第106話 双子の仲は元通り?

 謝る俺に、萌夏は眉を顰める。


「なんで鋭登も泣くの……?」

「お前が俺の事をずっと気にかけてくれてたって知って、嬉しくて……」

「意味わかんない」


 ずっと嫌われていると思っていた。

 そりゃ家族だし、最低限の愛情はあるだろうと思っていたが、こんなにみっともない俺の事を心配してくれていたなんて知りもしなかった。

 本当に、びっくりした。


「鋭登は、私の事気にして例の事件の真相を黙ってたの?」

「あぁ」

「……」


 萌夏は再び黙る。

 その表情は悲し気で、辛そうで。


「確かに私、知ってたら奈菜にブチ切れたかも」

「そうか」

「自分の兄の事、馬鹿にする奴なんて許せないじゃん……あ」

「どうした?」

「……ううん」


 何かに引っかかったらしく、声を漏らす萌夏。

 しかし聞いても、曖昧に首を振るだけだ。


「私、本当にブラコンなのかな」

「……何言ってんだよお前」

「引かないでよ」


 俺の言葉に若干だが、笑みを浮かべる。

 元気とは程遠いが、笑えるくらいにはなったらしい。

 よかった。


 と、萌夏は口を開く。


「ずっと違和感があったんだ。なんで中学の知り合いと縁を切りたがってたのかなって。それが今分かった気がしたの」

「確かに、お前は騒動とは関係なかったしな」

「真相には大いに関係してたけど」


 妹はポケットから取り出したハンカチで顔を拭った。

 そして俺を向く。


「私からも言うね。今まで酷いこといっぱい言ってごめん。でも、大好きだから」

「……おう」

「あ、マジで変な誤解しないでよ? ただの家族としてだから」

「わかってるよ」


 実の妹と恋愛関係だなんて、吐きそうだ。

 容姿なんて関係ない。

 ただ単に、生理的に受け付けないからな。

 言わずとも『好き』のニュアンスくらい理解している。


「あ、アタシはちゃんと好きだぞ? そういうニュアンスで。安心しろよな?」

「……ありがとう」


 なんとなく瑠汰を見ると、聞いてないのに丁寧に気持ちを伝えてくれた。

 可愛いな。


「……どさくさに紛れていちゃつくのやめて?」

「「ごめんなさい」」

「はぁ……」


 ため息を吐く萌夏。

 そんな彼女に、俺と瑠汰も苦笑する。


「ほんとに今までごめん」

「もういいよ。俺こそごめん。謝らなくちゃいけないのは俺の方だ」

「ううん。そんなの私の気が済まない。最低な事やっちゃったのは事実なんだから」

「それは俺も……」


 俺が悪い、私が悪いと言い合う双子。

 話は平行線だ。

 段々とイライラしてくる。


「私が悪いって言ってるじゃん! 鋭登がこんなになるまで気付いてあげられなくて、傷つけて……。一番近くで支えてあげなくちゃいけなかったのは私なのに!」

「お前だっていっぱい傷ついたじゃないか! 妹を泣かせる兄貴なんて最低だ! 俺が悪い!」

「意味わかんない! 分からず屋過ぎでしょ。キモい! 私の方が最低クズ人間だもん!」

「き、キモい……!? お前だって頭固すぎなんだよ馬鹿! もっといつもみたいに『あんたが悪い』って言いきれよ!」

「無理に決まってるし。大切な人を傷つけておいてそんなこと言えるわけない! ってか瑠汰、どっちが悪いと思う?」

「……あ、アタシ?」


 飛び火して狼狽えるツインテール。

 そんな彼女に詰め寄る俺の超絶可愛い妹。


「……どっちも悪い、的な?」

「……まぁそうだよね」


 ふっと表情を緩め、定位置に戻る萌夏。

 と、自身の涙でフローリングを濡らしまくっていることに気付いたらしい。


「ご、ごめん瑠汰!」

「いいって。気にしないで」

「……本当にありがとう」


 段々と場もお開きに近づいてくる。

 萌夏とも和解でき、数年前からの禍根を完璧にとは言わないが解消できたと思う。

 互いに実は心配していただけだという事も確認できた。

 俺も萌夏もお互いの事が好きなだけで。

 ……って改めて考えると恥ずかしいな。

 つい勢い余って言ってしまったが、思い返すと体が熱くなる。


 ふと萌夏を見ると、ちょうど同じことを考えていたのか、奴も顔を真っ赤にしていた。


「じゃあ、双子の仲は元通りかな?」


 俺と萌夏に聞いてくる瑠汰。

 そんな彼女に、妹は首を振った。


「ダメだよ。それは」

「どうして?」


 何を言うのかわかっていると言わんばかりに問いを続ける。


「光南高校で私達の関係を隠し通したままじゃダメだよ」

「それは……」


 穏やかな雰囲気とは一変し、再び真面目な顔に戻った萌夏に、俺は言葉を失ってしまった。

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