第60話 作戦会議

「でも安心したわ」


 先生はふっとクールな笑みを浮かべた。


「二人とも、仲が悪いのかと思っていたから。案外仲良しなのね」

「「今のやり取りの何を見たらそうなるんですか?」」

「息もピッタリじゃない」

「「……」」


 無言でにらみ合う俺と萌夏。


「タイミングを被せてこないでキモいから」

「お前が合わせてきたんだろ」

「はぁ? なんであんたみたいなのに私が合わせてあげないといけないの?」

「うるせえな」


 なんでこう、こいつは他人をイラつかせるのがこんなにも上手いのか。

 すると、瑠汰が呟く。


「でも萌夏ちゃん、鋭登の事だいs――け!」

「だいすけ?」


 頭の中でサングラスの男がビートに合わせて踊る光景が浮かぶ。

 急にどうしたんだろうか。


 しかしよく見ると、萌夏が物凄い目つきで瑠汰を睨んでいるのが分かった。

 俺を挟んで熾烈な争いが繰り広げられている。


「ご、ごめん」

「次何か言おうとしたら容赦なくぶっ殺すから」

「ひ」


 短い悲鳴を上げて俯く瑠汰。

 怖いのかプルプルとツインテールが揺れていて可愛い。

 何を言おうとしたんだろうな。


「DAISUKEって奴が好きなのか?」


 なんとなくそう聞いてみると、萌夏に鼻で笑われた。


「あんたが死ぬほど鈍くて助かったよ」

「はぁ?」


 どんな悪口なんだそれは。

 首を傾げていると、金木先生が呟いた。


「朱坂さん、よく三咲君と付き合えたね」

「……あは、あはは」


 もういいや。

 女性の考えというのは俺には理解できないのだろう。

 難しいことは考えるな。よし。


「とりあえず聞いておくけど、双子の事は……」

「「黙っていてください」」

「はいはい」


 またもや声がかぶったが、今度はお互いに嫌な気はしない。

 相思相悪であることが確かめられただけだからな。

 嫌な笑みを向け合うだけだ。


「はぁ……」


 用の済んだ部屋に先生のため息だけが残った。



 ◇



 その週末、作戦会議ということで瑠汰は俺の家に来ていた。

 しかし、前回うちに来た時とは違う部屋にいる。

 今日は萌夏の部屋に集まっているのだ。


「へぇーマジで部屋の中身はアタシそっくりだな」

「ッ!」

「あ、この漫画持ってる。このラノベも持ってる」

「……」


 部屋をジロジロと物色する瑠汰を他所に、萌夏は俺を睨みつけてくる。


「あんたが余計な事言うから」

「言ったのは俺じゃなくて瑠汰だろ」

「同調してたじゃん」


 本来は俺の部屋に入ろうとしていた萌夏。

 しかしそんな彼女に瑠汰が言ったのだ。

『アタシ萌夏ちゃんの部屋見てみたい』と。


 最初は渋っていた萌夏だったが、俺が瑠汰の家に入った事あるんだからいいだろと言ったところ、折れたというわけである。

 実際俺の部屋ばかり荒らされても迷惑だしな。


「このクローゼットの中にえっちなのが入ってたりするのか?」

「瑠汰と一緒にしないで」

「なッ! 言いがかりはやめろ!」

「どうだか」


 冷めた表情でベッドに座る萌夏。

 それを見て部屋にある椅子に腰を下ろす瑠汰。


「あ、お尻痛い……」

「……」

「べ、別に馬鹿にしたわけじゃないからな?」

「……」


 クッションのヘタレた椅子に文句をこぼすも、萌夏の圧に黙らされる。

 と、部屋を見渡して俺はため息を吐いた。

 やはり俺の席は地べただけらしい。


「じゃあ作戦会議するか」

「まずはえーぺっくすで勝負だな!」

「いや、すまぶらで勝負」

「……作戦会議するんじゃなかったのか?」


 いそいそとバッグからコントローラーを引っ張り出す瑠汰と、モニターをつける萌夏にそう聞くが、二人は何を言ってるのと言わんばかりに言う。


「別にゲームしながらでも出来るだろっ!」

「それにどうせテキトーに学校説明とかすればいいだけだし、特に話すこともないじゃん」

「なんの集まりなんだこれ……」


 土曜の昼間にあえて集まった意味が全く分からない。


「今日こそリベンジするから」

「できるものならやってみなさい。うひょひょひょ……」

「ほんとキモい」


 もはや俺と同じ扱いにランクダウンしていた瑠汰。

 ただまぁ、うひょひょひょはないよな。


 そんな感じで二人の残念JKは俺を放置してゲームに勤しむのであった。

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