第42話 もうちょっと一緒に居ようよ
「は? なにしてるんだ? え、嘘だろ」
大量の疑問符を投げつけてくる瑠汰。
俺は与田さんの肩を掴んで引き離す。
と、与田さんも佇まいをなおして、瑠汰に向き直った。
「瑠汰ちんおかえり」
「なにしてたの? え、なに?」
与田さんの声をガン無視で、物凄い動揺を見せる。
視線は俺と与田さんを行ったり来たり。
「なーんにも。ただ三咲君がぼーっとしてたから、驚かせてあげようと思って」
「……ほんと?」
「なになに? 瑠汰ちんこそどんな勘違いしてたの~?」
俺と与田さんの間の席にすっぽりと戻ってきた瑠汰にダル絡みする与田さん。
「私が三咲君にちゅーするとでも思った?」
「ッ!?」
「あ、顔赤くして可愛い~」
煽られる瑠汰。
と、続けて与田さんはとんでもない事を言った。
「大丈夫だよ~。三咲君は瑠汰ちんとしかキスしたくないってさ」
「ッ!? ほんとに!?」
「なんでちょっと嬉しそうなんだ。言ってねえし」
俺がすぐさま否定すると残念そうに肩を落とす瑠汰。
意味が分からない。
というか、なんて嘘をぶち込んでくるんだこの与田とかいう女は。
「あはは。相変わらず面白いね、瑠汰ちんは」
「ひ、人の事をおもちゃみたいに言うな」
「あれ、怒った?」
「むぅ」
おちょくられてご立腹なのか、与田さんから顔を背ける瑠汰。
しかし彼女が向いた先には俺がいる。
不機嫌そうな顔を眺めていると、眉をぴくぴく動かしながら言われた。
「ずっと見られてると居心地悪いんだが」
「じゃあ俺の方向くなよ」
「アタシは君の顔を眺めてたいんだよ」
「そんなに面白い顔してるか?」
「……うるさい」
ため息を吐く瑠汰に、後ろから与田さんが肩に手をかける。
「瑠汰ちんも前途多難ですな。難攻不落ですよ彼は。いや、難聴不落?」
「何の話をしてるんだ? アタシは別に……」
「おや、瑠汰ちんそんな事言って良いのかな? 三咲君にキスしちゃうぞ?」
「ぬぅぅぅぅぅ、この人でなしめがぁぁぁぁ」
「あっはは。やっぱおもしろ。マジ可愛い」
「あ、またそうやって! すぐおっぱい揉むな!」
よくわからない会話と共に二人きりの世界へ入って行ってしまった。
暇なので俺は正面に顔を向ける。
「肉焼かないのか? 焼き肉屋に来てるのに肉食べないと勿体ないぞ」
「三咲、お前は本当にすごいな」
「なにが?」
「色々だよ」
呆れ顔で褒めてくる元原君。
よくわからないので一応『ありがとう』と言ったらさらにため息を吐かれた。
意味が分からない。
「なんかいいなぁ三咲君。オレも彼女つくろうかな」
「なんだオレもって。俺は彼女なんていないぞ」
「はいはい」
「どういう反応だよ」
またもよくわからない反応をされる。
と、そんなこんなで俺達は食事を始めた。
‐‐‐
打ち上げはその後食事を終えてお開きとなった。
陽キャ軍団はそのままゲーセンやらボーリングやらで遊ぶらしい。
俺、というか瑠汰は誘われていたが、断っていた。
「楽しかった。打ち上げって意外といいもんだな」
「そうだな。世界が広がったよ」
「ありがとう鋭登。君が連れて来てくれたおかげだから」
「ははは。礼を言う程じゃないだろ」
帰り道で。
初めはサボる気満々だったが、実際に来てみると楽しかったようで、瑠汰は嬉しそうに笑う。
「今日も色んな人に褒められちゃった。鋭登が選んでくれた服のおかげ。全部君のおかげだな」
「なんだよ急に。そんなに言っても何も出ないぞ?」
「えへへ。いいんだよ別に」
「ふぅん」
謎のハイテンションに首を傾げるが、まぁいい。
と、話しているうちに俺は瑠汰を家まで送り届ける。
時刻も九時を過ぎているため、かなり遅い。
だから名残惜しいが、別れを告げて帰ろうとした。
しかし。
「ちょっと待って」
「え?」
何故か腕を掴まれ、帰宅を阻止された。
そして彼女は若干赤い顔に不自然な笑みを張り付けて言う。
「今日、泊って行かない?」
「……え?」
「も、もうちょっと、一緒に居ようよ。いや、べべべべ別にいかがわしいお誘いってわけじゃないんだが」
「……へ?」
その時、俺は恐らく世界一間抜けな声を漏らした。
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