第57話 ただのデレデレ

 文化際のグループは出席番号順に割り振られたもの。

 確かにそれで固定というのは、一定数から不満が出るかもしれない。

 実際、俺も文化祭準備の始めの方は息が詰まっていたのを思い出す。

 修学旅行といえば人生に残る思い出だろうし、仲が良い人同士で組む方がいいよな。


「えー、どうしよう」


 困ったような声を漏らす委員長。

 と、そこでみんながそれぞれに話し始めた。


「な、なんか嫌な感じになってきたな」

「そうだな」


 瑠汰の声に俺は頷く。

 俺同様に、彼女にも友達らしきものはできていない。

 ただ容姿や持ち前の愛嬌も相まってか、みんなから温かく受け入れられてはいる。

 以前の存在すら認知されているか危うい状態だった俺よりはマシだ。


 しばらく瑠汰と一緒にクラスを傍観していると、与田さんが歩いてきた。


「ね、この前のメンバーで良いよね? 渡辺と元原、それに山野さんからもおっけーもらったから」

「あ、あぁ」


 頷くと、彼女はため息を吐いた。


「なんか班長を七人決めて、そこからメンバーを班長が指定するシステムになりそう」

「まるでドラフトだな」

「私に任せたまえ。最強の球団を作ってあげますとも」


 適当な言葉にもしっかりノってくれる。

 こういうところがコミュ力なんだろう。


「まぁ瑠汰ちんは三咲君さえいればいいんだろうけど?」

「ちょ、ちょっと何を言うてまんねん。あかんよそれは」

「だからなんなんだそのエセ関西弁は」


 関西圏に住んだ経験なんてないくせに。

 それに意味の分からない不自然感満載の使い方だ。


 ただ厄介なのは、これで可愛いところである。

 標準語使いがイキって使用する関西弁には鳥肌が立つのに、何故か瑠汰のは許せてしまう。

 くそ……これが彼女か。


「三咲君、なんでニヤニヤしてるの?」

「えっ!?」

「無意識だったの? 愛されてるね瑠汰ちん」

「えへへ」


 照れ笑いを浮かべる瑠汰。

 と、与田さんはため息を吐いてジト目を向ける。


「あーぁ、おもんな。それじゃただのデレデレだよ瑠汰ちん。前みたいな狂気はどこに行ったの?」

「きょ、狂気? 何の話だ? 人聞きが悪すぎるんだが……」

「うーん。なんかイラつく。三咲君」

「俺ッ!?」


 唐突にヘイトを向けられた俺氏。

 意味が分からない。


「おもちゃを取られた気分」

「……」


 以前の瑠汰の扱いを見るに、なんとなくわからなくもないが、本人の前で堂々とおもちゃ宣言するのはどうなんだろう。


「ってか、体験入学の大役頑張ってね二人とも」

「ぴゃ」


 今朝の事なのに忘れていたのか、おかしな声を漏らす瑠汰。

 そんな彼女を他所に与田さんは俺の胸に指を突き立ててくる。


「変な虫はちゃんと追い払うんだよ?」

「おう。当たり前だろ」

「このおっぱいは反則級の破壊力だからね~」

「ちょっ!」


 顔を真っ赤にする瑠汰。

 そんな顔をされると、つい視線が胸元に寄せられる。


 改めて見ても相変わらずデカくて柔らかそうだ。

 三年前の絶壁からは全く想像できなかった成長ぶり。

 まるで栄養の届かない土地に豊富な果物が生ったよう。


 気持ち悪い表現に我ながら苦笑が漏れるが、しかしすぐに気づく。

 俺は瑠汰の彼氏だ。

 そりゃ彼女を所有物だと思うだとか、そんなクソ人間ではないが、やはり男女の付き合いといえばそれなりに期待するものがある。

 ……うーん。


「ちょ、マジ見すぎだろ。流石に恥ずかしいんだが?」

「あ、あばばばばごめん!」


 変なことを考えていた後ろめたさからか、馬鹿丸出しな反応をしてしまった。

 と、瑠汰は照れながらもにやける。


「そ、そんなに気になるんだ?」

「あ、いや……」

「……ガチ照れやめろよ」


 そんな事言われましても。

 初心な自分に嫌気がさすが、割り切るしかない。

 だって童貞だもの。

 これは男ならば皆が初めは通る道だと信じたい。


「こほん。そういうのは学外でお願いします」

「「あ」」


 気付けば与田さんを放置して二人の世界に浸っていた。

 そして今のやり取りを全部見られていたことを理解し、二人で悶えた。


 そんな俺達に与田さんはため息を吐く。


「まぁいいや、それじゃ決めてくるね~」


 彼女はそのまま去っていった。


「な、なんだかんだ安心できるメンバーでよかったな!」

「そうだな! よかった! やったー!」


 二人しておかしなテンションで騒ぐバカップル。

 そんなこんなで自主研修の班が決まった。

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