第43話 新ファイター参戦!

「と、泊まる?」


 一体何を言ってらっしゃるんだろうかこの子は。

 何かの聞き間違えだと思って苦笑するも、彼女は照れ笑いを浮かべるだけ。

 否定をしてくれない。


「え、マジで?」

「べ、別におかしなことじゃないだろ? と、とと友達だし?」

「……そうか。そうなのか?」


 俺に友達だからという説得は無理があるだろう。

 だって友達がいないから、男女の友達が泊まりなんてするのかという事を知らないんだもの。

 それなのに。


「そ、そっか……じゃあ別にいいか」

「うん」


 何を言っているんだ俺は。

 夜なのでハイになっているのか知らないが、意味の分からない返事をしてしまった。


「えへへ。じゃあ泊まる?」

「……でも着替えとかないからさ」

「あ、一回帰るか。じゃあ待ってる」

「おう……」


 俺は短く返事をし、マンションを後にする。

 フワフワとした足取りで、いまいち地の感触がない。


 それにしても、瑠汰とお泊りか。

 いけない妄想が加速し、頭がぼーっとする。

 楽しみで仕方がない。


「っていうか友達の家に泊まるなんて、人生初だな」


 何気に自分の悲しい過去を思い出し、少し萎えた。



 ◇



 違和感を覚えたのは自宅に帰ったすぐ後の事だった。


「どこか行くのか?」


 リビングでは妹がバタバタと準備をしていた。

 彼女も打ち上げ終わりで帰ってきた直後だろうに、またどこかへ外出する気なのだろうか。

 と、間抜けな顔で尋ねる俺を萌夏は鼻で笑う。


「友達の家に泊まり」

「へぇ……奇遇だな。俺もなんだよ」

「知ってる」

「……へ?」


 最低限の下着の替えや必需品をまとめる俺に、萌夏は平然と言ってのけた。


「私も今から瑠汰の家に泊まりに行くの」

「はぁ!?」

「あ、二人きりだと思って浮かれてたの? ごめんね」

「……」

「でも帰ってきた時の鼻の下伸ばした顔、マジでキモかったよ。何する気だったの?」

「べ、別に何もする気なんて……」

「ふぅん」


 若干引いたような目つきで見てくる萌夏。


「え、今回の泊りって……」

「元々瑠汰の提案。実は数日前から一緒に遊ぼうって言われてたの。通話しながらゲームしたりはするけど、実際に会って遊びたいねーって話しててさ」

「俺が聞いたのはさっきが初めてだぞ」

「そりゃただ単に瑠汰が言い出せなかっただけでしょ。ほら、普通にコミュ障陰キャだから」

「お前、瑠汰にもボロカス言うよな。『兄の元彼女なんだから最低限の敬意は払う』的な事言ってなかったっけ?」

「瑠汰に誕生日聞いたけど早生まれらしいじゃん。私達は七月だから現在年上ってわけ。そんなこと考えてたらもうめんどくさくなっちゃって。それに兄の元カノじゃなくて、今は私の友達だし」


 誕生日まで把握しているとは、どんだけ仲良くなってるんだこいつらは。

 知らないうちで妹と元カノが繋がっていて怖い。


「じゃあ瑠汰はお前と俺と三人でお泊り会をする気だったのか」

「うん。個別打ち上げって話らしいし」

「でもあいつ、お前もくるなんて一言も言わなかったぞ?」

「私が口止めしたの。もしかしたら私の存在を喋っちゃうとあいつ来ないかもしれないよって言っておいたから」

「……」


 先程までの俺のドキドキわくわくな妄想時間を返して欲しい。

 ちょっと期待してたのに。

 いや、別に襲う気だったわけではありませんよ? ほんとだよ?

 何か手を出すにしても、合意の上でなければな。


「絶対今キモいこと考えてるでしょ?」

「例えば?」

「……瑠汰とその、おぇ」

「自分で話題出して想像した挙句吐くな」


 失礼極まりない奴だ。

 俺にも瑠汰にもな。


 そして思い出したが、瑠汰の部屋がやけに部屋が綺麗だったのはこのためか。

 最初から俺達を呼ぶつもりだったから、わざわざ掃除していたのだ。

 そういえば呼ばれたときも二人きりで、とは言われてないし。


 と、荷物の整理が一段落着く。

 母親には既に伝えており、物凄く嬉しそうな顔をされた。

 同時に萌夏も泊りの連絡をしていたが、彼女には微笑んで頷く程度だったのにも関わらず、だ。

 どれだけ俺がぼっちな事を心配されていたのやら。


「ってか、お前は俺がいるのに嫌じゃないのかよ」

「別に? もうそろそろ作戦会議でもしておきたかったし」

「作戦会議?」

「三咲兄妹の秘密をこれからも守っていくための方針決議、そして瑠汰への口留め更新」


 口留め更新、また壁ドンでもするのだろうか。

 そんなこんなで妹が先に玄関に出る。

 目的地は一緒なのに、俺達は同時に行動できないのだ。


「あ、そういえばさ」

「なに?」

「さっき瑠汰の事を友達とか言ってたけど、本人にも言ってやれよ。絶対喜ぶからさ」

「うん」


 俺達ぼっちはその一言で昇天するからな。

 俺は妹が家を出た十分後に、瑠汰のマンションへ向かった。

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