第89話 始まりの始まり

 それから俺達はゲームをした。

 昼食時まではフードコートで火花を散らし、人が増え始めると園内を散策。

 そして手ごろなベンチに座って、またゲームのプレイ。

 昼食時が終わり、フードコートの人が減ったら再び持ち場に戻って仲良くゲーム。

 そうして時は過ぎ……。


「なぁ瑠汰」

「どしたの? あ、もうちょっとハンデいる? 2ストックあげるだけじゃ足りない?」

「違う! ってかもはやこれ以上ハンデ増やしたらゲームが成立しないだろ!」


 もう何十連敗したかわからないゲームの画面を指して、俺は叫ぶ。


「なんで俺達は遊園地に来てずっとゲームをしてるんだ!?」

「ハッ!」


 目を見開いて絶句するうちの彼女。

 力の抜けた手から、ゴトンとコントローラーが落ちた。


「もう三時だぞ」

「……アタシ達、確か十時からゲームしてたよな?」

「そうだ。途中歩いた時間もあるが、大体四時間くらいはゲームをしている」

「な、何してるんだ……?」

「知らんわ!」


 こっちが聞きたいんだよ。

 とは言え、俺も少なからず熱中して止め時を見つけられなかったのは確かだ。

 これは二人のミスと言えよう。


「帰りの時間を考えたら、遊んでも後一時間が限界だ」

「そ、そっか……」


 俯く瑠汰。

 彼女はそのままゲームの電源を落としながら呟く。


「なんかごめんな。せっかくのデートだったのに」

「ッ!」


 せっかくのデート。

 確かにその通りだ。


 だが、そのせっかくのデートで女の子にこんな顔をさせるのは、男としてサイテーである。


「暗い顔すんなよ。ゲームいっぱいできて楽しかったぜ?」

「……そう?」

「ってか、どっちにしろ俺達には厳しい環境だったしな。また来ればいいさ」

「うん。そうだな……ありがとう」

「おう」


 まだ若干暗いが、少し笑顔が浮かんだ。

 仕方ないな。


「よし、じゃあ今から観覧車行くか」

「はぁ!? 本気だったのか!?」

「勿論。お前だって行きたそうだし」

「ちょ、ま。なんで? なんでこのタイミングでそんなところついてくるんだ!? 悪魔なのか? そうなんだろ!?」

「ははは。このタイミングだからだよ。行くぞ」

「ひぇぇ」


 完全にいつものノリに戻った。

 これからは超絶楽しいがちがちデートの始まりだ。



 ‐‐‐



「か、観覧車だな……」

「……おう」

「せ、狭いな……」

「……さっきはもっと体寄せあってたけどな」

「……それもそうか。って、違う! 密室は別なんだわ!」


 念願の観覧車にて。

 思ったより暑くて狭い環境に、俺達はそわそわしていた。


「ってかこれ何分くらいあるんだろ」

「今乗ったばっかりだからあと十五分くらいかな」

「ながっ!」


 驚愕する瑠汰だが、そこで会話が止まってしまう。


 付き合い始めて一ヶ月くらい。

 出会ってからを考えるともっと長い期間だが、こんなに会話がなく気まずいのは初めてだ。

 そこでふと三年前の事を思い出す。


 いつしか下げていた顔を上げると、瑠汰は若干赤い顔で俺を見ていた。


「どうしたんだ?」

「べ、別に吊り橋効果じゃないし?」

「そうか」


 俺は一息つき、彼女に尋ねる。


「俺達、三年前はどうして付き合ったんだっけ」

「……え?」


 聞くと瑠汰は小さく声を漏らした。

 曖昧な顔で苦笑する瑠汰。

 こんな反応をされると、何かまずい事を聞いたのか不安になってくる。


 俺としては自然に付き合い始めていた記憶だったが、実は違ったのだろうか。

 俺かこいつのどちらかが告白していたのだろうか。

 仮にそうだとしたら、今の質問は最悪だ。

 せっかく高まったムードが一気に氷点下の極寒になる。


「あはは。忘れちゃったか。まぁ確かに告白とかはしてなかったしな」

「……おう」

「三回目に会った時なんだけど、覚えてる?」

「勿論。ゲーセンに行った時だよな……あ」

「思い出した?」


 瑠汰とは中学時代、二人で何度か出掛けた。

 最初は友達付き合いとしてだったが、付き合う前にも二人で遊んでいたのだ。

 そしてその三回目のデート?の場所はゲーセン。


「お前と初めて手を繋いだ日か」

「えへへ。覚えてるじゃん」

「……でも、告白をした覚えはないぞ? お前から――」

「あー! 言わなくていいから! ここの扉こじ開けて飛び降りたくなるから!」

「やめろよ!?」


 洒落にならない事を言い出す瑠汰。

 と、彼女はこぶしを膝の上で握りしめながら、窓の外を眺めて言った。


「あの日、アタシが高校生グループにビビってよろけてさ、その時に君が受け止めてくれて。で、そのまま手を繋いでくれたんだ」

「危なっかしいからな」

「余計なお世話だし」


 そこからの事も覚えている。

 俺がボソッと言ったのだ。

『なんか俺達、付き合ってるみたいだな』と。


 大した意味はなかった。

 しかし、その後に彼女は上目遣いで伺うように聞いてきたのを覚えている。


『もう付き合ってるみたいなもんだろ。……あ』


 今思い返しても笑える。

 そうか、あれがきっかけで俺達の関係に名前がついていたのか。

 だがしかし、一つだけ腑に落ちない。


「なぁ瑠汰」

「どうしたんだ?」

「お前、俺のどこが好きになったんだ?」

「なッ! 何言ってるんだよ!?」

「気になるんだよ」


 言っちゃあ悪いが、俺は特に長所もない人間だ。

 俺の価値を表す肩書きは『三咲萌夏の兄』というただ一つ。

 しかし、瑠汰は萌夏の存在なんて無しで俺の事を好きになってくれた。

 意味が分からない。


「……はぁ、仕方ないな」


 珍しく落ち着いた雰囲気で口を開く瑠汰に、俺は全神経を集中させた。







 ◇


【本作関係ないあとがき】


 お世話になっております瓜嶋です。

 本作関係ない話で恐縮ですが、宣伝させてください。

 『借り物競走で部活の先輩マネージャーをお姫様抱っこした俺の末路』という作品を現在コンテストに応募中なのですが、よかったら読んでみて欲しいです。

 先輩マネージャーと男子高校生の甘い恋愛物語になります。

 ↓のリンクからどうぞ!

 https://kakuyomu.jp/works/16816700427971834878

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