第69話 初めてのおさわり(大きめ)

「でも、アタシが気になってるのはそれじゃない」


 幸せを噛みしめて呆けていると、瑠汰は少し頬を膨らませてくる。


「な、なんだよ」

「萌夏ちゃんの方」

「あ」


 そういえば、誤解の解決が為されていないままだった。

 ここは妹のためにも、真実を伝えなければ。


「べ、別にやましいことはないぞ」

「おっぱい触ったのに?」

「お、おっぱって言うな。直接表現はやめろ」

「なんで?」

「いや……」


 グッと前のめりに距離を縮めてくる瑠汰。

 若干胸元の緩い白のノースリーブからは、柔らかそうな谷間が丸見えなのだ。

 俺は足を組んで座りなおす。


「ほんとに、ただ喧嘩したら当たっただけで」

「ラッキースケベだな」

「どこがだ。走馬灯が見えたぞ」

「ふぅん?」


 まだ納得していないのか、上目遣いに見てくる瑠汰。

 やめて欲しい。

 これ以上そんな可愛い顔を向けないで欲しい。


 タバコの匂いが若干染みついた、大人の匂いに暗めの照明。

 まるで舞台は整ったと言わんばかりのシチュエーションに、頭がクラクラしてきた。


「で、どうだった?」

「は?」

「感触とかあるだろ」

「……」


 何を聞いてるんだこいつ。

 意味が分からないので眉が寄るのが分かった。

 しかし、よく見ると瑠汰の顔には意地の悪い笑みが。

 嘘だろこいつ。

 わざとかっ。わざと際どい話題を出して俺の理性を飛ばそうとしているな!?


「えへへ」


 つい見惚れていると、照れ笑いを浮かべられた。


 マジで何なんだ一体。

 俺がもしここで理性を失って襲ったらどうする気なんだよ。


 カラオケで性的な行為に及ぶのは普通に法律違反だ。

 つまりここでこの超絶可愛い彼女を襲えば、俺は色々なモノを失う。

 実際に監視カメラが付いている店舗は少ないだろうが、だからと言って許される行為ではない。

 って何考えてんだ俺!


「な、何か歌おうぜ!」

「待って」


 ムードを変えようとタブレットに手を伸ばす俺の手を掴む瑠汰。

 彼女の顔には先ほどまでの余裕がなかった。

 え、え……?


 俺が困惑しているのを他所に、瑠汰はゆっくり俺の手を引っ張る。


「ん」

「……あ」


 彼女によって引き寄せられた俺の右手は、夢にまで見たモノに触れた。

 瑠汰の白いシャツの上から、それに手をゆっくり乗せる。

 圧倒的弾力、指が沈む感覚、そして何より彼女が身に着けている下着の材質がバッチリわかった。

 先日俺が触ったのはただの胸だったのだと悟る。

 今触れたのは紛う事なきおっぱい。

 その差は歴然だ。全くの別物だった。


「ッ!」


 事態を理解しようと目の前の瑠汰を見ると、真っ赤な顔で急に突き飛ばされた。

 勢い余って後ろの壁に後頭部をぶつけるが、痛みは感じない。

 全神経が右腕にだけ集中している。


「あ、あ……」

「……」

「いやその――」

「飲み物持ってきましたー」

「ひゃいっ!?」


 唐突に部屋の扉を開けられ、飛び跳ねる瑠汰。

 店員はそんな様子に首を傾げながら、乳酸菌飲料とレモンソーダを置いて行く。


「あ、あはは」

「ッ!」


 雰囲気を一度区切られたため、逆に俺の意識が戻ってきた。

 今何した!?


「お前、今……」

「いや、その……上書き保存?」

「なんだそれ!」


 苦笑する瑠汰に立ち上がって詰め寄ろうとして、そんなことできる状態じゃないことに気付く。

 そんな自分に対して恥ずかしさやら照れやらが巻き起こった。

 もうなにがなんだかわからん。


「ごめん……嫌だった、よな?」

「ッ!?」


 黙って頭を冷やしていると、何を勘違いしたのか瑠汰は下を向いてしまう。

 くそ……!


「嫌なわけないだろ! 最高だったよ!」

「さ、最高!?」

「めちゃくちゃ柔らかったし、でk――」

「か、感想はやめろぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 俺の声に負けじと声を張り上げる彼女。

 本来近所迷惑も良いところだが、流石はカラオケか。

 どれだけ叫んでも何も問題はない。


「あ、あのさ」

「どうした?」


 大声を出したおかげで少し頭がはっきりしてきた。

 しかしそんな男子高生の平穏な心を一瞬で破壊する碧眼巨乳。


「萌夏ちゃんのとどっちがよかった?」

「ッ!」


 萌夏、わかったよ。

 確かにこいつは生意気だ!

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