第81話 彼女に似合うもの
というわけで迎えた土曜の午後一時。
妹に鼻で笑われながら着替えを済ませて、電車で揺られてやってきた隣町駅前のモール。
集合場所に着くと、そこには私服姿の与田さんと。
「わ、渡辺君?」
「よう。三咲君」
帽子をかぶったサッカー部の渡辺君が立っていた。
目を点にして突っ立っていると、与田さんが補足してくれる。
「ほら、二人きりじゃマズいから」
「それで渡辺君か……」
「オレは妹にヘアクリップ買って来いって言われててさ。丁度よかったよ。サンキュー」
「お、おう」
軽く肩を叩かれ、変な声が出る。
男とこんな近い距離間で話したの、いつぶりだろう。
そもそも学校外で会うのなんて久々もいいとこだ。
もはや最近では女子(彼女)としか会ってなかった気もする。
「じゃ、まずは片っ端から当たってくぞ~」
「おー」
「よっしゃー」
与田さんの掛け声に、俺達は気の抜けた声を上げながら進んだ。
◇
「どんなの買う予定なの?」
「うーん。リボンみたいなのが可愛いんじゃないかと思うけど」
正直女子の髪型なんてよくわからない。
俺が知っているのは二次元、アニメやラノベのキャラ、それにVtuberのキャラデザくらいだ。
まぁ幸い瑠汰の髪型はツインテール。
俺はいくつかスマホでツインテールキャラをピックアップして見せる。
「なるほどね~。確かに似合うだろうね」
「だよな」
「でもこれイラストじゃん」
「……」
ジト目を向けられ、俺は肩を竦めた。
一番近くにあったヘアアクセ店に入ったのだが、既に渡辺君はどこかへ消えてしまっている。
これなら一緒に来た意味がない。
「うーん。デザインは派手じゃない方が学校でもつけられるよね~」
「でもあいつ、多分学校じゃつけたがらないと思う」
この前も目を付けられるがなんたらと言っていたし。
しかし俺の言葉に、与田さんは笑う。
「瑠汰ちんって案外控えめだよね。胸は主張しまくりなくせに」
「……いつもその話題にもっていかないと気が済まないのか?」
「あ、これなんていいんじゃない?」
俺のツッコミを華麗にスルーし、瑠汰が今つけているのと同じような色合いの細いリボン付きヘアゴムを手に取る与田さん。
よく見ると薄っすらチェック柄の模様がある。
「これなら今のと色合いも変わらないし、可愛いし」
「なるほど。あ」
その商品の横に同じ柄の赤いリボンを見つけた。
「そっちが良いの? 若干派手だけど」
「あいつって碧眼だし、青と赤だとコントラストが綺麗に映えるんじゃないかって」
「なるほど。コントラストね……あは」
「笑うな!」
人がせっかく不慣れな横文字を使ったのに!
二人でわちゃわちゃやっていると、渡辺君が帰ってくる。
「どこ行ってたんだ?」
「あー。こっちはどうせ家で使うだけだろうし、一人で無印行ってた」
「……そうか」
「良いの見つかった?」
「あぁ、これなんだけど」
「お、いいじゃん。ってか瑠汰ちゃんなら何つけても似合うっしょ」
「そだよね。韓国の時代劇ドラマに出てくる王妃みたいな髪飾りでもいいと思う」
バカでかく煌びやかな髪飾りをつけた瑠汰を想像する。
王宮の一室で重そうな着物を纏い、王と相対する彼女。
そのまま瑠汰は薄明かりの下、頬を赤らめて言うのだ。
『べ、べべべ別に世継ぎが欲しいわけじゃないんだが? ただちょっと一緒になりたいっていうか……いや違くて!』
うん。いいね。
想像すると意外に萌えた。
品性の欠片もないが最高だ。
なお、その王様が俺であるなら良し。
ヤバい、ちょっと興奮してきた。
「おーい。三咲君」
「ハッ!」
どこか遠くに飛んでいた俺の意識を与田さんが呼び戻してくれる。
「まぁこれにするんならいいと思うよ。デザインはシンプルだから学校でもつけれるし、そうじゃなくても可愛いから」
「そ、そうだな」
「うん。ってか今何考えてたの?」
「な、なんでもない!」
邪念を振り払うように首を大きく振ると、二人からニヤニヤ笑われた。
恥ずかしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます