第56話 修学旅行班決め
その日の放課後はすぐに下校というわけにはいかなかった。
『修学旅行班決め』
でかでかと黒板に書かれた文字に、クラスは騒めく。
教壇に立った学級委員長が口を開いた。
「明日の七限のHRで修学旅行の話が出るんだけど、その前に班を決めておけと言われました。ちなみに自主研修の班です」
思えば九月の下旬に入りかけているわけで、修学旅行は十二月初週。
なるほど、もうそんな時期なのか。
なんて感慨深く思っていると、隣からがたがた椅子や机が揺れる音がする。
「おい、何してるんだよ。はしゃぎすぎだろ」
「は、はしゃぐ? 馬鹿な事言うなよ。修学旅行の班決めだぞ? 震えずにはおられん」
そういえばそうか。
俺達ぼっちには地獄イベントかもしれない。
「ビビってるのか?」
「び、ビビってねぇし。日和ってる奴いねーし?」
「なんで疑問形なんだよ」
「き、君こそ過去のトラウマとか平気なのかよっ!」
さり気なく自分にはトラウマがあることを漏らす瑠汰に、俺も考える。
思い出すのは三年前の中二の修学旅行。
「前は完全なぼっちじゃなかったからな。そんなにトラウマは……ない」
「何最後の間」
「なんでもない」
若干嫌なモノを思い出したが、すぐに忘れる。
過去は振り返らない主義なのだ。
「なんでそんなに落ち着いてるんだよ……」
「仕方ないだろ。受け入れるしかない。どうせ自主研修なんて二日一緒に居るだけだしな」
「……割り切ってるんだな」
高校生活をぼっちで過ごすというのはそういう事だ。
実際去年の教育合宿も文化祭も何もかもぼっちでやってきたわけで、そこのところは既に諦めている。
けどまぁ、今年はそういうわけにもいかないか。
目指せ脱陰キャという目標のためにも、ある程度の人付き合いはやっていこう。
それに文化祭で学校行事に参加する楽しみも覚えた。
思い出すのはあの充実感。
あれ、ちょっと楽しみになってきたぞ。
「そういえばここの学校の修学旅行ってどこに行くんだ? 県立だから国内だとして、北海道? 沖縄? 夢の国にも行けちゃう感じ?」
「お前ってディズニー好きだったっけ?」
「なんとなくだよ」
でも確かに、修学旅行といえばテーマパークで終日遊び倒しだよな。
しかし瑠汰よ。
忘れるなかれ。
ここは偏差値74のプライド高き進学校である。
「夢の国なんて行かないぞ。自由といったら二日間の東京自主研修のみ」
「それま?」
「あぁ。草も生えないだろ?」
「マジ焼け野原だわ」
よくわからない言葉を漏らしながら絶望する瑠汰。
心なしか瞳の色も黒く見える。
「ってかなんで修学旅行の日程なんか知ってるんだ? 友達もいない君が」
「……事情通が家に居るから」
「あ」
サラっと傷口に塩をぬりぬりしてくるところは触れない。
そういう奴だ。悪気はないんだろう。
「なんか萎えてきた」
「精々ホテルで隠れてゲームするのが楽しみだと思っておけ」
「……いつもと変わんないんだが」
進学校の修学旅行なんてそんなもんだ。
とまぁ、俺達がそんな話をしている間に学級委員長が話を進める。
「うちのクラスが四十二人だから、六人班を七個作ります。男女均等にとのことです」
「要するに文化祭と一緒でしょ?」
「うん」
与田さんの声に頷く委員長。
その反応に与田さんはあっけらかんと言った。
「じゃあ文化祭と一緒でよくない?」
ビクッと隣の奴が肩を震わせたのが分かった。
なるほど、瑠汰にとってもそれが一番だろうな。
そして、よく考えれば男女で組を組めるのか。
俺も瑠汰と一緒に回れるという事になる。
与田さん、よく言ってくれた。
しかし反対に抗議の声を上げる奴もいる。
「えー、やだわぁ。お前はグループに仲良い奴ばっかりいるからいいかもしれねーけどさぁ……」
心底だるそうに声を上げるのはバスケ部の酒井君。
俺の結構苦手な奴だ。
というのも去年同じクラスで教育合宿の班がかぶり、迷惑そうな顔を向けられたことがある。
よくいる嫌な方の陽キャだ。
「えー、じゃあどうする?」
話し合いはなかなか終わらない。
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