第44話 瑠汰のお風呂

 瑠汰の家に着くと、既に二人はリビングでくつろいでいた。

 ただ、瑠汰も萌夏もさっきまで同様に外出用の服装なので、ちょっと打ち上げ感がある。


「ここ最近疲れたー。行事参加なんてロクにしたことなかったからな」

「ほんと鋭登そっくりだね」

「えへへ」

「誉めてないんだけど」


 素の萌夏と瑠汰が笑いながら話しているのを邪魔しないよう、部屋の隅に腰を下ろす。

 と、瑠汰が首を傾げた。


「なんでそんな端っこに行くんだ? こっち来いよ」

「妹と元カノにまでコミュ障発症し始めたの? 終わりじゃん」

「……」


 そう言われてもな。

 やはり女子二人と遊ぶってのはイレギュラーな感じだ。

 とりあえず近づくと、萌夏が口を開く。


「で、まず何する?」

「うーん。萌夏ちゃんは?」

「私はお風呂入りたい。どうせ寝ないでしょ?」


 今日は金曜日。

 そのため明日明後日は休日であり、別に寝なくとも支障はないのだ。


「お風呂かー。そうだな」


 瑠汰はそう言って立ち上がる。

 しかし俺を見て、困ったように笑った。


「え、えっと、鋭登も入るんだよな?」

「……あぁ」

「あはは。そうだよな……」


 泊りと言ってきたのは瑠汰なのに、恥ずかしくなったのか挙動不審に笑みをこぼし始めた。

 でも確かにそうだな。

 しっかり考えていなかったが、ここは一応女子の家だ。


「……家で入ってこようか?」

「いや、いいよ。ここで入っても全然問題ない」

「そ、そうか」


 若干いけないことを言っているような感覚に陥る。

 だって好きな子の家のお風呂に入るなんて、なかなかだろ。

 って違う。

 俺は友達として呼ばれているんだ。

 滅多なことは考えるな……


「じゃ萌夏ちゃん入ろ?」

「一緒に入るの?」

「裸の付き合いって奴だよ」

「……はいはい」


 呆れたように頷く萌夏。

 と、彼女は振り返って俺の方を冷ややかな目で見た。


「絶対覗かないでね」

「お前の裸なんて覗くわけないだろ。ってか一昨日は自分から全裸でツッコんできたくせに」

「ちょっと! それ早く忘れて!」

「無理だろ」


 そんな会話に、瑠汰は萌夏を見る。


「鋭登に全裸凸したの?」

「別に、寝ぼけてただけで……」

「ふーん、本当に?」


 ジト目を向ける瑠汰。

 珍しく攻撃的だ。


「はぁ……そんなに羨ましいなら後で瑠汰もやればいいじゃん。それに私のはマジで事故。誰が実の兄の、それもあいつの粗末なモノを見たいの」

「羨ましくなんてないし! アタシはその、ちょっと興味はあるけど……っていやぁぁぁあ!」


 興味はある?

 とんでもない事を口走る瑠汰に俺は目をひん剥くが、彼女も自身の失言に顔を赤くして悲鳴をあげる。


「ほら、行くよ。頭冷やしなさい」


 萌夏に押し出されるように部屋から出ていく瑠汰を眺める。

 と、萌夏が一人で戻ってきた。


「あのさ、マジで謝るから本当に忘れて」

「あ、あぁ」

「じゃ」


 珍しく頭を下げてきた。

 顔も真っ赤だし、なんだかなぁって感じだ。

 まるで俺がいじめてるみたいじゃないか。

 確かに年頃の女子が全裸を見られるのはショックかもしれないけど。


 しかし、そんな反応をされると逆に思い出す。

 本当に同じ遺伝子から生まれたのかと疑うほどのきめ細かい肌――ってだから思い出すな。

 気持ち悪くなってくるだけだ。


 俺は退屈になったので立ち上がった。

 ふとデスクを見ると、この前隠そうとしていたおっぱいマウスパッドが放置されているのが見える。


 せっかく掃除しても、こういうのを収納しておかないと意味がないだろうに。

 やはりどこかしら抜けている奴だ。


 そしてそこで思い出した。

 こいつの部屋にあるクローゼットの存在を。


「何が入っているんだ……?」


 現在ドアの外ではキャッキャウフフと服を脱ぎ合う女子二人の声が聞こえる。

 好きな子への興奮と、実の妹もいる事への残念さが入り混じったよくわからない感覚だ。


 しかしそれを超える未知への興味。


「でもダメだろ……」


 なんとか自分を律して部屋の中央に座り込む。

 と、浴室の扉が開く音が聞こえた。


 それは現在瑠汰が裸だという証明であり。


「……」


 物凄く顔が熱くなってきた。

 なんで俺は泊りに来てしまったんだろう。

 というか、萌夏がいてくれてよかった。

 流石に自分がゴミクズ人間への一線を越えないとは信じているが、何か起きた時には手遅れだ。

 しかし、あいつがいれば事件は起きない。


「そういう意図なのか?」


 俺と遊びたいけど、でも二人きりでは何が起きるかわからない。

 だから萌夏というボディーガードを置いたと。

 なるほど。


 俺は悶えながら二人の風呂を待った。

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