第71話 地獄の席替え

 迎えた翌週月曜朝。


 ちょっと照れ笑いを浮かべる隣の瑠汰と、ぎこちない笑みを浮かべながら挨拶を交わす。

 互いに昨日の記憶が鮮明に残っているため、恥ずかしさが残っているのだ。

 好き好き言い合ったり、手を繋いだり、そしてあの胸に初めて触れたり。

 まぁ日を置いた今日恥ずかしくなるのは当然と言って良いだろう。


 そんなわけで、今日からも同じクラス、そして隣の席でイチャイチャできるのかと喜びに浸っていた。

 しかし。


「席替えしまーす」


 無情な担任の声によって、俺達の甘々お隣ライフは終了を告げられた。


 教室各地からブーイング、歓喜の声が上がる。

 席替えってのはそういうもんだから仕方ない。


「仕方、ないよな……」

「寂しくなるな」

「あ、アタシは君がいなくても平気だし」

「そうか。俺は嫌だけど」

「ッ! ぅぅぅ」


 隣で頭を机に叩きつける彼女はいつも通りだ。

 これがいつも通りというのは、人間として色々欠如している気もするが。


「ほら、おでこ赤くなってるぞ。顔も全体的に赤いし」

「君のせいだろうが!」

「はぁ?」


 なんだこいつ。


 とかなんとかやっている間にも準備は進められていく。

 学級委員長によって黒板に机配置が書かれ、くじを先生が広げる。

 順にクラスメイト達がくじを引いていった。


 自分の番が来たので教卓へ向かう。

 引いた番号を伝えると、中野さんが素早く書き入れた。


 二回連続で隣の席を引く可能性というのは、意外とある。

 小中高と何十もの席替えを体験したが、経験はあった。

 あとは願うだけだ。

 すると。


「あ、私の隣三咲君だー。よろしく~」

「よ、与田さん」


 数少ない知人を引いた。



 ◇



 クラスメイト、俺を覗いて四十一人。

 そのうち話せる程度に仲が良いのは文化祭グループの五人。

 与田さんが隣なのは運が良かったのだろう。


「よろ~」

「よろしく」

「あははっ。なんかおもろい」

「はぁ?」


 挨拶するだけで笑いを取れる。

 実は俺、とんだチートスキル持ちだったらしい。

 転生したらお笑い芸人とかが適正ジョブかしら。

 お茶の間無双くる? 三咲鋭登の成り上がり英雄譚きちゃう?


 脳内でふざけた事を考えながら荷物を整理していると、与田さんが含みのある笑みを向けてくる。


「愛されてますね~相変わらず」

「……そうだな」

「そうだなって。マジウケるんだけど」


 俺達がいるのは教室中央最後尾という、如何にも陽キャが集まりそうな位置。

 しかし教室前方から射殺すような視線が突き刺さる。


 そこにいるのは黒髪巨乳の瑠汰。

 彼女は最前列窓際という、かなり遠くの席に追いやられてしまったのだ。

 今まで横を向けばあいつの笑顔を見れたため、この状況は結構寂しい。

 なんて思っていると。


「あ、髪の毛に埃ついてるよ」

「おう」

「あぁいいよいいよ。取ってあげる」

「ちょ、いいって。自分で取るから!」


 与田さんが少し体を寄せてくるのを、俺は静止する。

 しかし時すでに遅し。

 その瞬間、俺の彼女の闇オーラが爆発した。

 もとい泣きそうな顔を向けられた。


「……心配しなくても触れないよ?」

「……」


 意味ありげな顔を見せる与田さん。

 そして彼女はそのままボソッと呟く。


「また遊べそうかも」

「ッ!」


 難聴だ何だと言われる俺にも、今のは正確に聞き取れた。

 ヤバい、怖いよこの人。


「じゃ、改めてよろしくね」

「さっきの聞こえたからな! 俺はよろしくしたくないんだけど!」

「いやー三咲君えっちだね! ……言い方が」

「最後だけボソッと言うな!」


 これじゃまるで俺がいかがわしい事をしたみたいじゃないか。

 当然クラス中から視線が向く。

 そして瑠汰からも。

 と思ったが、彼女は既にショートしたのか机に突っ伏して死んでいた。


「ありゃ、やり過ぎたね」

「……」

「気にしなくても三咲君になんて毛ほどの興味もないから大丈夫だよ。瑠汰ちんの奇行が見たいだけ」

「……」


 うちのクラスの席替えは一ヶ月から二ヶ月おき。

 高頻度とは言え、逆に考えると最低一月は与田さんの隣にいなければいけないという事。


「あ、修学旅行の相談とかもしやすいね」

「……それもあったのか」


 どうしよう、ロクな事が起こる気がしないんだが。


 彼女との楽しいデート明けは、地獄の始まりだった。

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