第83話 死ぬまでつけるからなっ

 誰かと一緒に瑠汰の家を訪れるのは初めてだ。

 そもそも転校して間もなく、さらに友達の少ない瑠汰の家を訪ねる奴なんていないから当然だが、なんだかおかしな気分になる。

 そういえば体育祭終わりの打ち上げで萌夏と一緒に泊まったが、あの時も別々に家へ行ったからな。

 まったく、双子の妹なんて面倒である。


「瑠汰ちんって一人っ子で一人暮らしなんでしょ? 羨まし~」


 隣を歩く与田さんは目を輝かせて呟く。

 確かに、高校生で一人暮らしとか贅沢だよな。


「与田さんは兄弟とかいるのか?」

「弟が二人いるよ~。どっちもまだ小学生! 上の子は一緒にお風呂入るの嫌がり始めちゃった」

「……あっそう」

「三咲君は?」

「俺はふた――妹が一人いる」

「なんて言いかけたの? ふたって聞こえたけど」

「ふたご座の妹なんだよ、ははは」

「変わった紹介するね」


 何とか誤魔化せて額の汗を拭う俺。

 ちなみに俺も萌夏も同じく七夕生まれなため、かに座である。

 と、彼女は食い付いてきた。


「どんな感じ? 可愛い?」

「それは容姿がって意味か? 性格がって意味か?」

「両方」

「まぁ、嫌味な奴だよ」

「どっちなのそれ。ってか嫌味な妹とか想像つかない」


 スマホを弄りだした与田さんは興味を失ったらしい。

 想像つかないとは面白い話だ。

 だってあなた、俺の妹と友達なんですのよ。


 ちなみに妹がいると宣言するのは俺達双子のルール違反ではない。

 むしろ不自然な言い訳を積み重ねるくらいなら、本当の事を混ぜた方がマシだってわけだ。

 どのみち異性の双子なんてSSレアだからな。

 バレっこない。


 なんて話しているうちにマンションに着いた。

 階段をのぼり、最奥の部屋前に立つ。

 誰かと一緒に来るのは初めてなため、少し緊張した。

 そもそもどうやって説明すればいいんだこの状況。

 浮気だと勘違いされる未来が容易に想像できる……

 と、一人悩むが悲しいかな。


「えい」

「おい!」


 人が考えている横で勝手にピンポンを押しやがったこの女!

 慌てふためく俺に、無情にも開く扉。

 そして中から顔を出す最高に可愛い俺の彼女。


「鋭登っ!? え、なんで!?」

「いや……」


 瑠汰は目を輝かせて出迎えてくれた。

 しかし、すぐに俺の隣に人の姿を確認して絶句する。


「こ、これは……まさか別れを告げに来た、のか?」

「そ、そんなわけないだろ!」

「じゃあなに……?」


 一気に青ざめていく瑠汰に、与田さんが先ほどの買い物袋を見せて口を開く。


「まぁまぁ、おかしなことにはなってないから安心してよ! ってかプレゼントあるから入れてくれない?」


 にこやかな与田さんと戦慄する瑠汰。

 凄みのある雰囲気のまま、俺達はセカンドステージに足を進めた。



 ◇



「へぇー。すっごい部屋だね! ゲームいっぱい」

「ま、まぁな。凄いだろ?」

「うわ、カッコいいPCだね。でもなんで二個あるの?」

「あぁそれは……って違うだろ!」


 なんと綺麗なノリツッコミ。

 休日でも変わらない艶感を保つツインテールに見惚れていると、瑠汰は俺をジト目で見つめてくる。


「これはどういう状況なんだよっ!」

「あ、あぁ。さっきまで一緒に買い物行ってたんだ」

「二人で!? デートじゃん!」

「違うぞ! 渡辺君も一緒に居たんだ。なぁ?」

「そうだよ~。そもそもこの男の眼中には瑠汰ちんしかいないし」

「そ、そっか……そうだよな。えへへ」


 すぐに機嫌を戻す瑠汰。

 毎日メッセージや通話でやり取りしていた積み重ねが生きたか。

 俺達の信頼はちょっとやそっとじゃ揺るがないよな、うん。


「で、何買ってたの?」


 瑠汰に持っていた袋を覗き込まれ、俺は覚悟を決める。

 女子にプレゼントを渡すのなんか初めてだし、それも一応アクセサリーだ。

 ヤバい、めっちゃ緊張してきた……


「あの、これ」

「え? くれるの?」

「お前にその……サプライズプレゼントってやつ」

「ッ! ……見ていい?」

「……どうぞ」


 袋から中身を取り出す瑠汰。

 彼女はすぐに中身に気付いたように、ハッと固まった。


「これ、アタシに……?」

「当たり前だろ。……あ、嫌だったか?」

「そんなわけないだろ!」


 瑠汰は立ち上がって叫ぶ。

 と、すぐに恥ずかしくなったのか顔を赤らめて座った。


「この前の帰り道で話した通り、俺はお前みたいな超可愛い女子はおしゃれなリボンとかつけてた方が似合うと思うからさ。余計なお世話かもしれないけど、嫌じゃないなら休日とか使ってくれよ。瑠汰に合いそうなのを選んだつもりだから」

「……ひぃぅ」

「え?」

「き、君はアタシを殺す気なのか? こんなに、こんなに……」


 プレゼントを胸に抱えて黙ってしまう瑠汰。

 そっと背後で与田さんが部屋から出て行くのが分かった。


 瑠汰はさらに梱包を外し、ヘアリボンを取り出す。

 そして自分がつけていたヘアゴムを並べて苦笑した。


「ありがとう。大切にする」

「おう……」

「死ぬまでつけるからなっ」

「……流石によぼよぼの婆さんの白髪頭には似合わないだろ」

「うっさい。馬鹿。……えへへ」


 まぁなんだ。

 喜んでもらえて、俺も涙が出てきそうだ。

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