第3章
第108話 新シーズン開幕
萌夏に真相を伝え、互いの想いをぶつけあったあの日から一週間が経った。
奴は既に家にも帰ってきており、一緒に家族生活を送ることはできている。
ただ若干ぎこちない関係になってしまっているのも否めない。
例えば昨日……日曜の昼の事。
親が買い物で居なかったため、リビングのテレビでアニメを視聴していたところ、萌夏は隣にやってきた。
そしていつも通りに口を開く。
『何やってんの。休日の昼間っから』
『アニメ見てんだよ』
『友達と遊ばないの?』
『俺に喧嘩売ってんのか? お前だって家にいるくせに。そもそも俺みたいな陰キャに……あ』
『はぁ、そんな事言ってるから……あ』
やはり、お互いに染みついた口癖というのはそう簡単には治らない。
俺は隙あれば自虐を。
萌夏は隙あれば嫌味を。
と、俺はともかく萌夏はそんな悪癖を発動すると気まずそうに謝ってくる。
それがなんともその……気持ち悪くて仕方がない。
だって考えてみろ。
誤解も含まれていたとは言え、毎日キモいだの死ねだの陰キャだの言ってた奴が急に「ごめんね……」って言ってくるところを。
調子が狂って仕方がない。
なんて日常を送る反面、当たり前だが学校生活も普通に行われている。
そちらもまぁまぁ厄介な事になっていた。
◇
「あの人が萌夏の従兄?」
「マジなんだ……」
学校を歩くと、あちらこちらで小声で話されるのが耳に入るようになった。
萌夏の言う通り、一瞬で俺達の関係(嘘)は広まったらしい。
そのため、かなり学校生活は面倒になった。
やはり双子ほどではないにしろ、関係があると知られれば色眼鏡越しに見られる。
しかし、計算外だったものもある。
それは俺への評価だ。
「でもあの人、瑠汰ちゃんの彼氏でしょ?」
「らしいよね。実はすっごく性格良いのかな。萌夏みたいに」
そう、瑠汰の彼氏であるという事実がここにきて俺の人格にバフをかけていた。
不本意だが、ある程度の肩書ではあるらしい。
だが、それをよく思わない奴もいるようで。
「なんだよ。君とアタシは関係ないだろ」
「まぁそう怒るなって」
「だって……」
昼休みの教室にて。
俺の席の隣に座る黒髪碧眼の巨乳ツインテール彼女は頬を膨らませている。
瑠汰の言いたいことは分かる。
瑠汰ありきで俺の事を計ろうとする連中が気に入らないのだろう。
俺と萌夏との確執が生じた原因も似たような問題だったしな。
ただまぁ。
「それは仕方ないんじゃないの?」
「なんでだよ」
「そりゃ親しくない人の印象なんて、周りにいる人間から推察するし」
「……でもアタシ」
「そもそも私だって三咲君のことはガチ陰キャの空気君だと思ってたし」
与田さんは瑠汰の前の席からそう言う。
「瑠汰ちんさぁ。三咲君の事大好きなのはわかるけどね~」
「べ、別にそれは関係ないだろ!」
「大好きなことは否定しないと」
「あ、ちが……」
「違うの?」
「何回そのくだりをやれば気が済むんだお前ら」
お決まりの漫才を繰り広げる瑠汰と与田さんにため息を吐く。
そして続けた。
「別に嫌な気はしてないからいいよ。心配してくれてありがとな」
「ううん。君が良いならいいんだよアタシは!」
何度も頷く瑠汰。
遅れてツインテールがぶんぶん揺れているのが面白い。
と、与田さんは俺を向く。
「大事になってごめんね。元はと言えばあんな場所で聞いちゃった私のせいだし」
「気にすんなって。萌夏も隠し通すつもりはなかったみたいだし」
申し訳なさそうな与田さんを見ると若干複雑な気持ちになる。
事実として、従兄妹であることそのものが嘘だからな。
これ、本当に双子であるという話を打ち明けたらどうなるんだろう。
とんでもないことになりそうだ。
ちなみに萌夏はまだ答えを出していない。
考え中なようだ。
やはり俺への罪悪感と自分へのけじめ、そしてリスクリターンを考慮して決めあぐねているらしい。
まぁまだ時間はいくらでもある。
そもそも俺は隠し通したい派だし。
なんて考え込んでいると、与田さんは瑠汰が座っている机に体を乗り出して頬杖を突く。
「で、なんで私は席を取られてるわけ? 説明していただけるかな巨乳姫」
「だからそのあだ名やめろ!」
やはり俺の周りの雰囲気は今日も変わらず賑やかだ。
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