第82話 即配達
※昨日の更新の際に操作ミスがありました。
もしかすると前の話の更新通知が届いていない可能性があるので、この話を読む前に確認いただけると幸いです。
お手数おかけして申し訳ありません!
◇
買い物を終え、三人で店を出る。
一店舗目で済ませたためまだ時間もかなり余裕があった。
伸びをする与田さんに俺は尋ねる。
「今からどうするんだ?」
「どうするって、一つしかないでしょ」
「え?」
「渡しに行くんだよそれを」
今さっき買ったプレゼントに目を落とした。
もう届けに行くのか?
まぁ確かに、いつまでも俺が持っているのも変だが。
部屋なんかに置いてたら萌夏に何か言われそうだし、渡すなら早い方が良いな。
「何のために早くに集まったと思ってるの。買い物終わったら即行で渡す」
「はい」
説教じみたトーンで話す与田さんに俺は尻込みしてしまった。
と、与田さんは苦笑する。
「で、こんな事言ったすぐになんだけどちょっと待っててくれない? すぐ終わるから」
「あぁ……」
与田さんはそのまま向かいに見える雑貨屋へ突っ走った。
◇
帰りの電車で小さな買い物袋を持つ与田さんに聞く。
「何買ったんだ?」
「あらあら、女子の買い物に興味あるの?」
「……その言い方やめてください」
「え~?」
ケラケラ笑う与田さんに渡辺君も首を傾げた。
「マジで何買ったんだよ。気になってきたわ」
「えへへ。ただのプレゼントだよ」
「誰に?」
「ん? な~いしょ」
含みのある顔をする与田さん。
俺はそれを見て少しぞくっとした。
この人は何を考えているかが分かりにくいから、こういう顔をされると何を企んでいるのか怖くなるのだ。
田舎方面への電車だからか、意外と人が少ない。
空席の目立つ車内をきょろきょろ見ていると、渡辺君が俺に何かを渡して言った。
「これやるよ」
「なんだこれ……あ」
そこにあったのは二枚のチケット。
県内の遊園地の割引チケットだった。
「え? なんでこれ……」
「妹まだ小学生でさ。夏休み前に学校でもらってたんだよ」
「そういうことか」
「オレの妹はあんま外出たがらないし、友達もいないからいらないらしくってさ。で、オレも行く予定ないからあげるわ。期限今年までだし」
「マジ?」
「マジだよ。可愛い瑠汰ちゃんと一緒に行ってきな」
爽やかな笑顔で笑いかけてくる渡辺君の顔が輝いて見えてきた。
神はここにいたのか。
「本当にありがとう」
「おう。今度ジュースでも奢れよ?」
「二リットルペットボトルを二十本くらい送ります」
「嫌がらせだろそれ」
そんな事を言いながら二人で笑い合う。
それにしてもグッドタイミングだな。
この前カラオケに行って以降、近々俺からデートに誘いたいとは思っていた。
ちゃんとしたデートスポットに行きたいと。
ただ、機会もなければどこに行くのが一番二人で楽しめるかなんて思いつかなかった。
俺達は基本的にインドアだし、仕方のない事だ。
だがしかしッ!
遊園地なら絶対楽しめる。
そしてこれ以上ないリア充の聖地。
人生初のガチデートを堪能できるに違いない。
「じゃ、オレここで降りるから」
「ばいば~い」
「マジでありがとう!」
「ういうい」
手を振りながら降りていく渡辺君。
イケメン過ぎる。
彼の去って行く後ろ姿に熱い視線を送り続けていると、与田さんが苦笑した。
「絶対噓だよあれ。大方一緒に行く予定だった女の子に断られたんでしょ」
「……」
「あっはは」
一瞬で夢をぶち壊された。
ため息を吐くと、与田さんは照れ笑いを浮かべる。
「っていうか、この状況って休日デートみたいだね」
「ッ!?」
「反応し過ぎ~。彼女持ちに興味ないし」
「……冗談でもやめろ」
「気にしなくても本気で邪魔する気はないって。私、瑠汰ちんには幸せになって欲しいからさ」
「俺は?」
「別にどうでもいいけど」
「おい!」
そこは俺の幸せも願ってくれよ。
「今回のプレゼントの件は私なりの罪滅ぼしなんだよ。結果的に瑠汰ちんの乙女心をかき回しちゃったわけだし」
「別に本気で与田さんの事を気にはしてないだろ。ただ寂しいだけじゃないかな。だからそれは俺が埋めてあげようと、毎日通話とか一緒に遊んだりしてる」
「本当にむかつくくらいカップルしてるね」
「はぁ?」
よくわからない怒りに当てられ、困惑する。
俺達は同じ最寄り駅に降りると、そのまま歩きながら話した。
「はぁ~。ってか渡辺が消えたのは予想外だね。二人で行ったらまたおかしな疑いを掛けられそう」
「与田さんも来るのか?」
「勿論。用事あるし」
「用事……?」
彼女の言葉に引っかかりつつ、瑠汰の家に向かう。
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