第66話 彼女か妹か
「も~、探したんだよ?」
可愛い子ぶった声で話しながらやって来る萌夏。
しかし彼女は俺と瑠汰の姿に加え、泣いている少女を見てすぐにフリーズした。
「え、いじめ……?」
「人聞きの悪い事言うな!」
「だって、その子中学生でしょ……って。まさか」
「……ぐすっ。あれ? 萌夏ちゃん?」
「……」
顔を伏せて泣いていたし、一瞬じゃ気付かなかったらしい。
しかし、顔を上げた夢乃には流石に覚えがあったようで、萌夏はただでさえ大きな目を真ん丸に見開いた。
「ゆめ、の?」
「……ぐすっ」
「……どういうことなの、これ」
泣きじゃくる夢乃から視線をずらし、完全オフモードで俺を睨みつけてくる。
「いや、これには事情があってだな」
俺はとりあえず彼女が泣いている理由を説明した。
他人の失恋話を勝手に言うのは少し気が引けたが、仕方がない。
夢乃に好きだと言われたが、瑠汰と付き合っていることを言ったため、こうしてショックを受けて泣いていると正確に伝えた。
「……修羅場」
「他人事だな」
「私にはこんな男を好きになる女の脳構造なんてわかんないもん」
「……」
相変わらず俺に対して口が悪い奴だ。
さらに、瑠汰と夢乃に対しても棘がある。
しかし、夢乃が顔を上げた。
「……嘘つきだよぉ」
「え?」
「萌夏ちゃん、鋭登君の事大好きだったじゃん! いっつもわたしが鋭登君に近づくと嫉妬してたくせに!」
「なッ!?」
突然の告白に声を上げる萌夏。
「え、そうなのか?」
「違うに決まってるでしょキモすぎ! 夢乃、ふざけた事言わないで!」
「ふざけてないもん! 絶対萌夏ちゃん鋭登君の事好きじゃん! 今日だって一緒にステージになんか立っちゃって!」
「そ、それは鋭登が勝手に……」
「本当に嫌いなら自分から辞退すればよかったじゃん。双子の兄が同伴なのに一緒に出演って、もはやブラコンだよ!」
「ぶら……こん?」
「そうブラコン!」
膝から崩れ落ちる萌夏。
よほどショックなのか、一撃で力尽きてしまった。
この反応だけでもこいつが俺の事を大嫌いだという証拠にしか思えないのだが。
でも確かに、普通本当に嫌なら辞退するか。
こいつなら周りを不審に思わせずに断る理由だって即興で作れるはずだ。
もしかして、本当に俺の事好きなの?
「こっち見ないでマジで」
「……ごめんなさい」
どう見ても俺の事嫌いじゃねえか。
ため息を吐きつつ前を見ると、ニヤニヤした瑠汰がいた。
「なんで笑ってるんだよ」
「べ、べっつに~? 萌夏ちゃん可愛いなって」
「ッ! そのツインテールむしり取ってやる」
「トレードマークなのに!?」
またも喧嘩を始める萌夏と瑠汰。
今日のこいつらは仲が悪いな。
と、そんな事を呑気に思っていると、少し落ち着いた夢乃が口を開いた。
「二人とも、おんなじ高校に通ってたんだね」
「……そうだね」
「変なの。中三の頃あんなに仲悪かったのに」
中三の頃、俺と萌夏は人生で一番仲が悪かった。
学校で会話しなければ、家でも会話しないのが毎日。
「周りのみんなに何か言われないの? 双子なのに」
「「……」」
俺と萌夏は顔を見合わせる。
そんな反応に夢乃は眉を顰めた。
「まさか、隠してるの?」
「そのまさかだな」
「そんな! もう二年生なのにバレてないの!?」
「スペック差が違い過ぎて気にもされてないぞ」
「そもそも鋭登はつい最近まで知り合いすらいなかったし」
「えぇ!?」
夢乃は驚いたように声を上げる。
まぁ普通に考えたら異常だよな。
双子が同学年にいながら、関係を隠し続けるというのは謎だし、そもそも不可能に近い。
しかし、舐めてはいけない。
俺達は並の双子ではないのだ。
世界で最もスペック差があるだろうと言って過言ではない双子だ。
ある意味二卵性双生児界に名を残すだろう逸材だからな。
「なんで、隠すの?」
「こんなのと双子とか知られたら終わるじゃん。せっかく私が積み重ねてきた人間関係がぶち壊される」
「……大好きなのに?」
「もっと泣かせるよ?」
「……でもでも、それならなんで今日は一緒にステージに上がってたの?」
「……」
萌夏は黙り込んだ。
何を考えているのかはわからないが、眉間に手を当てて悩んでいる。
「そこの、かの、彼女の変な人は二人の関係知ってるんですよね?」
「……もちろん知ってるぞ。変な人じゃないけどなっ!」
「ふぅん」
表情を引きつらせる瑠汰には興味を示さず、夢乃は萌夏を見る。
そして。
「じゃあわたしが今日いたらまずかったんだ? 二人の関係を知ってる人間が光南高校関係者に居たら気が気じゃないもんね?」
「ッ!?」
いつにも増して低いトーンで恐ろしい事を言う夢乃。
「ば、バラさないで……」
「勿論だよ。条件飲んでくれるなら」
夢乃は俺を向く。
「鋭登君がわたしと付き合ってくれたら、黙っててもいいよ?」
「え」
挑発的な顔で俺を上目遣いに見つめる女子中学生。
泣いていたせいで真っ赤な瞳は、狂気を感じさせる。
俺が狼狽えると、目の前の瑠汰が絶句するのが分かった。
ヤバい、どうするんだこれ。
沈黙が流れる空間。
ごくりと俺がつばを飲み込む音が響く。
すると、唐突に夢乃が噴き出した。
「なーんて。嘘に決まってるじゃん! 人の幸せを崩す趣味はないし! 特に仲良しな二人の幼馴染の幸せはね。心配しなくても喋らないもん!」
いつものノリに戻った彼女に、三人がほっと胸を撫で下ろした。
「でもさ」
夢乃は真面目に続ける。
「もし本当にわたしがそんな条件出したら、どうする気だったの?」
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