第84話 盗撮
「最近ごめんな」
「えっ?」
口を開いたかと思えば、唐突に謝ってきた瑠汰に俺は困惑する。
顔を上げて見せた彼女は、自嘲気な笑みを浮かべていた。
「毎日しつこく夜中までメッセージ送ってごめん。君が寝不足気味だったの、わかってたのにやめられなかった」
「別にいいよ。俺も楽しかったから返信してたんだし。俺はお前が思ってるほどいい奴じゃないからな。本当にきつかったら無視して寝てるぞ、ははは」
「……優しいよ、君は」
急にしんみりしてしまった。
瑠汰のこういう雰囲気は慣れないから落ち着かない。
「わかってる。前も言った通り君の事は信用してるから、他の子に気が向くとは思ってない。でもやっぱり……さ、寂しかったから」
「あぁ」
「これ、学校でもつける」
「え?」
「なんだよ。だめなのか?」
「そうじゃない!」
逆だ。
あれだけ怖い女子に目を付けられるのがどうとか言ってたのに、どんな心変わりなんだって意味だ。
瑠汰はそっとリボンを撫でる。
「これつけてたら寂しくないだろ」
「なるほど」
「って! さっきからアタシは何を言ってるんだ!?」
「知らねえよ。ってか遅えよ!」
「き、君がガチで口説いてくるからだろ!? 昼間からやめて欲しいんだわ」
「……」
急にいつものノリに戻った。
相変わらずどういう思考回路が起こっているのかわからないが、まぁこっちの方がやりやすい。
苦笑しつつ、俺は促す。
「つけてみろよ」
「あ、そうだな」
と、瑠汰がスマホの内カメを起動して髪をまとめ始めた時、バーンと扉が開け放たれた。
「待たれよ! 巨乳姫!」
「な、なんだそのあだ名!? 恥ずかしいからやめて欲しいんだが!?」
「ほいこれ」
瑠汰の涙目の懇願を無視し、与田さんは買い物袋を手渡す。
「これは……?」
「私からのプレゼント。とりあえず、色々かき回したのは事実だし謝罪料って事でね。あ、別に私の誕生日が来週だから誕プレ催促してるとか、そういうわけじゃないですよ?」
手を揉み揉みしながら瑠汰に近づく与田さん。
催促しまくってるじゃないか。
渡された袋を開ける瑠汰。
散々俺と渡辺君が知りたがっていた袋の中から出てきたのは。
「て、手鏡?」
「そ。いっつも着替えの時とか髪結び直すのに一々内カメ使ってたでしょ? だからあげる。それこそヘアアクセと一緒に使ってね」
「ほんとに……ありがと。ありがとうっ!」
「いいよいいよマジかわだよ瑠汰ちん。良い匂いするし」
「あ、ちょっと匂い嗅ぐのやめろ! 胸に顔をうずめるな! でも嬉しい!」
情緒のおかしい瑠汰と、その様を眺めている俺を見て与田さんはうーんと唸る。
そして。
「なんか仲良さそうだね。もっと修羅場るかと思ってたのに」
「思ったより俺達の愛が深かったんだな」
「なんかウザい。あ、でもそうだ。ウザいついでに、万が一のために撮ってた三咲君の彼女愛を本人に見てもらお」
「は?」
今なんて言ったんだこいつ。
おもむろにバッグからスマホを取り出す与田さん。
彼女はそのまま瑠汰に動画を見せた。
しばらくして音声が聞こえる。
『そっちが良いの? 若干派手だけど』
『あいつって碧眼だし、青と赤だとコントラストが綺麗に映えるんじゃないかって』
『なるほど。コントラストね……あは』
『笑うな!』
先程の与田さんとの会話内容が再生され、一気に顔から火が出そうになった。
盗撮してたってのか!?
その後も渡辺君の映像もとらえていたし、二人きりデートではなかった証拠映像にもなっている。
マジで用意周到過ぎるだろこの女。
「どう? 瑠汰ちん」
「……」
ふと見ると、瑠汰は俯いて黙りこくっている。
と、その表情は真っ赤に染まっていた。
「あっはは。めちゃくちゃ愛されてるね。よかったね?」
「う、うっさいし」
「わざわざ瑠汰ちんの容姿の特徴とかまで考えて選んでくれてたんだって~」
「い、一々報告してくんなしっ!」
「……こういう遊び方もいいね」
やはりボソッと恐ろしい事を言う与田さん。
俺と瑠汰はそれからしばらく羞恥に悶えた。
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