第41話 友達
打ち上げ会場に着いたのは午後六時半近く。
意外と服選びなどをしているうちに時間が過ぎていたらしい。
すでに店の前にはちらほら生徒がいた。
俺達が到着すると一斉に視線を集める。
実際には俺ではなく、瑠汰への注目が凄い。
「や、やっぱり変なのか?」
「そんなことない」
ビビってそんな事を聞いてくる瑠汰に俺は苦笑する。
と、しばらく待っているとぞろぞろと集団がやって来た。
「やぁやぁ」
先頭を歩いてくるのは与田さん。
その後ろに男女それぞれうちのクラスの陽キャラがいた。
一緒に何かしていたのか、わざわざ集まっていたのか。
どちらにせよ仲の良い人たちだ。
与田さんは店でなく、脇でひっそりと立っていた俺と瑠汰の所に真っ直ぐ来た。
「ん~、よく連れてきた三咲君」
「任せろよ」
「それにしてもガチかわだね。やっぱ瑠汰ちん最強」
「そ、そう?」
「うんうん。でも今日はカラコンなんだ?」
「あ、まぁ……」
会話が上手く弾まない。
最近は与田さんや同じグループの奴と会話できてたのに、不思議な話だ。
ただまぁ原因は与田さんの格好かな。
学校外の私服で会うと緊張するってのは少しわかる。
にししと笑う与田さんはスマホを確認した。
「もうそろ入ろっか、全員いるよね?」
そうして打ち上げが始まった。
◇
「それじゃかんぱーい」
「「いえぇぇい」」
与田さんの合図でテーブル席の俺達はジュースが入ったグラスを合わせる。
「ごくごくごく……ぷはぁぁぁ。やっべ、五時間ぶりくらいの水分だわ」
「お前死ぬぞ」
「しゃーねーだろ。サッカー部の先輩に体育祭の片付け押し付けられてたんだよ」
「片付けなんて一瞬で終わるだろうが。すべては筋肉不足が原因だ。飯食って筋トレしろ」
「うへぇぇ出た出た筋肉馬鹿」
向かいの席には嘆く渡辺君に馬鹿笑いしながら腕まくりする元原君がいる。
六人のテーブル席であり、渡辺君の横の壁側には山野さん。
そして。
「瑠汰ちん、どれから焼く?」
「いや、与田さんが好きなの焼いてくれよ」
「いえいえ~。主役はあなたですから」
「主役なんて滅相もございませんですわなんだが?」
相変わらず日本語以外の言語でコミュニケートを試みる瑠汰に、グイグイ行く与田さん。
隣ではそんな光景が広がっている。
そう、この打ち上げ、まさかのグループ別で席を取っていたのだ。
流石は与田さんか。
仲良い子と一緒になっていいよーなんて言われたら困るからな、特に俺と瑠汰が。
トイレと言って瑠汰が逃げ出した隙に俺は与田さんに言う。
「ありがとな」
「なに? 席決めの話? 瑠汰ちん呼ぶんだからそれなりに考えるよ」
「お、おう……」
「まぁ三咲君さえ隣にいればいいんだろうけど、まぁ文化祭の打ち上げなんだから、このメンバーが妥当っしょと思いまして」
「違いないな」
しかしやはり計画的な席指定か。
与田さんは気が回るし、ほんとに良い人だな。
瑠汰の性格もかなり把握してくれている。
「んふふ。三咲君もおつかれ~」
「おう」
「三咲君には……あれ? 具体的に何してもらったっけ?」
「おい……でも確かに思い浮かばないな」
文化祭中、基本的に実働部隊として前線に立っていたが、元が瑠汰の話し相手という事もあり、特に貢献した覚えがない。
言葉を失っていると、与田さんが肩を叩いてくる。
「まぁいいんだよそういうのはっ! 三咲君も瑠汰ちゃんも、この六人がいたから成功したんだから!」
「そうだな、大繁盛だった」
「俺のお好み焼きに朱坂の接客、最強だな!」
「私は小銭に触れ過ぎて帰宅後大変でした。どれだけ洗っても手からお金の匂いが落ちなくて」
萌夏とばかり比べていたが、他にも屋台など売り物はあった。
そう考えるとかなりの上位成績であることは間違いない。
与田さんはそのまま瑠汰がいた所まで、俺との距離を詰めてくる。
「私としては、三咲君がここまで会話できる人だと思ってなかったけど」
「そ、そうか?」
「うんうん。話題に上がらないレベルの空気君だったからね~」
「ぐっ!」
「ショック受けないでよ。少なくとも私は友達だと思ってるからさ!」
「ッ!?」
友達?
自然に出た与田さんの言葉に俺はフリーズする。
いつぶりだろうか、そんな事を言われたのは。
「どうした三咲、心臓発作か? 人工呼吸いるか?」
元原君が気持ち悪い事を言ってくる。
だがしかし、嬉しいな。
まさか高校在学中に友達ができるとは。
それもクラスのカーストトップから仲良くしてもらえるとは。
全ては努力の結晶か。
脱陰キャを目指し、積極的に動いた俺が生んだ結果だ。
ふと頭に萌夏の猫かぶり笑顔がよぎる。
あいつもこんな感覚なのだろうか。
努力して、友達ができて、自分の居場所ができて。
こういうのもありだな。
「ちょっと、マジで死んだ? 人工呼吸する?」
呆けていると与田さんが至近距離まで顔を近づけてきた。
瑠汰や萌夏ほどではないが、可愛い顔。
綺麗というよりは可愛さが勝つような、そういう顔だ。
って違う!
「や、やめ——」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……」
制止する俺の声を遮るのは壊れたような女の声。
恐る恐る通路を見ると、そこには先ほど一緒に選んだコーデに身を包んだ瑠汰が立っていた。
「な、何やってるんだ? え、やだやだ。いやぁぁぁぁぁ」
謎の悲鳴が上がった。
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