第52話 一区切り
思えば前から『俺の事好きなのかな?』なんて思う言動はあった。
ありえないくらい仲が良かったしな。
普通に考えて、やっぱりなんとも思っていない男子を夜に家には招かないだろう。
そして思い出す瑠汰の発言。
文化祭準備の百均への行き道で聞こえた『まるでデートじゃん』的な発言も、聞き間違えではなかったのか。
難聴……確かにそうだ。
今思えば、俺ってかなりヤバいのかもしれない。
「なぁ瑠汰。耳鼻科通院した方がいいかな? 俺」
「え? なんか言った?」
「お前も一緒に通うか」
恒例となった二人の下校道。
俺の隣には上の空な瑠汰が歩く。
教室でのパフォーマンスを終えてプライベートな時間になった。
付き合い始めたというのに、特に新鮮味はない。
当然か。三年前も付き合ってたんだもんな。
それに、最近だって両想いだったわけだから、距離感は変わらないか。
告白を終えた後は色んな人からお言葉を貰った。
まずは与田さんからシンプルに『おめでとう』と。
渡辺君には昨日の事を謝られ、そして元原君には付き合うのが遅いと少し呆れられた。
また、山野さんも珍しく『おめでとうございます』と話しかけてくれた。
意外な人からも言葉を貰った。
鳩山さんは『あーぁ、三咲君タイプだったんだけどなぁ。瑠汰ちゃんはあたしの分まで幸せになってね』とよくわからないノリで、瑠汰を困らせていた。
そしてあのお方からも。
学校一の美少女による完璧すぎる笑顔・祝辞を頂いた。
「えへへ。鋭登ってアタシの事好きだったんだ?」
「……おう」
「全然わからなかった。友達としか思われてないと思ってたし」
「俺もお前がまさかそういう目で見てくれてるとは思わなかった」
傍から見れば煩わしかっただろう。
どう考えても両想いなのに、お互いが消極的過ぎてくっつかない。
飛んだ茶番だ。
渡辺君や元原君が色々言っていたが、全部こういう事だったのか。
「なぁ」
「ん?」
「アタシさ、明日から普通のコンタクトに戻そうと思うんだ」
「え!? でもお前、目立ちたくないって……」
俺が言うと、瑠汰は苦笑する。
「今日あんな大勢の前で告白した奴が、今更意味わかんない事言うなよ。既に十分目立ってるんだが?」
ぐうの音も出ない。
「ごめんな。やっぱあんなとこで言うべきじゃなかったよな」
「……別に、気にしなくても良いし」
「正直告白するのも悩んでたんだ」
俺は歩くのを止めて立ち止まる。
そして瑠汰を向くと、彼女も俺を向いてくれる。
「また卑屈だなんだと言われるかもしれないが、俺は今の俺が瑠汰に釣り合うと思ってないんだ。その……少しはお前の横に堂々と立てるような男になりたくてさ。それで文化祭とか、色んな人と関わるようにしたんだ」
「……ランク上げって奴か?」
「まぁそんな感じだ」
ゲームチックな言い回しに思わず苦笑した。
と、切り替えて話を戻す。
「でもさ、どうしても嫌で。お前が他の男子と付き合ってるとこ想像したら、苦しくって。だから急だけど、今日告白したんだ」
「……ふぅん」
「ごめん。キモいよな」
「クソキモいな……でも、アタシもおんなじこと思ってたんだぞ」
瑠汰は口調とは裏腹に優し気な笑みを浮かべる。
「君が与田さんや鳩山さんと話す度に同じこと思って辛くなってた。だって……大好きだから。おかしいよな。別れたはずなのに、ずっと鋭登に一番に見ててもらいたかったんだ。鋭登もあたしも、キモいよ」
「……そうか。でもいいな」
「うん。アタシ達らしい」
相変わらず似た者同士だ。
脹脛やケツを蹴られてたのも、そういう事か。
やっぱり俺の事が好きだっただけだったんだ。
ただ、その表現が下手くそなだけで。
「でも鋭登は凄いよ。脱陰キャなんて、アタシには無理」
「そうか?」
「うん。ずっとグループでの鋭登とか見てたけど、凄いなーって思ってた。まぁそれで他の女の子と仲良くなられたときは、ちょっとイラついたけど」
「……」
脱陰キャを目指すに踏み切ったのは、瑠汰に良いところを見せようと思ったから。
でも根本は違う。
あいつを。
あの嫌味な双子の妹を見返してやろうという気持ちがあった。
「対戦よろしくな」
「もちろん。二連戦目だな」
「おう」
三年越しの再戦。
これほど幸せなことはない。
隣を歩く最高の笑顔がまた自分だけに向いているという現実に、俺はこぶしを握った。
◇
【あとがき】
お世話になっております、瓜嶋 海です。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。皆さまの応援コメントなどが励みになって毎日二話更新で一章を完走できました。
一応本作はここで一章の区切りと致します。
と言っても全く話は完結してませんし、回収していない伏線も大量にあるので、もちろん今後も連載を続けていきます。
対戦よろしくお願いします(╹◡╹)
では明日の更新でまた!
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