第51話 対よろ

 翌日朝登校すると、瑠汰はまだいなかった。

 なのでいつどこで話をするか考える。

 すると。


「おはよう、三咲君」

「与田さん? おはよう」


 朝一でわざわざ俺の席までやって来た与田さんに首を傾げる俺。

 と、彼女はヒソヒソ聞いてきた。


「決心はついたかな?」

「なんの……?」

「瑠汰ちんに告白する決心」

「……」


 まさか俺の家には盗聴器が仕掛けられているのだろうか。

 ビビりながらも頷くと、彼女は笑う。


「よしよし。男の子だね~」

「そんな事を聞きに来たのか?」

「いやいや、どうせ告白するならみんなの前でやる方がいいし、場を整えようと思いまして」

「えっ!?」


 衝撃的な発言に思わず声をあげるが、与田さんは真面目そのものだった。


「裏でひっそり伝えても意味ないでしょうが。牽制にならない」

「お、おう。確かにそうだな」

「今日の放課後一番にしなさい。他クラスにもなんとなく匂わせて集客しておくから」

「客って、ショーじゃあるまいし」

「いや、ショーだよ。自分が主人公だと思い込むのがカギだね」

「……」


 それっぽいような、なんか違うような。

 でもそんな事よりも問題がある。


「瑠汰は嫌がるだろ。見世物にされたくないと思うけど」


 みんなの前で好きだと伝えられるのは恥ずかしさとか、色々あるだろう。

 そして基本的に俺と同様に閉鎖的な奴だ。


「あいつが嫌がるようなことはしたくない」


 はっきりそう言うと、与田さんは笑う。


「嫌がるかどうかは三咲君の腕次第でしょ」

「……」

「じゃ、頑張ってね~」


 これまたとんでもないミッションを課された。

 一気に重くなる背中に俺は思わず顔をしかめる。

 でも決めた事だ。

 そうして一日が始まった。




 ‐‐‐




 瑠汰とはその日、上手く会話ができなかった。

 というのも俺が緊張してしまって、おかしな感じになってしまった。

 そうして放課後がやって来る。


 昨日は別々に下校した。

 今日はどうするのだろうと瑠汰がチラチラ見てきているのが分かる。

 俺は覚悟を決めて言った。


「ちょっと話できるか?」

「え、今?」

「うん」

「別に君との会話ならいつでもどこでも全然いいけど……」

「ありがとう」


 今、俺は多分人生で一番緊張している。

 月並みだが心臓が口から飛び出しそうだ。

 バクバクとなる鼓動を落ち着かせるよう深呼吸する俺。

 そんな様子に瑠汰も何かを感じ取る。


「え、ちょっと、え?」

「瑠汰」


 俺は立ち上がる。

 ふと廊下を見ると、大量のギャラリーが見えた。

 本当に与田さんが集客してくれたらしい。


 よく見ると鳩山さんや、そして我が双子の妹の姿もしっかり確認できた。

 明確に『やれ』という意思を感じさせる瞳で俺を見ている。

 見せてやろう。

 学校一の美少女の兄の底力を。


「俺は瑠汰が好きだ」

「ッ!?」

「その、友達とかじゃなくて、一人の女性として、好きです。恋愛感情の方の、好きです」

「え、え……嘘」


 瑠汰はそのまま顔を覆った。

 そして机に自分の頭を思いっきりぶつけた。


「は!? だ、大丈夫か!?」

「平気っ! 痛いから! 夢じゃない!」

「はぁ?」


 相変わらずふざけた奴だ。

 人が本気で告白してるって言うのに……でも、そういう所も含めて大好きだ。

 彼女の乱れた前髪と、満面の笑みを見て俺の緊張は解けた。


「今まで隠しててごめん。この前再会してからずっと、瑠汰の事が好きだった。話をするたびに幸せだったし、なによりお前の笑顔がマジで好きなんだ」

「え、えへへ。そ、そっか……」

「今まで、友達みたいな顔して接しててごめん。俺はお前を、異性として意識してた」

「うん……」


 瑠汰は俺を見る。

 若干涙目で、いつもより潤った瞳を上目遣いで向けてくる。

 だから俺は言った。


「瑠汰、大好きだ」


 どっとギャラリーが沸いたのが分かった。

 後ろで拍手喝さいが聞こえる。

 どうやら上手くいったらしい。

 かなり心配だったが、よかった……

 しかし、本当に大事なのはここから先だ。

 俺はそのまま頭を下げる。


「俺と付き合ってください」


 魂を込めた告白。

 言い終わってすぐにやってしまったという感覚に襲われる。

 もう後戻りはできない。


 返事がなかなかこない。

 長い沈黙に耐えきれずに顔を上げると、おかしな顔をした瑠汰がいた。


「……なんで泣いてるんだ?」


 一瞬そんなに俺の告白が嫌だったのかと背筋が凍りかけたが、彼女の涙の下にキモいくらいの笑顔が確認できたため、そうではないと思う。

 瑠汰は涙を拭いながら、呟く。


「よかった」

「え?」

「……嬉しい」

「そ、そうか」


 珍しく普通の反応をされて面食らうが、これは……成功とみても良いのか?

 続きの言葉を待っていると、瑠汰は口を開く。


「アタシも、鋭登の事が、その……す、す……好きでした」

「え?」

「え?ってなんだよその反応。おかしい事じゃ、ないだろ」

「……」


 今なんて言ったんだこいつ。

 俺の事が好き?


「いつから?」

「再会してから、ずっと」

「え? ……え?」


 するってぇとなんだ。

 俺達はいわゆる両想いだったわけか?

 いや、両者ともに互いの想いに気付いていなかったため、両片想いって奴か?


 って違う。

 名前付けなんてどうでもいいんだ。


 ふと後ろに群がるギャラリーを見ると、皆わかってましたと言わんばかりの表情をしている。

 まじかよ。


「じゃあこれから……」

「その、対戦よろしくおねがいします?」

「……おう」


 全くもってふざけているのか本気なのかわからない奴だ。

 照れ笑いを浮かべる瑠汰に、俺は苦笑した。

 締まらないが、とりあえずこうして付き合うことになった。

 実に三年ぶりである。





 ◇


【あとがき】


 本作はあと一話でとりあえず一章の区切りです。

 夜の更新は21時頃の予定です。

 よろしくお願いします。

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