるんだ。
と、ふざけた事を思いつつ。
ぼーっと時計を眺めていると隣の椅子に座った鳩山さんがグッと寄ってくる。
「うお!?」
「ねぇねぇ。萌夏の従兄なんでしょ?」
「あ、あぁ。そうだよ」
「ふーん」
鳩山さんは俺の顔をじっくりと見た。
「あのさ」
「……おう」
なんだろう。
俺の演技が白々しすぎて気付かれたかッ!?
ビビりあがる俺に、彼女は続けた。
「おなかすいた」
「知らねえよ」
「えー、なんかお菓子持ってないの? 萌夏なら最中くれるよ」
「嘘つけ」
「洒落だよ。もかともなかってね。あはは」
「……」
なんなんだこの人。
ギャグ線が高いのか低いのかわからない。
瑠汰と同レベルの何かを感じる。
危険度がかなり高い人種だ。
なんて話していると。
凄い物音と共に迫力ある登場をしてくる人がいた。
扉をフルパワーで開閉し、何事もなくこちらへ歩いてくる女子生徒。
「……あなた達、図書委員ですか?」
「そうでーす」
間延びした返事をした鳩山さんに近づく女子。
と、彼女はぎろっと俺の事も睨みつけた。
「図書室でイチャイチャしないでください。見るに堪えません。不愉快極まりないです」
「へ!?」
勘違いをされている。
イチャイチャなんてしてないぞ。
「何言ってるんですか。あたしたち付き合ってませんよ~。この人彼女いるし」
「……そうですか。失礼しました」
妙に敬語で話す人だな。
長い黒髪が艶やかな人だ。
だけど、何か言葉に棘を感じるというか、一言一言に殺気を感じるというか。
「それでは始めましょうか」
「「え?」」
急に仕切り始めた女子生徒に俺達は声を漏らす。
と、彼女は口端を上げた。
「私は図書委員長
「「……」」
この瞬間、俺とおそらく鳩山さんもこの委員会が地獄であるという事を悟った。
「それでは楽しい会議を始めましょうか。欠席者が多いので、通常の五倍くらいの時間を要しますね。うふふ、合宿になりそうです」
ごめん瑠汰、萌夏。俺……今晩帰れないかも。
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