第58話 初めてのおさわり(小さめ)

「あんたって私のこと好きなの?」

「キモい事言ってくんなよ」

「言わせてるキモい奴は誰?」

「……」


 お決まりとなった定例会in俺の部屋。

 いつものように平気で侵入してきた妹に俺はベッドを占拠されていた。


「体験入学のスピーチで私と瑠汰が代表として挨拶するっていうのはまだわかるよ。でもさ、なんであんたもいるの?」

「……まぁ色々と事情が」

「わかってる。どうせ瑠汰にお願いされたとか、与田に煽られたとかでしょ?」

「お見通しだな。流石双子ってか」

「そう、腐ってもね。腐れ縁の最終形態」


 やはり一言余計な嫌味を添えなければ気が済まないらしい妹。

 彼女はため息を吐くとベッドに転がる。


「寝転がるな。髪の毛が落ちるだろ」

「うるさいな」

「ってか男のベッドでよく寝れるな。汚いとか思わないのかよ」

「……なんかそう言われると嫌な気がしてきた」

「おい」


 妹はそのままベッドから降りると、俺が座っていた椅子に座ろうとしてくる。

 邪悪な椅子取りゲームだ。

 あっさりと席を奪われてベッドに追いやられる俺氏、惨めなり。


「あーあ。でもまさか、学校の顔になるような場所に兄が出てくる日が来るとは」

「そういえば……そうか」


 改めて考えると結構な大ごとな気がしてきた。

 うちの高校の倍率が約二倍だから、五百人近くの前に立たないといけないのか。

 緊張してきた。


 と、何故か正面で笑っている萌夏。


「どうした?」

「え、なにが?」

「いや、嬉しそうな顔してたから」


 兄が自分のテリトリーに侵入してきて嫌がる妹の表情ではなかった。

 指摘すると彼女は顔を赤くして俯く。

 しかしすぐに表情を入れ替え、睨みつけてきた。


「嬉しくないし」

「まぁそうだよな」

「マジ最悪だよ。昨日の公開告白のせいであんたの知名度増しちゃったし」

「えっ!?」


 初めて聞く話に思わず声が出た。


「一ヶ月前は名もなき陰キャだったあんたが、今では瑠汰の彼氏の三咲君として認識されてる」


 俺が三咲君として認識され始めたという事は。

 一つ懸念が生まれた。

 それすなわち。


「俺達の関係ってバレてないよな……?」


 恐る恐る聞いた。

 正直瑠汰の事が好きって感情でいっぱいになり過ぎて、その後の本来一番やらかしてはいけない事への配慮が欠けていた。

 もしかして今ヤバいんじゃ……

 そう思ってビビりあがったが、萌夏はにやりと笑みを浮かべる。


「全然大丈夫だよ?」

「……」

「あんたの認知度が上がっても、私との共通点がなさ過ぎて疑う余地もないっぽい。だってあの亜里香すら何も言って来ないんだもん」


 喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。

 やはり彼女にキャリーされているだけで、俺自体のスペックは低いからな。

 はぁ……

 杞憂に過ぎなかったとは言え、精神をごっそり削られた。


「なんで残念そうなの? お兄ちゃん?」

「お前って本当に嫌なタイミングでその呼び方してくるよな。可愛くない」

「妹に何求めてんの? きっも。そんなだから友達はできないんだよ」

「うるせえ。でも確かにそうだな。超絶可愛い彼女もいるんだった。お前と違って胸もデカいし」

「ッ! 殺してやる!」


 血相を変えてこちらに向かってくる妹。

 やばい、思ったより踏みぬいた地雷は強力だったらしい。


「ちょっ、こっちくんな!」


 再びベッドに乗ってくる萌夏を押しのけようと手を伸ばす。

 しかし、暴れるもんだから一番触れてはいけないところに当たった。


「あ」

「……」


 頭が真っ白になった。

 妹の胸に触れるという行為に対する嫌悪感と、初めて触れるそれに対するドキドキで無になった。

 この前風呂で見た時も思ったが、意外とあるし触ると柔らかいものなんだな。

 指になじむ感覚が気持ちいい。

 って違う!


 数秒間静かだった世界に時間の流れが戻る。

 目の前にはどす黒い殺気を漏らす美少女。

 何故か珍しくコンタクトを着けたままなのが、学校での姿を思い出させて嫌な感じだ。


「……マジでごめん」

「ッ! ……なんで。なんで初めてがあんたなの!? 絶対許さないから!」

「や、やめろぉぉ! ベッドが壊れる!」


 顔を真っ赤に染めてベッドをきしませる萌夏に、なすすべなく殴られる。

 さっきの事があるから変なことはできないし最悪だ。


 なんて二人でドタバタやっていると。


「夜なんだから静かに……って、え?」


 現在俺は萌夏に押し倒されているわけで。


 ガチ困惑する母親に二人で弁明するのには時間がかかった。

 やはり双子の妹なんてロクなもんじゃない。

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